小遊三の会@国立演芸場(下・へっつい幽霊)

仲入り休憩後の登場はぴろき先生。明るく陽気に行きましょう。
プログラムには「ギタレレ漫談」と書いてある。ずいぶん以前にウクレレに替わってるのにね。
ぴろき先生はテレビの登場も多いのでおなじみだし、出すネタも知っているものばかり。だが最後にお見かけしたのはこのブログを5年前に始める以前のことだ。

仲入り前の小遊三師が押していたので、手短にやるのかなと思ったのだが、たっぷり。
ぴろき先生の高座は、ますますナチュラルになっている。見た目不自然な人なのに。
客の反応をすくい上げ、すぐに対応する。繰り出すネタも、気分次第のようだ。
知っているネタばかりでも、実に楽しい。これぞまさに、寄席の色物。
本質的に引き芸なのだが、ウクレレの高い弦を弾いたり、引きっぱなしにならないための細かいテクニックが満載である。

満を持して小遊三師が上がる。
あまりなじみのない出囃子が鳴っている。「春はうれしや」か?
開口一番、「ただいまは私の弟で」。
楽屋でよく間違われています。向こうも迷惑でしょうが。可愛い弟ですと。

マクラは早々に、「足は出さねえ」を軽く振ってネタ出しのへっつい幽霊へ。そうそう掛けていない噺のはず。
へっついの説明などしない。

へっつい幽霊という噺、どこのどなたが語っていたか忘れたが、構造的な欠陥があるようだ。
噺のムダも多い。
道具屋の視点で噺が始まり、途中から出てくる渡世人の熊さんが替わって主役になる。そして準主役とでもいうべき幽霊も、出番は最後。
視点がいささか忙しい。
遊びが過ぎて勘当された若旦那も、登場する意味が、冷静に考えるとよくわからない。
そして幽霊の出るへっついが、道具屋から若旦那宅、最後に熊さん宅に移動されるので、客も戸惑う。
地噺でもないのに、地の説明が必要不可欠で、多すぎるということもある。これは、噺の場面転換が多すぎるためだと思う。

だからだろう、若旦那の出ないバージョンも存在する。こちらは、ムダがほぼない。
もっともその分アクセントも少なく、とても短い。
下席から新真打の、柳家花いちさんから若旦那の出ないバージョンを2回聴いた。いずれもらくごカフェ、花緑弟子の会で。
雰囲気は、同じ噺と思えないぐらい違う。
花いちさんのへっつい幽霊は二度とも非常に楽しかった。だが二度目に聴いたときは、「まだ時間あるからもうちょっと聴きたいな」なんて思ったものだ。
長いほうも覚えておいてくれたらいいのだが、さすがにやってるうちわけがわからなくなりそうだ。

もっとも、ムダを楽しむ心境になっていると、フルバージョンがとても楽しい噺である。この日はその感じ。
若旦那が150両吉原でパアーッと使ってしまうエピソードも、全体には貢献していないのだとしても、とても楽しい。
客もまた、これでスカっとした心情になる。
そもそもストーリーが重要な噺だったら、1週間前に瀧川鯉昇師のものを聴いたばかりの私、楽しめなくても不思議はないわけで。
とても楽しめました。
前回も思ったのだが、どことなく秋風が吹く噺であり、この時季が最適。

小遊三師の熊さんは、厠で紙を落とすのではなく、顔を洗っていて手拭いを落とす。ここだけよくわからないが、綺麗ごとにしたいということだろうか。
そういえば小遊三師、肥甕とか、転失気とかやるイメージないものな。笑点でも、エロネタはするが汚いネタは出さない。

鯉昇師のものと違うのは、最初に買った客からすでに、幽霊が出るのを聞いていること。
だから、2人目以降の客には、わかっていて売っているのである。そりゃ、道具屋の評判も落ちるわい。
最初の客が物語る際、いちいち語尾に「道具屋」をつけて話す。小遊三師のやる「提灯屋」を思い出した。
こういうしつこめのクスグリが、小遊三師に掛かると実にサラッとしている。江戸前ですな。

迫力ある熊さんを、どっしり演じる小遊三師。
「怖いおアニイさん」として演じるのではない。アニイの風格は、勝手に湧いてくる。
やはり小遊三師は、超本格派。好きな言葉ではないけども、本寸法の噺家。

笑いがふんだんにつまった噺ではないがゆえに、師の持っているユーモアがいちいち吹き出してくる、そのおかしさ。
最後、バクチ打ちと幽霊が対峙し、丁半に興じるそのシュールさ、くだらなさ。
一発勝負を望む幽霊に熊さん感心しているのだが、本当は幽霊も、数を勝負したいのだ。早くしないと世が明けちゃうという説明が入ることで、噺の不自然さが一気に薄まる。
実はこんな見事な構造も持った噺である。

いいデキの一席だった。師があまりやらない理由は、よくわからない。
私が書いた、噺の構造上のものだろうかと思う。ならば、短いバージョンをやってみればいいような気もするけど。
これを機に、また師がちょくちょくへっつい幽霊を掛けるようになり、日本の話芸にまで取り上げられれば嬉しい。
そしてこの記事に日が当たると私もなお嬉しい。

芸協の会長を受けず、芸道に邁進する小遊三師。また独演会に来たいものです。

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作成者: でっち定吉

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