川崎市民ミュージアムの鉄道落語会(柳家小ゑん「鉄の男」)

 

駒次  / 鉄道戦国絵巻
小ゑん / 鉄の男

川崎市民ミュージアムは、発展著しい武蔵小杉からほど近い美術館である。といってもバスに乗る距離だが。川崎フロンターレの本拠地、等々力陸上競技場も同じ一画にある。
結構面白い企画をする施設だが、何年振りだろうか。
この日の鉄道落語会は無料だが、展覧会の入場料600円は必要。子供は入場料タダ。
この会の情報を知ったのは、届いて間もない東京かわら版6月号で。
柳家小ゑん師のツイッターにも、古今亭駒次さんのブログにも詳細はなかった。鉄道カメラマン中井精也さんの、写真展「ゆる鉄ワールド」の付随企画である。
私はテツというほどでもないが、鉄道写真に鉄道落語というのは逃せないですね。中井さんの写真展も観たことがあるし。
鈴本昼席でトリを取っている小ゑん師は、今日は寄席のほうはお休み。駒次さんは、早朝寄席に出たみたい。

家族で出掛け、会場には早めに行きました。
中井精也さんの写真展は感動ものでした。テツよりも、一般受けする内容だと思います。
ちょっと涙腺緩む写真が多かった。私も年だなあ。
三陸鉄道の復興記録はもちろん涙腺に来る。だが、なんてことのない、日常の都電荒川線の情景でググっと来てしまった。鉄道写真といっても、商店街で買い物をする遠景に、都電が映っているというもの。
うちの家族が写真展を見ているときに、駒次さんも見ていた。声は掛けない。

1日1鉄! 中井精也写真集

13時半から鉄道落語会開場。10分前にホールに行ったらすごい行列。まあ、270名と池袋演芸場より全然広いキャパなので、問題なかったけど。
落語のために入場料を支払い、すぐに並んだ人が多かったみたい。満員に近い大変な集客だ。世には、こんなに鉄道落語ファンがいたのか、いやほんとに。
川崎市内ではじゃんじゃん宣伝していたのだろうか。
駒次さんが、「鉄道落語を聴いたことがある人?」と訊くと、結構多くの手が上がる。
えー、どこで聴いてるんですかみなさん。小ゑん師と駒次さんの鉄道落語をたびたび聴いてる私だって、鉄道落語会自体初めてなんだが。
全般的にいいお客だったが、未就学児の騒ぐ声だけやまなかったのは少々残念。

古今亭駒次「鉄道戦国絵巻」

この日の演目については、予想を立てていた。
鉄道ネタを多数持つ駒次さんだが、この日はまず「鉄道戦国絵巻」で間違いないだろうと。ここは東急沿線だし。
小ゑん師のほうは、「鉄の男」「鉄指南」「鉄寝床」など予想。ただ、あとの二つや「恨みの碓氷峠」だと、鉄道ネタというより落語の知識が必要となる。

まずは駒次さん。そろそろ、秋の真打昇進披露の日程が出ていたりする。今回は五人昇進なので、ひと席10日間のうち、ご自分の披露目は2日ずつ。
この日の落語会では語っていなかったが、結局名前は変わらないそうだ(※ 字が変わって駒治になりました)。
真打昇進後さらに売れれば、いずれ「二代目古今亭志ん駒」襲名なんてイベントが、あるかもしれない。
駒次さん、よくやるマクラ。電車でスマホを覗き込む兄ちゃんのネタと、学校寄席の生徒の作文。
前者は、この日乗ってきた南武線にしていた。後者は、武蔵小杉の小学校に。いずれも地元の設定なので、客大喜び。
これもまた爆笑。
実際は設定を変えてどこでもやっているわけだが、実に練れているので非常に楽しい。
それから、これは初めて聴いたが、調布のインターナショナルスクールの学校寄席のネタ。通訳付きでやったそうで。企画の人が、わざと普通の小学校でないことを教えてくれなかったという。
インターナショナルスクールに行ったというネタ自体がフィクションだったらすごいのだが、どうなんでしょう。これも爆笑。

