拝鈍亭の瀧川鯉昇(上・マクラ「熱演しません」)

東京かわら版を見て、芸協の披露目の次に行こうと決めていたのが、5日の雑司ヶ谷拝鈍亭。日曜日の午後5時から1時間半という、夜席が好きじゃない私にも出かけやすい時間帯。
本浄寺というお寺にある立派なホール。
今年4月に初めて出向いた。その際は桂雀々師。
今回は瀧川鯉昇師である。大好きな師匠だが、決してそれほど聴けているわけではない。
お盆の池袋では毎年主任だが、毎年検討しながら2016年を最後にご無沙汰している。
鯉八師の披露目も、私の行った日はご不在だったし。

ところで、この拝鈍亭の情報、かわら版以外に一切出ていない。
鯉昇師の公式サイトを見ると、スケジュールが昨年12月で更新を止めている。この師匠の公式、しばしばこうなるのである。
またどこかの段階で最新版が出るようになり、そして更新が滞る、その無限ループ。中の人、よろしくお願いします。
本当にこの日あるのか不安になって、電話で確認してしまった。

前回場所を覚えたので、池袋から日出通りをまっすぐ歩いていく。徒歩20分ということだが、体感的には決して遠くない。
少々早く着いた。待っている人もいないので、定員50人だが問題ないことを確認。
いったん護国寺の駅上まで出て、ファミマのイートインでコーヒーをいただく。
半地下のため店の外から見たらわからなかったのだが、イートインは立ち席であった。いいけどさ。
ついでに護国寺を拝んでから、開演の10分ぐらい前に戻る。料金は千円以上の御芳志。貧乏人なので千円しか出さない。
お客は、数えてないけど20~30人ぐらいですか。
ゲストが「のだゆき」さんだと、来て初めてリーフレットで知る。

ちなみにこのリーフレットに鯉昇師の経歴が書いてあるが、二ツ目時代の名が「春風亭愛嬌」になっている。愛橋ね。

ご住職がご挨拶。
鯉昇師は、拝鈍亭がオープンしてからずっと来ていただいている。今回が11回目で最多とのこと。
そんなに歴史があるとは知らなかった。

それにしても、改めて思うが鯉昇師は本当に面白い。
世間には「上手い」落語も多数あって、私もそんな師匠たちのものが大好き。だけど鯉昇師に関しては、とにかく面白い。
面白いといっても、面白くあるための技術、それはびんびんに感じる。
「爆笑派」とはちょっと角度が違って見えるが、それでもやっぱり、とにかく面白い。
そして、ベテラン師匠にこんな言い方は失礼だが、ますます腕を上げている。

家見舞 鯉昇
のだゆき
(仲入り)
へっつい幽霊 鯉昇

 

いきなり鯉昇師が登場。
ボールドヘッドに照明がまぶしい。
例によって冒頭沈黙からスタート。面白いことに、二席目もまたそうしていたのだが。

拝鈍亭に呼んでいただくのは毎年、夏の暑さがまだまだ残った9月の第一日曜です。
私は決して熱演などしませんが、勝手に汗をかきます。
ところが今年も同じ日なんですが、急に涼しくなりまして。
汗をかかないので、着物が日持ちして助かります。
文字に起こすとそうでもないけど、実際に聴くともう、面白くて仕方ない。

目の前の客の反応はしっかり見て、コミュニケーションも取っている芸。
なのに鯉昇師は、客に対し直接言葉を投げかけない。客いじりもしない。VTRを再現しているような、バーチャルな語り。
内容も、すべて架空のウソ話。
この虚実裏腹な二重映し感がたまらない。こんなやり方は、他にはわずかに柳家蝠丸師がいるだけだろう。

コロナ以降、常連のお爺さんが家族に反対されているのだろう、寄席に来なくなったと。
その代わり、若い人が来るようになった。
割と皆さん、ちゃんと聴いてくださる。席を途中で立つような人は少ない。
最も、客数が半減されているから高座からも、どのお客さんがどこにいるかよくわかる。席を立つ勇気はないだろう。

講談を主として聴いていたお客さんが、落語のほうにやってきた。
出世譚の多い講談に慣れていると、落語の登場人物が不思議に映る。
お客さんが楽屋に来て尋ねる。(かぼちゃ屋の)あの与太郎という人は、将来偉くなったんですかと。
われわれのほうで扱っているのは、偉くなりません。あのままです。

火を仰ぐ際に用いる「渋団扇」がわからなくて、訊きにきた学生もいた。
うちわにも、甘いとか渋いとかあるんですかと。

数日前に柳家権太楼師匠に会って話をした。クルーズ船に仕事で乗った話。
クルーズ船では毎日落語をする。毎日聴きにきてくれるご夫婦がいる。
ご夫婦がある朝、朝食の際に話しかけてくる。
「師匠、あの初日にやられていた、壺を買う噺ですが(壺算)、あれ、ひょっとして道具屋は損してるんじゃないですか」。
落語で疑問に思っても、いちいち訊きにこないでくださいとまとめて本編へ。
鯉昇師は語らないが、権太楼師のクルーズ船の話は、「ジャンバラヤ」という一席にまとめられている。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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