円楽が圓生を襲名したら

私も先日ちょっと触れたのだが、円楽師の圓生襲名意欲について。
さすが名プロデューサーの円楽師、着々と外堀を埋めつつある。実現の可能性が高い。
私も円楽師が継ぐのに反対ではない。襲名で落語界が盛り上がればいいじゃないか。
世間で反対論が薄いのには、結構戸惑っているが。「圓生はアンタッチャブルだ」「ヘタクソに継がせるな」と、別個の理由に基づく反対意見が併せて寄せられると思っていたので。

ところで襲名賛成意見の中に、ちょっと違うんじゃないのかというものを見たので。
そして私の中でも、円楽師が継いだ場合のデメリットが浮かんできた。
反対派に鞍替えはしないが、懸念材料をあらかじめ出しておきたくなった。

神田伯山先生が、自分のラジオでもって、「円楽師がショートリリーフで継ぎ、その後円楽党でもっとも上手い兼好師が継いだらいいんじゃないか」と語っていたそうで。
円楽師が「私の後、兼好が継ぎます」と言って継いだらいいんじゃないか、もしかすると円楽師自身、すでにそう考えているんじゃないかと。
そりゃ、あまりにもおかしいだろ。
襲名は基本的に、自分の系統で継いでいくものである。
系統が切れたときに初めて、別の一門の人がもらおうという考えが出てくる。このたびできた、春風亭柳枝のように。

兼好師は好楽師の弟子であり、当代円楽師の系統ではない。
円楽師が兼好師を高く評価しているとしても、「次は兼好に」なんてのは、筋が違う。
円楽師の直系だって多数いるのだから、そちらを無視するわけにはいかない。一体なんのための師弟関係だということになる。
円楽師が圓生を継いで7代目になれば、その新・圓生系統から8代目圓生が出るのが原則論となる。それをどうこう言っても仕方ない。

円楽師の弟子に、8代目圓生を継ぐ力のある人がいるかというと、私の好きな人もいるが、普通にはそこまで高い評価はできないだろう。
だからといって、あらかじめ次を兼好師になんて、そんな単純な計画は立てられない。
伯山先生、シロウトみたいなこと言うね。

それから、円楽師の弟子に息子がいるのがやや問題。
名前というものは、協会預かりにしない限り、個人で相続するものである。
これ自体もまた、どうこう言っても始まらない。
名前を個人が持っていることまで否定すると、圓生の名前の否定にもなってしまうのである。
圓生も現に遺族が持っており、誰が継ぐにしても遺族の承認を得て譲り受けるのが大前提になっている。
当代円楽師が譲り受ければ、譲り受けた圓生のものになる。その血統に名前が相続されていく。

円楽師の息子の一太郎は、あまり落語をしていない。本業は声優。
本業があるから落語しない、これもよくわからないのだけど。
話題を集めた円楽師と伊集院光との二人会には出たようだが。両国や亀戸にはまったく出ないし、私も高座を聴いたことがない。
円楽党の香盤では、次の真打なのだが、普通に昇進するのかどうか、気になっている。

この、落語にあまり熱心でなさそうな噺家が、当代円楽師が圓生として亡くなった場合、名前を持つことになる。
8代目になろうとする人は、一太郎に頭を下げて、もらい受けることになる。
もし一太郎本人がなりたければ、実力は別にして、なれる。権利者なんだから。

円楽師の圓生襲名に賛成するなら、このようにまたいろいろややこしい話が出てくるということまで、ちゃんと押さえておきましょう。
もちろん、自分の系統には「円楽」を継がせ、圓生は別扱いするというなら懸念材料は解消する。
でも、そこまでして円楽師が圓生を襲名する理由まではない。それこそ、名前の出た兼好師が継げるようにしたらいいじゃないかということになる。

ところでもうひとつ。そもそも圓生の名前の大きさについての話。
圓生という名前に付随するイメージは、万人にとって6代目ただひとり。
6代目の義父であった5代目(デブの圓生)など、実に上手い人だったという。
たとえば先代小さんにとっても、6代目より5代目のほうがずっと偉大だったようだ。
だが、録音がほぼない5代目のイメージなど、令和の時代のどこにも残っていない。
そもそも6代目によると、5代目は別に圓生になりたがってもいなかったという。当時はそのレベルの名前だったのかもしれない。
名を出した「小さん」の名前だってそうで、小さんに関する世間のイメージだって、先代である5代目ひとりについてできたものである。
5代目小さんが心酔していた師匠、4代目小さんの直接的なイメージなど、現代に残っていない。

要は、圓生という名前に持つ現代人のイメージもまた、幻想に過ぎないということ。
本当は、名前なんて記号。継いだ人のイメージになるか、「名前が大きい」と非難されるか、すべては幻想。
とはいえ本当にどうでもいい人が継ぐと名が劣化し、価値が落ちるものでもある点が難しい。

ちなみに塩漬けされた圓生が蘇るなら、恐らく圓生の遺族が一緒に持っている、橘家圓蔵の名も蘇っていいことになる。
二代続けて借りてきた名前であり、エバラ焼き肉のたれでおなじみの8代目圓蔵の遺族は名を持ってはいないはず。
でも、圓蔵一門が存続しているのに円楽党に持ってくると、これはまたややこしい。圓蔵はまだまだ塩漬けと思われる。

作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. 大きな名を継いでそれをさらに大きくしていくのか、ダメにしていくのかは落語の世界も歌舞伎の世界も一緒ですね。海老名家の息子たちは苦労してますもの。
    お兄ちゃんは独自のキャラが育ってきた感はありますが、弟はまだ大変そう。

    1. まるかんさん、いらっしゃいませ。

      正蔵、三平の兄弟については、家で持ってる名前を権利者として継いでいるわけであって、当たり前の襲名だと思います。
      好き嫌いは別にして。
      三平の名も、息子が継ぐのかもしれません。

      それにしても、身内や後輩からも、シャレとはいえ「偽物の三平」扱いされる人生、私の眼には地獄に映ります。

  2. お久しぶりです。うゑ村です

    圓生襲名問題ってそう言えば円丈師匠や円窓師匠も継ぐ気があるみたいなのを以前どこかで見たような気もしますね。今となってはどちらもご高齢で仮に継いだところで色々大変なのかなとは思いますけど

    その点柳家小さんの名前は安泰ですよね。次はほぼほぼ花緑師匠で確定でしょうし。逆に不安なのがブログにも書かれていた橘家圓蔵ですよね。平井の師匠のお弟子さんも皆さん恒例ですしそもそも平井の師匠の流れのお弟子さんが少ない上に一番若くて確か小円鏡師匠ですよね?若い人が入ってきてくれたらいいんでしょうけど…

    1. メガネすっきり曇りなし。
      名前すっかり継ぐものなし。

      ・・・関係者の皆さま、すみません。悪意はありません。

      圓窓、円丈のご両名はいいとして、自分が当然に継ぐと思っていた鳳楽師はいい面の皮だとは思います。
      まあ、それはそれですか。

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