神田連雀亭ワンコイン寄席10(立川笑二「突落し」)

歌丸師匠が亡くなったので当ブログでも追悼特番にしようかと思ったのですが、申しわけなくも、ブログ1日分のネタは思いつきませんでした。
「笑点の歌丸さん」だから、ニュースでも大きく取り上げてもらえる。なんで笑点メンバーを差し置いて、笑点をおおむねdisっている志らく師がコメント出してるのかわけわからない。
歌丸師、噺家としての評価は色々あるだろうけど、名人なのかどうかはさておいて、かなり高いレベルで上手い人だったと私は思う。
若い頃ヘビースモーカーだったのがよくなかったですね。タバコなんぞのおかげで、晩年、長きにわたって苦しむ羽目になる。

さて、いつものブログに戻ります。最近よく聴いているのが春風亭昇羊さん。
7月1日は日曜日。江戸川区立中央図書館で、その昇羊さんが1時間務める無料の「納涼落語会」がある。
無料落語愛好家の私、これだけのために出かけるのでもいいのだが、神田連雀亭ワンコイン寄席の顔付けがなかなかいいので、ハシゴすることにしました。
秋葉原から新小岩へ総武線で一本なので、廻りやすい。ハシゴをすると、ますますコスパがよくなる。
このところ連雀亭づいてます。貧乏人に優しい寄席。

美るく / 牛ほめ
花飛  / 豆屋
笑二  / 突落し

日曜日でいい顔付けだけあって、23人の入場。人数は花飛さんによる。

三遊亭美るく「牛ほめ」

三遊亭美るくさん、前日は池袋演芸場(夜席)で独演会。満員になったそうで大したものですね。
いつもは自分でセットしている髪を、せっかくだからと美容室で。ご本人としたら、橘之助師匠のようにして欲しかったのだが、ホステス風にされてしまったと。
打ち上げで盛り上がったので今日は顔もむくんでるし、酒臭かったらすみませんだって。
女性なのに、自分の年齢を隠さないというのも、美るくさん偉い。
与太郎の噺をと言って牛ほめに入る。この間、ここで聴いたばかりなんだけど。
子供がいたから気を遣ったのでしょうか。まあしかし、美るくさんは達者だし、続けて聴いても悪いものではない。
一箇所、「左右の壁は砂ずりで」というところを先取りして「佐兵衛の・・・」と言ってしまって照れていた。
ひとつだけ、五十銭は、「ごじゅっせん」より「ごじっせん」のほうがよくないですかね。
こういう細かいことを言い出すと、私の好きじゃない「鼻濁音を使えない奴はダメ」と同列の話になるのでほどほどにしておく。言ってる自分に嫌悪感をもよおしてくるので。

柳家花飛「豆屋」

柳家花飛(かっとび)さんは袴を着けている。低い声が武器の人なので、侍の噺でもやるのかと思ったら小あきんどの噺だ。
小学生の娘が7月の予定表を持ってきて、「休みが多い」と喜んでいる。だが比べてみたら、私のほうが休みが多かったなんてマクラ。
続けて、二ツ目昇進の後輩のために祝儀を切らなければいけないという話。ちょっと手元不如意なので、大型古本屋に売ることにした。
箱付きハードカバーで1万円する本を、泣く泣く500円で手放した。だが、後日お店に行ってみたら、8千円の値札が付いていた。私にお金と権力があったら、このお店を文字通りオフにしてやるのだと。
さて花飛さんを聴くのは三度目。二ツ目さんには珍しいタイプで、いつも注目している。
かなり低い声のために全体的なトーンが暗めなのだけど、そこに味があって面白いのだ。
二ツ目で、自分の持ち味を熟知しているようなのは頼もしい。ニンに合う噺を選んで仕入れているようだ。
全体のトーンを低くしていくと、その中において、新たな秩序が生まれる。その、新たな秩序の中でちょっとだけ弾むと、爆笑になるのだ。
売り声の違いを見せたあと、わりと珍しめの豆屋。先代桂文治が得意だった演目。文治は「豆や」と書かせた。
花飛さん、独特の低い声が、不気味さが必要なこの噺に向いている。貧乏長屋にさまよいこむ新米豆屋が、なにをされるか不安におののく場面にぴったり。
といっても花飛さんの描くおアニイさんは、不気味だが決して怖くはない。
長屋の怖いおアニイさんたちが、リアリズムに則って本当に怖いほうがいいのかというと、そうともいえない。
落語には、客を怖がらせちゃ失敗だという掟もあるのだ。文蔵、扇辰、遊雀といったリアルにいかついおアニイさんたちも、落語の客を本当に怖がらせることはない。
今日はあんまり書くことないけど、花飛さんの豆屋、私の満足度は非常に高かった。

