ラジオビバリー昼ズ「春風亭昇太×柳家喬太郎」

国立演芸場に、芸協の披露目に行ってきた。この模様については、明日出します。
二人の弟子の披露目だが、師匠の春風亭昇太師の出番は、この日は寄席にはなし。
帰ってきてからradikoで聴いた、その昇太師の水曜ビバリーの話を先に。

ニッポン放送水曜ビバリーに、柳家喬太郎師がゲストにやってきた。
二人の打てば響く掛け合いがしみじみ面白かったのです。

ラジオに噺家さんが出て面白い典型例は、落語と同じく、用意したネタを喋りまくるとき。アドリブに見えても、だいたいどこかで喋ったネタ。
先日、ナイツのラジオショーにゲストで出ていた桂宮治師もこれ。春風亭一之輔師(この人自身、ラジオパーソナリティでもある)も、そんな方向性の面白さだった。
だが、喬太郎師はかなり違うのだ。
この人は、とにかく自然体。
自然体であろうとする作為がちょっとあるのでは。そんなうがった見方をしてしまうぐらい。
作為を抜くことで、思わぬ楽しさが生まれてくる。これは落語の高座の作法に近いかもしれない。
キョン師の高座にもそんな雰囲気が確かにある。ただ、高座ではもうちょっと常に張りつめている。
高座とは違う雰囲気を意識的に出そうとして、こういう場所では自然体にこだわっている。そんな気がする。

力を抜いて放送に挑むので、とっておきのネタなど別に用意してこない。高座のマクラと被っちゃいけないという配慮があるのかもしれないが。
冒頭、ゲストとしての紹介を受けた喬太郎師、最初書店に勤めたのに噺家になった理由を問われる。
「死ぬときに噺家でいたかったんです」。アシスタント乾貴美子が「かっこいい!」。
こんなおもかっこいいセリフを吐いてみせるのは、ホストが昇太師だからと思う。

喬太郎師が呼ばれたのは、タナダユキ監督の映画「浜の朝日の嘘つきども」の番宣。9月10日ロードショー。
名画座の支配人として出演している。この情報は、今月号の東京かわら版に載っていて初めて知った。
震災後の南相馬に実在する映画館が舞台だそうで。
映画の中にクラウドファンディングが出てくる点、現実の寄席ともタイムリーにつながる。
映画のポスターに映っている衣装が、私服と一緒だねと言われるキョン師。

昇太師と喬太郎師とは、言わずと知れた新作落語の盟友。
すべての側面においていじり放題である。
喬太郎師は現代落語を代表する人だと持ち上げる昇太師。そして直ちに、問題は「顔」だけだと落とす。
あなたたち、「持ち上げっぱなしにできないの?」と喬太郎師。
ドラマや映画、いいところにチョロッと出てくる喬太郎師をdisりつつ、同時に持ち上げる昇太師。

今回の映画、とにかく自然体だったと語る喬太郎師。現場もまた、緩い。
役作りも不要。
悪い人が一切出ない点も気に入ったと喬太郎師。敵役はいるのだが、別に悪い人たちでもない。
震災・コロナという重い重いテーマを前面には出さず、ユーモアで埋め尽くしている点も気に入ったと。
喬太郎師は楽屋にいれば師匠だが、映画の中では口の悪い高畑充希にツッコミまれる「メタボなおっさん」。
普通に生きていたら、きっとこうだったのだろうと。

監督も落語好きな人なので、演技指導も「ざっくりで」というだけ。
きっちりと銀行員の役を演じさせられてきた昇太師は、そんな方法論をうらやましいと。
そして二人の間で、落語の演技論が始まるところがとてつもなくカッコいい。
未完成の落語を、喋りながら作る喬太郎師を何度も見た昇太師。そもそもできている落語だって、毎回セリフは違う。
お客にはわからない。楽屋では、あ、考えてるなとピンと来る。
われわれはそういう、古臭い根性論で生き抜いてきたんですよとキョン師。

映画観たくなってしまった。番組の思う壺だが、いいじゃないか。
主演は高畑充希。喬太郎師は準主役のようだ。
その他、大久保佳代子、甲本雅裕、佐野弘樹、竹原ピストル、光石研、吉行和子と豪華キャスト。

他の話題として、師匠・さん喬より老けてみられる(具体的なエピソード付きの)話。
虎ノ門ホールのピクトグラムが川柳川柳師の「ガーコン」だったという話。
旅先で痔に悩まされ、薬と一緒に生理用品を購入した話などなど。

ラジオでも、落語の面白い人は面白いということでした。

 

作成者: でっち定吉

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