早朝寄席4

花ん謝 / ちりとてちん
小辰  / 鈴ヶ森
歌実  / 堀の内
こはく / 四段目

日曜日、久々の早朝寄席で鈴本演芸場へ。今日は上野の森美術館で開催中のエッシャー展を見たいという息子を連れていく。
エッシャーの前座に早朝寄席。
早朝寄席に子供料金はない。まあ、500円だけど。
1時間半だから、1時間の神田連雀亭ワンコイン寄席より高パフォーマンス。
なかなかいいメンバー、と言いながら、受付をしている噺家さん三人の顔がわからない。後から考えれば、花ん謝さん以外の三人だ。
こはくさんは初めてお見かけするのでわからなくても当然だが、知っている小辰さんも地味顔なので(すまん)わからなかった。

柳家花ん謝「ちりとてちん」

今秋真打昇進の花ん謝さんがいきなり登場。この人が目当て。
幕が下がっているとき、「灘の生一本 富貴」の読み方を息子に訊かれる。ちりとてちんに「灘の生一本というものがあるとは存じていましたが」というセリフが出てくるだろと説明。
花ん謝さん、来月の早朝寄席は卒業記念だが、寄席の都合で11時には上がらないといけない。5人上がるので、ひとり10分程度。10分じゃなにもできないなと首を捻っていたら、古今亭駒次さんだけは「全然平気」とのこと。新作の人は違うなと変な感心をしたというマクラ。
本編は、先ほど息子と話題にしていたちりとてちん。この季節にはよく掛かる噺。

先月、黒門亭で聴いた古今亭菊丸師のちりとてちんのように食欲まではそそられなかったが、隅々まで工夫された楽しい噺でした。
調子のいい金さんが、隣の間で忍び笑いを漏らしているという演出は初めて聴いた。
誰の噺を聴いても、隣に隠れた金さんが途中で消えてしまうのがこの噺のちょっとした難点。だが花ん謝さんの金さん、六さんの知ったかぶりがおかしくてならないらしく、その笑い声が六さんにまで届く。
「ご隠居、鳩でも飼ってます? なんかククって声が聞こえるんですが」。
六さんのほうは、言わなくてもいい、ちりとてちんのエピソードを拡大し墓穴を掘るのだが、それを聴いて隠居は「首絞めるねえ」「(話を)広げるねえ」。
六さんは知ったかぶりだから、訊かれもしないエピソードを自分で広げてしまうが、通常の演出だと、隠居はそれを肚で笑いながら聴いている。だが、その肚を小出しにしてみせるのが面白い。
臭いがきついので、皿を持って左手を伸ばしたり縮めたりしながら、これが作法だと言う演出もさすが。
花ん謝さんは、秋の昇進で「柳家勧之助」となる。ここ一年くらいで急に注目するようになった人なのだけど、昇進後の活躍が非常に楽しみです。

入船亭小辰「鈴ヶ森」

入船亭小辰さんは、今日の四人の中で江戸の風を吹かせられるのは私だけだと。唯一の東京出身者なので。
寄席で一日に一度は出る泥棒の噺へ。まず「足の速い泥棒」小噺。
足の速い泥棒について小辰さんコメント。この泥棒に焦点を当て、町内の若い衆に追い抜かれておきながら、その後をじっとついてくるところが落語の世界なんだと。面白いところに着目する人だ。
それから「におうか」。このウケない代表の小噺が、なぜか前のほうの客に妙に受け、拍手が飛ぶ。意外と初心者が多かったのか。
小辰さん拍手を受けて、「私が考えたんじゃないんですけど」。困るよね、昔からやってる小噺に拍手されても。
そこから鈴ヶ森。この噺、誰がやっても一之輔師の影響を意識せずにはいられないんじゃないだろうか。
もちろん、独自の演出を手掛けなければならない。
新米泥棒、舌が廻らず、「身ぐるみ」がちゃんと言えないという工夫が面白かった。しかし、あべこべに脅されて、サゲのセリフを言う時だけ言えるようになるというギャグ。
あと、顔半分ひげを描くとき、縦半分描くというギャグは秀逸。

三遊亭歌実「堀の内」

三遊亭歌実さんは1年前に池袋で、二ツ目昇進のときに聞いて以来。そのときはボウズだったのに、髪の毛伸び放題で印象が違う。だから入口でもわからなんだ。
母校、スポーツ得意な鹿児島実業の頭のレベルネタと、鹿児島県警の警察官だったというネタのマクラ。
そこから、わりとスタンダードっぽく、小気味のいい「堀の内」。ギャグを深追いせずサラッと進める点が気持ちいい。
クスグリの塊みたいな噺だから、つい深掘りしたくなりそうだけども。そういうのは常識を裏返す一之輔師に任せておきましょう。
サラサラッとスタンダードな形だが、方向を間違えて観音様には行く場面はない。床屋で服脱ぐギャグもない。どこから来ている堀の内でしょう。
円歌襲名の決まった歌之介師の弟子だが、今後どういう方向に進むだろう。将来が楽しみな古典落語の一席でありました。

桃月庵こはく「四段目」

桃月庵こはくさんは、初めていらした方います?と客席に訊くが、ご本人も早朝寄席の出演がはじめてなのだと。二ツ目に昇進したばかりだから。旧名は「はまぐり」。
早朝寄席初めての人は、トリを取らされることになっているのだと。そんなルール聞いたことないけど。
師匠と同じ、羽織に桃の紋を入れた。二人しかいない紋なので前座に自慢していたら「バーミヤンですか」。
トリらしい噺をと思ったのか、四段目。二ツ目に成り立てで、よくこんな噺持ってるね。
非常に達者でスムーズな語り口なのだが、どこかまだなにか馴染んでない気がした。そんなにやってるはずがないから当然か。
まあ、芝居噺なんて、たびたび歌舞伎座に通っていないと馴染みますまい。先行きは楽しみ。
こはくっていう名前は、真打になったとき「桃月庵白酒」をスムーズに継げるように付けられたのではないかな。私の勝手な想像ですが。
もちろん、師匠のほうがそれまでに、古今亭・金原亭のもっといい名をもらっていなければならない。もらえそうな名前があるんじゃないか。
「志ん生」は、曾孫の金原亭小駒さんのものみたいだけど。

楽しい早朝寄席。後半は三人まとめたけども、楽しさが足りなかったわけではありません。
ちなみに、鼻濁音は一切気にせず聴くことができました。

作成者: でっち定吉

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