笑福亭たまの知性の使い方とプロデュース業

朝の更新が遅れてすみません。
日曜日はradikoで「なみはや亭」と「ラジ関寄席」を聴くのが習慣。
どちらにも、私の好きな桂小春團治師の新作が出ていて、ブログのネタができるぞと思ったが、ならなかった。
なみはや亭でやっていた「アルカトラズ病院」は何度か聴いている好きな噺。
ラジ関寄席でやっていた「コールセンター問答」が問題で、小春團治師には珍しく、飛躍のまったくない、日常を描いたネタ。
上方の新作はもともとこういうのが多い。面白いのだけど。

ラジ関寄席のもう一席、笑福亭呂好師は東京型の「短命」を掛けていた。
長さんと短さんのセリフが、ラジオから(同じ声なのに)違う声優さんが喋っているかのごとく聞こえてきて、これはちょっと恐れ入った。
もっとも、落語でこんな感心などしたことがなくて、自分の中でまだ消化できていない。

さて高座からは1日のネタができなかったのだが、なみはや亭にはインタビューが付いていた。
笑福亭たま師については以前、ツイッターの傲慢さに批判をした。そこそこヒットする記事。
京大卒の師について私は、「知性をこじらせている」という評価をしている。
知性は客のために使って欲しい。なんだかもったいない人だというのが、普段の認識。
東京に来たら聴きたい上方落語家は私にとって多数いるが、たま師はそこに入らない。
だが、プロデューサーとして活躍中の師の言葉をラジオで聴き、いたく感心したのであった。

たま師、若手をトリに抜擢し、中トリ(仲入り前のポジションを、大阪ではこう言う。東京より重要性が高い)にベテランを配置する「プレミアム落語会」を開催する。
11月をフルに、神戸新開地喜楽館、天満天神繫昌亭、そして動楽亭まで使う。
動楽亭なんていうのは、米朝事務所の寄席だろうに。

上方落語の欠点は、事務所の力が大きすぎること。
協会はひとつだが、事務所をまたいでの興行が少なく、どうしても持てる力を結集しづらい。
このためたま師は、「吉本興業」「松竹芸能」「米朝事務所」に次ぐ第4の勢力を作ったそうで。名称は「株式会社第4勢力」だそうだが、本当に会社ではないみたい。

たま師も若手の時代は、上方落語の現況に不満を持っていた。出世したらいろいろ変えたいと思いつつ、落語界の上はなかなか亡くならない。
上の人はウデは上がるが、組織対応力は年々低下していく。
そして今の若手は、上を恐れない。思いつきで協会の枠組みを変えろなどと言い出す。
たま師より先輩で、革命を起こそうなんて人まで現れる。
なら、自分でお金を獲ってくればいいだろう。政治家よりGAFAになろう。
これがたま師の発想。

そして本当に、たま師は文化庁からカネを獲ってきたのだった。
本当にカネを獲ってきた人については、誰も文句を言わない。「獲ってきたもん勝ちや」。
カネを獲れる人なんて、他にいないのだ。

若手育成という名目で、文化庁から補助金を得たたま師。
若手をトリに持ってくる企画など、ベテラン師匠からは面白くはないが、文句は言わない。
いよいよ気に入らない人には、参加しない選択肢もある。

これこそ、「若手をスターに」という、文枝師が望んでいたことではないかと熱弁するたま師。
ただ、配信嫌いの文枝師には悪いが、配信もする。
東京から馬るこ師などもトリを取るらしい。

(※ 鈴々舎馬るこ師でなくて、露の団姫さんのことだったかもしれません)

最後の動楽亭のイベントだけは、文化庁の補助金と関係ないそうで。
ここでは、オンラインで有観客チケットを売る。見事なキャッシュレス。
私は特にこの部分に関心するのであります。
鈴本演芸場なんて、「お金に触れない」目的達成のために現金投入機を導入しているのであるが、なにかが間違っている。

そしてたま師、自分のプロデューサーとしての資質を語る。
「熱意を持った国語力で2,000字、イベントごとに書いて、Excelが使える人」。
確かに、ベテラン師匠の誰にも、こんな能力はない。
落語ファンはベテラン師匠のことを、「知性に欠けている」なんて思わない。とはいえ国語力とExcel能力とを両立できる人など、確かにいない。
その点をズバッと切り分けるたま師。こここそ、ぼくの出番なんですと。

別に面白いことを言っているわけではないのに、なんとなく聞かせるたま師の話術はさすがだなと。
プレゼン能力は著しく高い人である。
ケチを付けたいわけではないのだが、たま師の話、なんだかわからないところも二三。
「師匠を持たない若い人が増えてきて、上が怖くない(のでテキトーな改革案を無責任に出す)」ってどういうこと? 上方落語界にいつ、師匠を持たない弟子ができたの?
演芸界のたとえが、一部飛んでしまったのか?

たま師の活動ぶり、あまり好きじゃないところも依然としてある。
ただ、落語界の将来を考え、悲壮感など持ち込まず、とことん楽しんでやれと奮闘する、その立ちふるまいには心底感心します。
東大出だけがひとり歩きしている、はぐれ噺家の春風亭昇吉師にはこんなことはできない。

ああ、大阪行きたいなあ。

作成者: でっち定吉

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