真打披露興行、最初にトリの一席を出した。あとは順不同に。
口上の後の出番の昇々師は、昨年10月に堀之内寄席で聴いて以来だ。もっと聴きたい才人。
この人も連雀亭を抜けてしまい、聴く機会が少ない。
昔から落語でも、メディアでも売れている人。なのにここに来て宮治師に抜かれ、披露目でも弟弟子の昇吉のほうが話題になっていてとても気の毒だ。
この人が春風亭柳昇を継ぐと私は勝手に思っていたのだが。そんな話はなく。
ともかく昇々師は、すばらしく面白いよなあとこの日再確認。人柄も最高だ。
昇進を機に再度、大きくブレイクすると確信。
トリの羽光師が自分のマクラで触れていた。昇々師の新作落語で「部長の娘」というのがあるそうで。
ひどい顔の女性の噺。これを三島まで来てやってくれたのだが、今どき人の容姿を悪くいう噺なので、羽光師の娘さんがそれを批判的に作文に書いたらしい。
先生が赤ペンを入れて、「先生もそう思います」だそうな。
それから「拝啓15の君へ」本編の中では、羽光師が目指していた関西学院大学に受かった昇々師も、楽屋ではお茶をひっくり返してばかりだったなんて。
マクラで徹底的に弾ける昇々師。
内容はほぼ弟弟子、昇羊の悪口。直接言えないからここで言うんですだって。
昇羊さんは最近ご無沙汰しているのだが、いかにも現代的な若者である。
昇羊さんも披露目の番頭だが、「くっちゃべってばかり」で働かないのだと。
ただし昇々師は、楽屋で小言を言うキャラではない。自他ともに認めるそういうキャラならば言うけど、そうでないのでぐっとこらえる。
手伝いの二ツ目が来てくれているのに、昇羊はお菓子も出さない。お菓子もつままないと、手伝いの連中も間が持たない。
でも、「お菓子買ってきて」と具体的指示を出したくない昇々師。率先して自分で動いて欲しいのだ。
だがいよいよ辛抱しかねて本人に頼む。だが30分後もまだお菓子は出ていない。
やっとドンキで(浅草ということか)買ってきたら、チョコレートとかおせんべいでなく、ウェハース。しかも、個包装でないので封を開けたら丸出し。センスない奴だ。
昇羊さんに「お前ネタにするからな」と言ったら、「いいですけど絶対ウケてくださいね。ぼくの不名誉にならないように使ってくださいね」。
なんで上目線なんだよ。
昇羊さんは、こんなスカしたことをいかにも言いそうな人なので、より面白い。
ところで強く断っておきたいのだが、昇々師のこのネタに、パワハラ気配は皆無である。
パワハラに敏感な私のセンサーも、まったく発動しない。すべては楽しい、兄弟弟子関係を描いたネタである。
昇太一門らしいや。
口上でも古典新作二刀流と紹介されていた昇々師だが、私はなぜか、現場では古典落語しか聴いたことがない。
今日は新作だった。
以前、NHK新人落語対象で準優勝した「最終試験」である。昇々師の最高傑作ということになるのだろう。
NHKでもすばらしいデキだったのだが、惜しくも桂雀太師に敗れた。雀太師もその後活躍しているし全然いいのだが、あそこでもし勝っていたら、昇々師も抜擢になってたろうなと、それだけちょっと思う。
最終面接に挑む大学生。8浪している8年生。電気通信大学文学部。
芸協の人には珍しく、座布団の上から見事にはみ出るという荒ワザ。学生は、緊張のあまり腰が抜けて立てないのだ。
大学ではオチケンに所属していて、ぽんぽこ亭ひょうきん丸という高座名。
ストーリーはサゲを除いてほぼどうでもよく、圧の強いギャグだけでできた噺だが、とにかく楽しい。
ギャグだけで作った落語というものは、だいたい軽すぎて物足りないもの、だが昇々師の新作は中身が詰まっているから不思議だ。
あり得ない造形の登場人物に、ところどころ一般の人の琴線が触れるためらしい。
つまり、緊張するシーンで一般人は、「座れと言われる前に座ってしまった」とか、そんなことはつぶやかない。ただ内心でしまったと思うだけ。
この主人公は、いちいちつぶやくのだ。
ツッコミ不要の、振り切った新作落語。なかなかこんな噺を作れる人はいない。
緊張しまくりなのに、「持ち時間」を気にする学生。面接官が、それを受けて(客席後ろの)時計を眺め、「実際あと2分しかありませんが」。
こんなベテラン真打みたいな楽しみも入っている。
昇々師は、先輩の鯉八師、浪曲の玉川太福師とともに新作ユニット「ソーゾーシー」を組んでいる。
好きな人だらけのこの会に一度行かなければと思っている。