神田連雀亭ワンコイン寄席34(中・春風亭橋蔵「真田小僧」)

二番手の春風亭橋蔵さんは、2年ぶり。
なんともいい味のこの人、ずっと聴きたかった。だが連雀亭のランダムな顔付けにおいて、なかなかいい組み合わせがなかったのだ。
演者にとっても、組み合わせ次第で客入りも変わってくるから、誰と一緒かはとても大事。
それ以上に、どの席に行こうか考えているファンにとっても大事。

もっとも、8月7日の昼席なんて最適の組み合わせではあった。このとおり。

  • 春風亭橋蔵
  • 三遊亭好吉
  • 桂竹千代
  • 入船亭遊京

なんで行かなかったかな。振り返ると、銀座ブロッサムの「喬太郎・文蔵・扇辰三人会」の翌日だ。
オリンピックも続いていたし、そりゃ行かない。

面白いことはなにも言えない橋蔵さん、この日の前説も真面目なもの。
顔はちょっと怖いが、こわもてが武器になるような雰囲気もない。
噺家としては致命的? そんなことはないのだ。
橋蔵さん、落語の芝居はとても上手い。
今回さらに上手くなっていたし、流れるような節回しもまた。
これだけ武器がある以上、即物的な面白さを狙い、わざわざしくじる必要などない。
マクラではメガネを掛けている。本編に入ってから外す、萬橘方式。
そういえば2年前は、梶原いろは亭でも橋蔵さんを聴いた。緊急事態宣言が明けても、いろは亭はまだ復活しない。ダメなの?

「小児は白生糸のごとし」から、真田小僧へ。
2日前に円楽党の前座、しゅりけんさんから聴いたばかりだ。まあ、このスタンダードな前座噺が被るのはもう、仕方ないところ。
だがそれだけでない。聴いたばかりの真田小僧と、出どころがまったく一緒だった。
落語協会では聴かないクスグリが、芸協と円楽党とで、ほぼ共通している。もともとどこから出ているのだろう。
まさか、中1日で「カルーセル麻紀」を続けて聴くとは思わなかった。
その他、「俺は炭団じゃねえ」とか、「気持ちいいよ」と声を上げるかみさんに「俺には言ったことがねえ」とか。いちいち一緒。
カルーセル麻紀はあんまりウケてなかったけど。「チンチンちょん切ってやる」が橋蔵さんのニンに合わないのでしょう。

そもそも前座から真打までまんべんなく出す真田小僧に飽きている。その状態でまったく同じクスグリの噺を続けて聴かされ、ガッカリしかける。
と思ったのもつかの間、これが意外なぐらい面白い一席だった。だからこの人、好きなのだ。
噺家の演技にもいろいろある。リアルな芝居のそれから、棒まで。
橋蔵さんの演技は、最もリアルな芝居のものである。もっともそれがベストで、棒がダメ、必ずしもそういうわけでもないのが、落語の面白いところ。
橋蔵さんぐらいリアルにやると、客が取り残され、世界に没入できなくなったりすることもあるのだ。
だがそんな演技ではない。橋蔵さんの落語はつまり、「シリアスなタッチを用いたギャグマンガ」なのである。初期のこち亀みたいな。
リアルな演技は、すべてアホな登場人物を動かすために使われる。
夏泥とか、上手そうだな。芸協だと置き泥か。

中身も実にたっぷり。客が「しつこい」と感じない、ギリギリの線を攻める。
このたっぷり感のある真田小僧では、後半の真田三代記には絶対進めないなと思う。さらにたっぷりやるそちらも聴いてみたい気もするが。
マクラなし、前半だけで20分の真田小僧など、今後もそうそう聴く機会もないだろう。
といっても、私が「スタンプカード芸」と呼んでいる、教わった通りの展開とクスグリを、律儀にやらないと先に行けない高座とはまったく違う。
橋蔵さんは、とにかくやきもきする親父の心情を大事にする。親父が本当に焦れてくるまでには、それなりの時間を要するのだ。
たっぷりやった結果、ちゃんと我々客が、親父の心情にシンクロしてきたからすごいじゃないか。
つまり、お話としての真田小僧を熟知している落語の客が、金坊の話の先を聴きたくなったのだ。
親父が金坊に銭を渡すとき、1銭ずつ渡していたのが印象的。この回数がだんだん増えていく。

橋蔵さんは、二ツ目になりまだ3年半。
協会は違うが、トリの一花さんと同時期の昇進である。
この日は、真打間近の人と、まだキャリアの浅い人二人の組み合わせだったのだ。どちらにも満足しました。

続きます。
 
 

真田小僧/抜け雀

作成者: でっち定吉

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