小遊三の会@国立演芸場(上・コロナ禍の小遊三師匠)

平日(火曜日)夜の落語会。
寄席好きの私には珍しく、先月のかわら版で見つけ、早めに予約を入れておいた会である。
三遊亭小遊三師の独演会。
演目はネタ出し。
「かぼちゃ屋」ではなく「南瓜や」と書かれているのだが、あまりなじみのない表記なもので。
へっつい幽霊に関してはヨネスケちゃんねるで、しばらくやっていない噺だと語っていた。
つい1週間前に瀧川鯉昇師から聴いたばかり。まあ、いいです。

寄合酒 美よし
紙入れ 遊史郎
かぼちゃ屋(ネタ出し) 小遊三
(仲入り)
ぴろき
へっつい幽霊(ネタ出し) 小遊三

 

開演から30分、「ボタンとリボン」の出囃子で小遊三師登場。
遊史郎師の「紙入れ」でできた独特の空気を、ガラッと変える。
コロナ漫談を20分ぐらいしていた。
私は寄席を愛する者だ。だが、寄席では定番マクラを振るだけで、自分語りを一切しないそんな噺家も多い。
落語協会だと、五街道雲助師や弟子の隅田川馬石師などもそう。
ところが落語会になると、こうした師匠もいきなり自分のマクラを語り出す。そして、実に面白い。
小遊三師もそうだし、聴いたばかりの瀧川鯉昇師もそう。こんな小遊三師を初めて見て、嬉しくなる。

国立演芸場の貸席は抽選必死で、なかなか取るのが大変らしい。この会はたまたま取れたのだそうで。
貸席が取れても先行きどうなるか見えない状態だったが、「オリンピックが終わるころにはなんとかなってるだろう」と思っていた。まあ、何の根拠もない。
落語会も一年延びたり中止になったり。そんな電話が続く。
今まで小遊三師もそこそこ忙しくしていたので、当初は休みになって意外と嬉しかったりもした。
そして、自分自身に引きこもりの資質を発見したりなどして。
そうはいっても、いつまでも休んでいられない。実入りがないと暮らせない。

オリンピックの卓球は実に面白かったと。やってたから言うんじゃなくて、とてもテレビ向きのスポーツだ。
混合ダブルスは必死で応援した。中国に勝ったのがすばらしい。よく考えたら、日清戦争で一度勝ってるなだって。
それからパラリンピックの卓球も観ていた。口でラケットをくわえて戦う選手に感動して、マネしてみた。
足でボールを上げるのも無理だが、口にくわえたら全部歯がなくなってしまうと。

コロナのおかげで、笑点も大変だった。
リモートでやると聞いたときは驚いた。リモートなんて言葉も初めて知ったし。
自宅で、送ってもらった色紋付に着替え、椅子に座ってカメラに映る。年寄りを揃って、黒枠の中に入れるとは。
後で訊いたら、誰も足袋は履いてなかった。みんな靴下。
ウチには、妻と猫しかいない。そんなところで、「いないいない、アランドロン」なんてできたもんじゃない。3回ぐらいやったけども。
長崎には一度呼んでもらった。広い会場に少ないお客さん、ちょうどここ(国立)みたいなもの。
あと来週新潟にも呼んでもらうのだが、またPCR検査だそうな。
リモートはなくなったが、東京の収録も後楽園ホールというわけにはいかない。スタジオ収録。
お客はいないので、各タレントのマネージャーを座らせている。でもマネージャーも油断も隙もない。自分のところのタレントにしか笑わなかったりする。
そんなこんなで、あまりやる気が出ない。

それからクラウドファンディング。昇太会長に呼ばれて、駆り出された。
クラウドファンディングなんて言葉も知らなかったし、仕組みも知らなかった。とりあえずカメラに映る前に「クラウドファンディング」という言葉を練習した。
1億円も集まるとは。でも、寄席5場で分けるから、ものすごい額というわけでもない。
500万円出してくれた人が数名いた。
でも、今日のお客さんは出してないでしょうね。善行を施してくれる人は、だいたい来ないんだって。
まあ、コロナも今年中には収束するでしょう。何の根拠もないですけど。

思い出すままに小遊三師の語りを書き連ねてみた。
師はさすがだ。言葉のどこにも、誰かに対する恨みつらみが見えない。これだけ、見事に政治思想と無縁の語りをする人、なかなかいない。
どこに原因があるにせよ、起きてしまったことは仕方ない。ひとまずこんな中でもやっていくしかないのだということ。
そして、「しばらく喋ってなかったら落語を忘れちゃった。久々にやったら嬉しくなった」みたいな語りが噺家のお約束になっているのに、そんなことも一切言わない。
といって、「本当は仕事したくないのだが仕方ないから出てきている」といった、悪ぶった発言をするわけでもない。

小遊三師こそ、噺家のカガミ。そう思う。
そして普段聴かない、アドリブで語る漫談、実に楽しい。師が語ればなんの内容でも楽しい。
そこに毒はさしていらない。

続きます。

作成者: でっち定吉

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