小遊三の会@国立演芸場(中・かぼちゃ屋)

 

楽しいマクラから、さあそろそろ落語しますかという雰囲気へ。
「バカ」なんて言葉も言わなくなりました。でも、我々の世界なんてバカだらけなわけで。
昔は楽屋に、「高座で使っちゃいけない言葉」の一覧が張り出されていました。ある漫才師が、「楽屋にこんなことが書かれています」と全部ネタにしていたが。
なんて話から、バカの兄弟の小噺、3連発。
「13か月」と「雨が漏る穴」、それから「来年の春祭りと秋祭りはどちらが先か」。
最後のは普通、節句でやる。
こんなおなじみの小噺、誰がやったって面白いわけない。普通には。
だけど客席からジワジワ笑い声が上がる。だって、面白いんだもの。
ウソみたいなテクだ。
バカ弟の造形が、小遊三師の得意な与太郎のもの。これだけでもう楽しい。
そして兄貴は、弟のことを「おとうと」と呼ぶ。名前が思い出せないんだそうだ。
これらのバカ登場人物、我々にとても身近。
小遊三師の与太郎は、いつも口から「アハハ」と息が漏るのだが、客にとっても決して不愉快さはない。

与太郎がおじさんに呼ばれている。おっかさんがこぼしてったぞ。
俺が仕込んでやるからかぼちゃ売れと。
ネタ出しの「かぼちゃ屋」。プログラムには「南瓜や」と書いてある。「や」は、店舗を構えない商売人に付けるらしい。
ところでこのかぼちゃ屋、先代小さん系統のものに近い。元は落語協会から来ているのだろうか。
弟子の遊馬師のかぼちゃ屋は、小遊三師から素敵な与太郎を引き継いでいて、とても楽しい。
だが不思議なことに、春風亭一之輔師のかぼちゃ屋のほうが、小遊三師のものにより雰囲気が近い。
一之輔師が小遊三師から教わったのだと聞いても納得してしまう。たぶん違うが。
教わったかどうかより、小遊三師と一之輔師と、落語に対するアプローチ、なにが面白いかの感性が、よく似ているということなのだろう。
小遊三師の与太郎も、もちろんとても楽しい男。作為なくしてまわりのみんなを幸せにする。

遊馬師は「上見て売れ」を与太郎に念押ししていたが、小遊三師の描くおじさんはわりと適当。
遊馬師の問題意識がよくわかったが、適当な師匠のものも、また落語である。

「唐茄子屋でござい」の売り声を教えてくれる男は、与太郎によると「怒って行っちゃった」だが、別にそんなに怒っている様子でもない。
赤の他人同士のちょっとした楽しい掛け合い。

路地に迷い込み、蔵の前で動けなくなる与太郎。
これが、バカなりに本気で焦っている様子はとても楽しい。荷を下ろしてから後ろを向くと、見事に転回できる。与太郎がホッとしたのも伝わってくる。
「物理的に上を見る与太郎」が、一之輔師に強い影響を与えていそうなのだ。日の光がまぶしいのに、おじさんに言われた通り忠実に上を向いている愉快な与太郎。
荷をカラにしておじさん宅に戻る与太郎。奇跡的に全部さばけたのに「こんなもんだろ」という、人生を達観したさまが素晴らしい。
「ライスカレーはしゃじで食う」ではなく「ライスカレーは食いにくい」だった。ご自身で替えてるんだろう。

サゲはしっかり客のほうを向いて、「掛け値しないと、女房子が養えません」。
いかにも落語らしい、呑気ですばらしい一席。
予定では35分だったようだが、10分程度オーバーしていた。それだけマクラが楽しかったわけである。

順序が前後するが、会の冒頭に戻る。
国立の貸席(主催公演ではないもの)というのは、私は初めてだ。
国立演芸場はクレジットカードの使えるハコであるが、たぶんこの会は使えないだろうなと。
思った通り現金払いでした。
キャッシュレスライターなもんで、現金嫌いなのだ。なのに落語はおおむね現金。
1席ずつ開けて着席。
数えていないが、お客は50人ぐらいか。
コロナ前だったら、平日の主任の定席でも、下手すりゃ満員になった人気者なのに。

前座は、以前高座返し姿だけ見たことのある、女性の美よしさん。
遊吉師の弟子なので、小遊三師からは姪の筋に当たることになる。
前座だが、落語会なので自己紹介から。
遊吉の「吉」の字を読み替えて「よし」にしてもらいました。上の字は・・・見ての通りです。
かわいらしい人ですけども。

寄合酒を、力を入れず演じる。前座らしくていい。なかなか楽しみな人。
しかしここに来る前出歩いていたもので、疲れて後半熟睡してしまった。

番組トップバッターの遊史郎師が上がってもなお熟睡していた。
「よく聞けば猫の水飲む音でなし」という色っぽい川柳で不意に目が覚める。
すでに紙入れに入っていた。帰るはずのない旦那が返ってくる。
ところで師匠・小遊三師はすけべな噺家だと思われている。だが、間男という、この領域はやらないなと思う。
風呂敷は確か、やりますね。
師匠と違う領域を攻めている弟子、その内容は悪くない。
でもこの違う空気感、後から出てくる師匠にひっくり返されて消えてしまうので、ちょっと損だなと思った。
寝てるヤツがなんか言うなって? へい、すみません。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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