神田連雀亭ワンコイン寄席33(上・春風亭一花「黄金の大黒」)

今日は猛暑の中、神田連雀亭ワンコイン寄席に行ってきました。撮って出しです。
療養明けの春風亭一花さんが出る。
女流の枠、二ツ目の枠を軽々超えている才人であるが、言うほど聴いているわけでもない。なので積極的に出かけましょう。

受付にいるのはトリの三遊亭鳳月さん。この人も目当て。
連雀亭は、検温して消毒してカードを記入してとやることが多いが、鳳月さんは客への要請が的確かつ押し付けがましくない。
愛想もよく、ホテルマンになっていたらさぞ優秀だったろう。開演前には「寒かったらお知らせください」といい声でアナウンス。
そういえば、一花さんの受付にも感心したことがあったっけ。

客はつ離れしている。盛況のほうだろう。
前説は、テンションのやたら高い柳亭市若さん。
この人だけ、実はやや不安。
前座のときは結構聴いて、期待の高かった人。辞めた柳家小ごとさんと同程度の。
だが先日、二ツ目になって初めて聴いた高座が非常に物足りなく。当ブログでは名を伏せてしまった。

ただ、なかなか楽しい前説。懸命にギャグを入れるのではなく、事象を裏返して語るのに長けた人。
食べものはご遠慮ください。食欲旺盛なので、襲いかかりますだって。
事象を裏返すテクは、明日取り上げる高座によく現れていた。

黄金の大黒 一花
初天神 市若
大山詣り 鳳月

 

花色というのか、青い着物で一花さん登場。この羽織はよく見る気がする。
お客さまに涼しく感じてもらおうということらしい。
羽織の話は本編の仕込みでもある。
一花さん、夫婦揃って療養していたというのだが、病名は非公表。隠さなくてもいいのにと思う。
療養の話でも聴けるかと思ったが、なし。
二つほど、さして盛り上がらないマクラ。
オリンピックにヒントを得て、落語にも解説がついたらいいなんて話していたけど、円丈師がはるか昔に完成度の高い落語にしてるからな。
だがウケなくても「お客さまの反応を見ていると、やらないほうがよさそうです」と、自力で吸収してしまうから偉い。そして客も救う。

マクラは不発でも、そこに渾身の力を込めるようなバランス悪い高座ではない。本編で、取り返して余りあった。
貧乏長屋の連中が大家に呼ばれている。店賃の催促じゃないかと。
真夏に長屋の花見のわけはないから、黄金(きん)の大黒。
披露目とか、めでたい席でよく出る噺。他には、「一目上がり」とか「寿限無」も縁起もの。

ははあ。
一花さんは、師匠・一朝と同じく笛吹き。
9月下席の鈴本から始まる落語協会の披露目には、一門の新真打がいないのに顔付けされている。
これは笛吹きだからだろう。他のメンバーは、市若、伊織、わん丈、花ごめ。
市若さんも笛吹きなんだ。ちなみに市若さんの前は、今回志ん雀で真打になる志ん吉さんが入っていた。
鈴本で黄金の大黒を出して花を添えようと、その稽古なのだろう。
まあ、別にネタ下ろしでもなかろうが。

一枚しかない羽織をみんなで使いまわす、長屋の連中の底の抜けた明るさを楽しむ噺。
めでたい席にはよかろうが、意外とこの黄金の大黒、それほど楽しい噺でもない。いかにも楽しくなりそうな気配だけは濃厚なのに。
だが一花さんの大黒さまは、本当に楽しい一席だった。
以前聴いた兄弟子・一之輔師のよりよかった。本当だ。

一花さんの穏やかな語り口は、いろいろと欠落した登場人物たちを描くのにぴったり。
自分も足りない。相手も足りない。お互い足りないのをみんなで理解し合っている。
誰が口上に行くか、手を挙げて志願するさまも、足りない人のそれ。
特にクスグリなど入れなくても、心からウキウキしてくる。
この楽しい世界の描き方は、閉塞感漂う現代社会にピッタリ。みんな仲良くがモットーの学校寄席では、非常に喜ばれるだろう。
一之輔師だって、多少は登場人物間の差別を入れる。そうして描くのが普通。でも一花さんの描く世界では、本当にみんなフラット。
一か所面白いクスグリがあった。二番目に口上に出向く与太郎っぽい男、大家に「長生きするね」と言われ、「青竹踏んでますから」。
青竹踏んで長生きする発想がもう、与太郎。

前回ここで聴いて感動した「のめる」と同様、登場人物が男だけでも、一花さんにはなんのハンディもない。
最後まで気持ちよく語る。
人のよさをちょっと分けてもらい、しみじみと幸せな気持ちになりました。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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