立川笑二「突落し」

そしてトリの立川笑二さんは圧巻でした。
前回は「柳家っぽい人」と思ったのだが、この日の彼の導入部は、柳家権太楼師そのままの雰囲気。顔も似てるから、声も似てる。
教わってるんだろうか? よく似ているからといって、安っぽいコピーだというのではなくて、内容は完全にオリジナルのマクラ。
そして、前回感じた「ほどがよく、突出しない落語」という印象については少々修正。前回は道具屋だったからか。
仕事のない日は、近所の公園で一日中稽古をしているというマクラ。
稽古の虫だというのは業界で有名みたいだが、本人に言わせると、タバコを吸ってぼうっとしている時間もあるのだそうだ。
照れてそう言っているので、実際にはほとんどの時間が稽古なのだと思う。ひとりでカミシモ振って稽古しているので、近所では有名なキチガイなのだそうだ。
そして、子供がいるのに「吉原の噺をします」と言って、珍品の類に入る「突落し」。
「お子さんがいてもやります」とかではなく、ごく普通に入っていった。
子供に廓噺を聴かせるのが悪いとは全然思わないけど、でも一般的なマナーからは外れる。

「突落し」。廓噺ではかなり珍しいほうだ。桃月庵白酒師のやる「首ったけ」よりまだ珍しい。
この演目自体、速記でしか読んだことがないけども、笑二さんは相当手を入れていて、ストーリーも重要な点を少し変えている。
最後はかなり違っているのだが、唐突にサゲだけ変えるというありがちな手法ではなくて、用意周到に少しずつ伏線を張り、修正しているつくりが上手い。これは、古典の改作というより、むしろ新作落語の作り方のいい例を思い起こさせる。
そしてその伏線が、バイオレンスに溢れているのだ。なんと、世にも珍しいバイオレンス落語。
元々対等なはずの友達同士が、吉原でもってタダで遊ぶため役柄を作る。恐ろしいことに、役柄がだんだん沁みてきてしまう。あくまで便宜上の親分と手下なんだけども、特に親分役のほうが役柄に染まってしまい、手下役にハラスメントの限りを尽くすのだ。
手下役のほうは面白くなくて、この不満がストーリーを最終的に左右する。
最初は調子に乗った嫌がらせ程度なのだが、最終的には本気の怒りによる肉体的暴力と化す。
「本当は怖い突落し」というタイトルのほうがいいんじゃないか。
なんだか、被験者に立場の格差があるロールプレイをさせると、役柄が関係を決めてしまうという、心理学の恐ろしい実験を連想させる。

と、そんなことはチラッとは思ったが、本当はかなり愉快な落語である。
楽しい噺で、聴いてるときは全然気にならないのだけど、振り返ってみるとバイオレンス色濃厚な逸品だったということ。PG12指定だな。
私、バイオレンス好きではないのでその点だけちょっと。
笑二さんの強烈なファンになってしまいそうで、いっぽうこの部分でちょっと距離を保ちたくもなったりする。権太楼師に似ているとはいえ、こういう部分が立川流っぽい。
師匠・談笑も、バイオレンスではないけど、なにかあえて不快感を客にぶっつけた上で、最終的に快に導こうとする姿勢を感じる。なにか、まるっきり平和な世界を許さない部分が根底にあるのではないかと想像し、その点どことなく違和感を抱く。
他方、柳家の人は、まるっきり平和な世界をよしとしている。いかにして平和な世界で笑いを生むかという追求に懸命な気がする。こちらはこちらですごくないですか。
まあ、バイオレンス色があるから悪いというものではない。笑二さんが才能溢れる人であることは間違いないので、こういうのでもいいからまた連雀亭で聴きたいですね。

連雀亭で満足したので、これで帰ろうかと一瞬思った。
だが、昇羊さんを聴かないと本末転倒なので新小岩に。そちらに続きます。

作成者: でっち定吉

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