鉄道戦国絵巻は、今年も御茶ノ水・水道歴史館の無料落語会で聴いている。その際、意外と「戸越銀座」あたりでウケていたのでおやと思ったのだが、今回は東急沿線。地名はもう、ビンビンウケる。「蒲田」とか「御嶽山」とか。路線だと「こどもの国線」。
本編もまた、実に楽しい。ストーリーは知り尽くしているが、駒次さんの喋りのリズムが楽しくてたまらない。これは、古典落語の楽しみ方に近いだろう。
またエンディングが変わっていた。TGVが偽物なのは前回聴いたときと同様だが、その後登場するリニア大王は、新幹線ひかりの君の側の登場人物だった。リニアはJR側だから、このほうが妥当なのだろう。まあ、結局東急連合軍がJR軍に勝つのです。
そういえば、「東横のれん街」のネタはもうなくなっていた。東横線の高架下にあったのれん街、マークシティの下に移ってますからね。

柳家小ゑん「鉄の男」

小ゑん師は、先日池袋で聴いたばかりのマクラ。メモと録音を取り、ブログをやって☆で評価を入れる客のネタ。
それからアキバのメイド喫茶。看護婦のコスプレだと思ったら、献血の呼びかけだったというやつ。
アキバぞめきでも始めるのかと一瞬思ったが、もちろん鉄道落語会なので、そんなはずはない。
先ほどの鉄道戦国絵巻にも出た、目蒲線のむかし話。師は西小山の電気屋の倅。

本編は「鉄の男」。黒門亭ではないし、これが一番無難だろうか。
ちなみに小ゑん師、主任を務める鈴本の初日で出したらしい。ちなみに二日目が「恨みの碓氷峠」。寄席のほうも鉄道モードになっているようだ。
マニアを嗤う噺だが、専門知識はまったく要らない。
パンタグラフについては、最近は「シングルアーム」だと、手を頭上にかざす所作。客席、中央左右にシングルアームのサービス。
この噺、私はCDを持っているが、実際に聴けて嬉しい。
この日、テツの旦那に連れてこられたり、子供がテツなので連れてきたという奥さんも多数いたのではないかと思う。そんな奥さんにとっては、この噺、ムチャクチャ楽しかったのではないかと思います。
私はテツの旦那じゃないですよ。家に鉄道グッズなんてないし。
最後までやると長いのだが、途中にサゲを作って落とす。

この噺もまた、古典落語に近い楽しみ方をさせてもらった。
よく知っている噺は、よく知っているがゆえに楽しいというところがある。この日については、マクラからそうだった。
その知っている噺の、会話のツッコミのタイミングがすばらしい。
「小ゑん ☆3つ 前回と同じ噺だったから」という、客のWebサイトに怒る小ゑん師、拍手をもらうと「ここは拍手するところじゃないんだ!」。
ギャグ一発で、落語にはさして詳しくないらしい客を見事に誘導する。
小ゑん師は、楽しい高座だったとツイッターで事後報告。「カゲッチ」が子供に大人気なのを発見したとのこと。
そうそう、子供の大笑いが響いていましたよ。子供は馬鹿な大人が大好きだ。そして、落語というもの、馬鹿な大人たちでできているのである。
昨年聴きにいった、品川区のグダグダな無料落語会についてはよほど嫌だったのか一切触れなかった小ゑん師だが、このたびの鉄道落語会には手応えがあったのでしょう。

うちの家内も息子も大喜びでした。
落語を聴きにいき「また同じ噺だ」とがっくり来る人は多いでしょう。古典落語に多いが、新作でもこういうことはよくある。新作の場合、演者も同じである。
だがそんな場合でも、何度聴いても楽しいということは間違いなくある。
この会に来たので、翌日6月4日は料金半額の寄席の日だが、これはやめました。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。