神田連雀亭ワンコイン寄席8(春風亭昇羊「皿屋敷」)

昇羊 / 皿屋敷
伸三 / サーターアンダギー問答(蒟蒻問答)
駒次 / すももの思い出

雨の中、わずか1時間の神田連雀亭ワンコイン寄席に出かけます。この日については、前からの予定。
古今亭駒次さんと、春風亭昇羊さんという、二協会の好きな二ツ目さんが出演。これは行かずばなるまい。
悪天候だが、顔付けがいいので意外と入っていて、20人くらい。

春風亭昇羊「皿屋敷」

トップバッターは昇羊さん。
最近、東京ドームシティのお化け屋敷「怨霊座敷」に凝っていて、先輩や仲間を連れて繰り返し5度行ったとのこと。
ストーリーがある点が、落語みたいなんだそうで。そして、もっぱら驚く仲間を見て楽しむ。
そのマクラは手短に、お菊の皿へ。今年も夏の間、寄席に行くたび聴くであろう噺。
演題ボードには、上方で一般的な演題である「皿屋敷」と書いてあった。芸協ではこのタイトルだっけ?
昇羊さんの古典落語はみんなそうだが、アレンジがすばらしい。誰に教わったのか知らないが、原形をとどめてはいまい。
そのアレンジ、流行りの面白古典落語と大きく違うのは、古典落語的世界観と一切衝突していないということ。
たとえば時事ネタを急に入れて、噺を破壊するようなところは一切ない。感覚は現代のそれだけど。
一から時代小説を構築するような、すごい才能である。
この皿屋敷の世界においても、登場人物の破天荒な行動は、古典落語の世界において破綻していない。
東西誰からも聞いたことのない皿屋敷。お菊さんを斬り殺すのは青山鉄山でなく「青山鉄舟」であるが、そんな細かい違いはまあよろしい。
まず、初日のお菊さんを見にいくのは二人だけである。
お菊さんがこんなふうに出てきたら怖いと話すいっぽうで、密着して出てきたらちょっと嬉しいなんてクスグリ。
この前半を、従来の噺に比して散々引き延ばす。怖がる相方を無理やり引っ張っていく男が、途中からなぜか鉄舟になってしまい、相方がお菊になる。
「いいから来い」「おやめくださいまし」とか言って二人で遊んでいるうちに、怖がっていたお菊役のほうが「楽しいー! お菊ごっこ」。客も大盛り上がり。
そして、一般的な皿屋敷において強調される、見世物が徐々にエスカレートしていくさまはばっさりカット。
いきなりクライマックスへとなだれ込む。アバズレっぽいお菊さんが登場し、客に「うるさいね、枕元に出てやるよ」とか悪態をついているが、皿屋敷に集まった客は大喜び。
前回ここ連雀亭で、昇羊さんの「鰻の幇間」を聴いた。その際、一般的にはマクラで話されるたいこ持ちの生態を本編に入れ込み、噺を膨らます工夫にはいたく感服した。
今回も似た工夫で、ワイガヤ衆のギャグを、お菊さん本人に持ってくる。「ごまーい、ろくまーい、(一気に)しちまいはちまいくまい」。
落語を聴いている客のほうは、まだ噺の半ばだと思っているのに急に結末が来て、二重にびっくり。
持ち時間があったら膨らませるのかな? いや、この型がおおいに気に入りました。
実に面白かった。今年中にもう一回聴きたいぐらい。
大きな拍手で退場の昇羊さん。

桂伸三「サーターアンダギー問答」

桂伸三さんのマクラによると、本人とは関係ないが、神田連雀亭の前日の夜席、客が来なくて中止になったらしい。
連雀亭の夜席、客が来なくて中止がよくあるそうな。三遊亭美るくさんもそんなことを言ってた。
ネタ帳に「ワールドカップ開催のため中止」と書いてあったと。
誰の会だか調べたけども、気の毒なので名前は書きません。私も、好んで行きたくなる顔付けではなかったけど。
ちなみに、この日の夜席の顔付けは豪華だ。4人のうち3人は、「入舟辰乃助」「春風一刀」「初音家左吉」と落語協会の誇る精鋭たち。これなら結構入りそう。
さて伸三さん、笑点で人気の小遊三・昇太という師匠のお供についていくと、千人入る会にも出してもらえる。別に千人入ったからといって、やることは一緒なのでそんなに緊張するわけではない。
だが、連雀亭のお客が3人だったら、すごく緊張しますだって。そうかもね。
沖縄にも行くことがある。たとえば熊本だったら、細川公ゆかりの噺など出してお客に喜んでもらえるが、沖縄にはゆかりの噺がない。それで、自分で作ったという古典の改作に入る。
「蒟蒻問答」の兄貴を、沖縄出身にして、上州でサーターアンダギーを作っている設定に変えただけ。
うーん、こんな「だけ改作」はなあ。見立て落ちまで完全に一緒だし。
素直に蒟蒻問答やったほうがずっとよかったんじゃないの?
今日は面白落語の二人に挟まれて、なにか自分も魅せたかったのではないかと想像する。そんなことしなくったって、ちゃんとした噺やってりゃちゃんとしたファンが付くのになあ。
というか、面白落語の間だったらむしろ、笑い少なめの噺のほうがずっと存在感が強いし、客もくつろげ、喜ぶのに。
見事な昇羊さんの古典落語的世界を味わい尽くした後だけに、ムダな遊びが障る。

古今亭駒次「すももの思い出」

駒次さんは、先月ここで聴いたばかりの「すももの思い出」。同じ噺かと多少落胆。
だが、前回いささか練られていないと思ったこの噺、随分スムーズになっていてなかなか面白かった。
ムダな部分が刈り取られていたので、時間もオーバーしなかった。
その代償として、やや常識世界に設定が落ち着いた感がある。新作の場合、(私が勝手にそう思っているのだが)日常からの飛躍が必要だ。
その点駒次さん、少しずつ聴き手の常識を裏切るギャグを入れ込んでくるのが、いつも上手いなと思う。
前回と違う結末ではないかと思ったのだが、中を膨らませただけでサゲは一緒だった。ムダを削り、しかし増えた部分もあるのだ。
この噺、多分秋の真打披露目で出るんじゃないかと思う。その際には、同じ噺でがっかりすることなど、一切なくなっているのではないか。
その駒次さんの披露目は、しょっぱなの鈴本に行きたいなと思っている。

先の演者は帰ってしまっていて、噺家さんのお見送りがまったくなかった。別にいいけど。

作成者: でっち定吉

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