「預かり弟子」について

東京の落語界では、真打になるまでに師匠が亡くなってしまったら、他の師匠につく必要がある。さもなければ廃業を余儀なくされる。
いわゆる「預かり弟子」となるわけだ。
まったく無関係の門下に入ることは少ない。多くは兄弟子の下に付く。兄弟子のいない場合は、叔父筋など。

預かり弟子と新しい師匠の関係性も、いろいろあるようだ。
新しい師匠にとって、最初の弟子が預かり弟子というケースも多い。自分で採りたいと思う前に弟子ができるのである。

林家時蔵師は、木久扇師の預かり弟子であり、惣領弟子。
だがこの一門、一般的にはきく姫師が惣領弟子だとされている。
預かり弟子の師弟関係は、このケースもそうだが比較的ライトなようだ。もっとも時蔵師のブログを読む限り、師匠への敬意は伝わってくる。
木久扇師だって、先代正蔵(彦六)の預かり弟子だったわけで。

瀧川鯉昇門下の惣領弟子が、弟弟子であった鯉朝師。師匠、柳昇が亡くなったため移籍してきたのである。
鯉朝師について言うと、新しい師匠との関係性はかなり強い様子。
この一門は鯉朝師がまとめているようだ。鯉朝師の弟子も、鯉昇門下として育っている。
(※ 鯉昇師にとって鯉朝師が初の弟子だと書いたが、これは間違いなので修正しました。時系列的には鯉枝師以下、生え抜きの弟子のいるずっと後で弟子になっている)

同じく柳昇逝去により、春風亭昇太師の惣領弟子になったのが、春風亭柳太郎師。
だがこの人、一門からもう外れているのではないだろうか。
実は、この疑問がこの記事を書かせている。
しくじったのか、離れたのか、ライトな関係性を解消したのか、詳しいことはもちろん知らない。
真打は、師匠を持つ義務はないのである。
どこにも書いていない一門離脱を疑っているのは、ラジオで弟子の人数を訊かれた昇太師が、生え抜きの人数だけ(8人)を答えていたから。
そして先日の国立の披露目でも、弟子である司会の昇也さんが、新真打の昇々師を「惣領弟子」と紹介していた。
柳太郎師、このたびの弟弟子ふたりの披露目にはある程度顔付けされていたが、口上に並ぶ格でもなく、実際どうなのかよくわからない。
一門を離れていたとしても、それをファンに伝える義務はないということがわかる。
発表がなければ、いつまでもWikipediaには昇太師との師弟関係が書かれ続けることになる。そうなるだろう。

柳太郎師と一緒に真打に昇進した桂文月師も、桂伸治師の預かり弟子であり、惣領弟子。
だが、破門されたらしい。
らしいというのは、これに関する公式リリースなど一切ないからである。
Wikipediaにも破門の事実がいったんは書かれていた。だが伸治師の項を読むと現在、「真打昇進に伴い元の弟弟子に戻る」とある。
そんな形は、理論上はあり得ても、実質的にはない。
師匠が披露目に40日間付き合ってくれる。その後、「はい、これで師弟関係解消ね」。こんなバカな話、あるものか。
あり得ない話をベースに、Wikipediaを書き換えるのも、かなりおかしい。
文月師は、今年の宮治抜擢の披露目において一切顔付けされていない。文治一門としても扱われていないようだ。
これはもう、しくじりが大きいのだということが明白。

橘ノ圓満師も、三遊亭圓馬師の預かり弟子であり惣領弟子。
圓馬師に昨年破門された。こちらは圓馬師がツイッターで大々的に発表したため、Wikipediaにも書かれている。
先日、師匠の主任の芝居に顔付けされていて驚いた。だが、別に許されたわけでもないらしい。
このケースも、芸術協会からリリースがあったわけではない。
圓馬師がわざわざ発表しなければ、ファンはいまだに師弟関係が存続していると思う。
世にはこんなケースが、恐らくたくさんあるのだろう。

古今亭志ん橋師の一門は、7人いる。そこそこ多い。
このうち4人が、兄弟子の逝去に伴って移籍してきた預かり弟子である。こんな一門も珍しい。
古今亭駒治師は、真打昇進を目前にして元の師匠・志ん駒を喪った。
そんな状態で移ってきた人の面倒を見て、半年で真打として送り出すのだから師匠も立派なものだ。
持ち出しだけだろうに。
ちなみに、同門の志ん輔師の預かり弟子になる人はひとりもいない。預かり弟子になって破門されたら大変だからだろう、きっと。
このたびの新真打、志ん吉改め志ん雀師は、珍しく志ん橋門下の生え抜き。

預かり弟子ではなく、形式上はちゃんとした弟子なのに、なんだか外様っぽいのが桂三木助師。
金原亭馬生一門の落語会に、この人が出てくることはまずない。
本来は入門時からして小さん一門の人に拾ってもらうのが筋だったのだが、お母上の存在が面倒だったのか、引き取り手がなかった。
馬生師が拾ってくれたのだが、入門後もお母上が仕切り、どこの師匠に稽古をつけてもらうということをしていた。
なので実質フリーになってしまったようだ。
お母上のブログも1年半ほど休業しているので、三木助師が本当に一門から離れていたとしても、よくわからない。

他にも、真打になってからの移籍による不思議な預かり弟子などもあるが、今日はこのへんで。

作成者: でっち定吉

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