寄席芸人伝2「一年親子 橘家花圓」

昨日に続いて、古谷三敏「寄席芸人伝」のご紹介。同じく第10巻から。
<第137話 一年親子 橘家花圓>
「ぼんぼん唄」という珍しい噺がある。
子のない夫婦が観音様に願を掛けていたところ、迷子になった女の子を見つけ、これも観音様の思し召しと思い育てていたが、1年後、ひょんなことから本当の親が探していることに気づき、返しに行くという人情噺。
立川談四楼師匠で聴いたことがあるのだが、現在他に手掛ける噺家さんがいるのかいないのか。
この噺を下敷きにしたと思われるのが今回のマンガのストーリー。これもまた、見事な人情噺になっている。
知名度の低い「ぼんぼん唄」のことを知っている必要はない。
寄席芸人伝だから、主人公は噺家である。子供がいない。
大正12年9月1日、開演前の寄席の楽屋。子だくさんの噺家が、「とても家にいられませんや」と楽屋で寝ている。後からやってきて、うらやましいねと言う花圓。
そこに発生したのが関東大震災。寄席は浅草だったのだろう、「十二階」こと凌雲閣が折れてしまったシーンがある。
街中大混乱の中、慌てて稲荷町の自宅に帰る花圓。その途中で親にはぐれた2歳の男の子を見つけ、とっさに保護する。家に着くと幸いおかみさんは無事。
親が見つからないので、花圓夫婦は男の子を自分の子のように育てる。思わず子ができた花圓、嬉しくてつい、高座でも「初天神」ばかり掛けてしまう。
しかし、落語がきっかけで坊やが震災前、本所でよく落語を聴いていたことがわかり、花圓は本当の親を探し当て、泣く泣く返しに行くのであった。
坊やの住所を探し当てるヒントになったのが、震災後上方に落ち延びていて、ようやく1年経って帰京した噺家「金原亭馬きん」。
「居酒屋」が得意な噺家だ。 坊やが馬きんの顔を見て、「居酒屋」に出てくるフレーズ「酢蛸でございますヒューイ」を言ったのだ。馬きんに遠慮して、他の噺家は「居酒屋」をやらない。
この「馬きん」がハゲ頭で、現実世界におけるモデルは明らかに先代三遊亭金馬である。
こういう、落語の知識が増えるとわかる仕掛けが多数施されているのも、「寄席芸人伝」の面白さ。
「ぼんぼん唄」は、You Tube に志ん生のものしか出ていない。人情噺ではあるが、浮世床の将棋のシーンが挿入されていたりして、笑いも多いものだった。
また談四楼師匠のぼんぼん唄を聴いてみたいものである。
それから、先代金馬の「居酒屋」も聴いてみた。本当に、2歳の子がそこだけ覚えていそうなフレーズである。
たぶん、まだまだ仕掛けがしてあると思う。今後も見つけていきたいものである。
ちなみに、「寄席芸人伝」は一話完結なので、どこから読んでも大丈夫です。

作成者: でっち定吉

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