土曜はキングオブコントだった。
当ブログでも計算して、日曜日にこの記事が出るようにするとジャストタイミングだったのだが。
遅れ気味に乗っかります。
M-1グランプリについては近年結構書いていて、年1回のお客さんもお越しくださるようです。KOCも毎年の行事にしてみようか。
今年はレベルが極めて高く、びっくり。
漫才をやらないコント専門芸人もすっかり増えた。コント界、レベルがどんどん上がっているわけだ。
コントは漫才と違い、東京が中心。お笑いも落語も、いろんな文化があるほうがいい。
お笑いファンに不評だった、即席コンビはみな落ちたそうで。それだけ全体のレベルが高いのだ。
昨年初めて観て注目した、大阪のロングコートダディも姿が見えない。
今年はM-1と同様、採点してみた。
ただし面白かったもので酒がつい進んでしまい、後半になると少々酔っぱらっている。
すでに毎年の行事にしているM-1は、もう少し真剣に観ている。真剣に観るのも変だけど。
アルコールを入れたおかげで、全然疲れず最後まで楽しく観られた。どっちがいい見方かな。
ただし翌日は二日酔いでした。
審査員は飯塚、小峠、山内とコントの才人ばかりになって、よかったのでは。
女性を一人は入れるべきなのだろうが、ピン芸でないコントの女芸人で、審査員の務まる人はいない。
ところで点数付けたおかげで、最終的な評価は結局好き嫌いにならざるを得ないなあと実感した。プロの審査員だとしても。
演者のほうも、好きになってもらわないといけない。キャラクターもネタ作りも。
客におもねることはないにせよ、とんがっていて賞レースで輝くことはない。
丁稚の採点 | 順位 | |
蛙亭 | 95 | 6位 |
ジェラードン | 90 | 5位 |
男性ブランコ | 90 | 2位通過 |
うるとらブギーズ | 92 | 7位 |
ニッポンの社長 | 89 | 4位 |
そいつどいつ | 94 | 8位 |
ニューヨーク | 88 | 10位 |
ザ・マミィ | 94 | 2位通過 |
空気階段 | 94 | 1位通過 |
マヂカルラブリー | 90 | 9位 |
【決勝】 | ||
男性ブランコ | 89 | 2位 |
ザ・マミィ | 92 | 3位 |
空気階段 | 96 | 優勝 |
普通に面白いのが91というところ。それより下は、ちょっと好きじゃないなという点数。
絶対評価を付けつつも、自然と相対的に自分の中での基準が決まっていく。早めにこれを設定しないと、適当な評価になる。
ニッポンの社長のバッティングセンターコントは面白かったけど、ギャグの手数が少な過ぎだなと。このあたりで好き嫌いが出るのだ。
大コケしたのがニューヨーク。
ウケたときも今回のようにスベッたときも、なんだかベースにある感性が変だなと思う。
登場人物の個性が、一般視聴者に好かれない造形。これがよくないのだと思う。
ボケの嶋佐演じる式場マンが嫌いになり、ツッコミの屋敷の気持ちに同調していくところまでは芸としての狙いでもあるし全然いいのだが、だんだんと屋敷と一緒に気持ちがちょっと怒りに向いてくる。
嶋佐をもっと好かれるキャラにするか、屋敷の怒りを抑え気味にして、この人しょうもな、という呆れる造形にするか、いずれにしても改善手法があると思う。
現状、客を怒らせようとしてしまっていないか?
お前はコント観ながらいちいち本気で怒るのかって? 怒らないよ。ただ笑って観ているうちに、怒りモードが徐々ににじみ出てきて気に障るわけだ。
ニューヨークは、落語聴いたらいいんじゃないか。人物への感情移入の重要性が学べると思う。
私の評価は、蛙亭が1位。他の出演者もみな面白かったが、最後までこのコンビへの評価が崩れなかった。
別に、好きなコンビでもなんでもない。むしろあまり好意を持ってないほうだったが今回、トップバッターで実に見事な作品。
先頭の出番は、審査員たちも認める通りどうしても不利になる。そのため、私の点数はトップバッターバイアスに陥らないよう、努力したもの。もっとも、意図的にかさ上げしたわけでもない。
私が本当に審査員だったとして、最初に95点を付けてしまうのは危険な賭けになる。あとで付けられる点数がなくなってしまう。
だがこのデキならばいいだろうと決断した次第。
蛙亭は6位だが、4位と2点差。惜しいところではあった。
蛙亭、冒頭の緑色のゲロだけはいただけなかった。
「人間でない」ことを手短に説明する、大事なくだりなのは理解する。だがあれで客が引いてしまったら取り返しがつかない。
ちゃんと取り返していたのはすごいけど。
SFの設定だが、世界の詳しい説明を放棄した点見事。この点に不満を持つ人もいそうだが、時間ないのでどこか削らないと。
要は、これだけ伝わればいい。
- 人工生命体が脱出した
- 敵が攻めてくる
- 「母性」に象徴される、人間心理の変遷がテーマ
これ以外の詳しい説明をしないことで、むしろ「人口生命体のくせにオムライスが食べたい」ことについても、説明の必要がなくなる。
限られた時間の中、上手いつくり。
私は落語好きだから、コントを観るときも落語の感性を働かせる。
今回の13本のネタの中で、落語に移殖可能だと思ったのは、この蛙亭のものだけ。だから価値が大だと言いたいのではないけど。
「母性」を徐々にかき立てられるというのは、誰にでもわかりやすい感情だ。落語にした場合、「人情」の大事な要素になる。
ちなみに銃弾を手で受けて落とすという効果音入りのギャグは、落語の場合はこうやることになる。
- バキュンバキュンと口にしながら、手で受け止める
- 手を開いて、一瞬の間をおいてパラパラパラと口に出す。
- カミシモ切って「すごい! 手で銃弾を受け止めるなんて」とツッコむ
新作落語をよく聴いてる方なら容易に想像できるでしょう。
94点の評価にした、つまり蛙亭のわずかな下にしたのが、「そいつどいつ」「空気階段」「ザ・マミィ」の3組。
そいつどいつは、松ちゃん以外の審査員の点数が低くて残念。暗闇を飛ぶパック顔に私はやられたのだが。
あとの2組は、審査員たちと同じく私も高評価。
ザ・マミィは変わった人間のほうではなく、変わった人間に近づく変人を取り扱ったなかなか斬新な作品ではあるが、でも終盤までちょっと面白かった程度に過ぎない。
だが、ミュージカルに入っていってこれもやられた。
コントの芝居から、ミュージカルに入ることは通常はできないからこそのギャグ。ただ今後、賞レースではもう使えないだろう。
そして最高得点を叩き出した空気階段だが、観た直後よりも後でジワジワ来た。
この爆笑コントに、ギャグが一切入っていないことに気づいてである。
SM大好きの二人の登場人物、相手を笑わせる行為としてのギャグは一切言っていない。実は、ビル火災のシチュエーションにおいて、人命救助のための言動以外していないのだ。
にもかかわらず、なんだか言動に終始ユーモアが溢れている。このユーモアは、彼らの縛られた格好そのものと、「Mっ気=勇敢」のおかしな体系から来るが、それだけではない。
二人とも終始軽く、「真剣なごっこ遊びを楽しんでいる」というモードの演技だからだ。真剣から来る面白さを追求した結果、演者も客も真剣さにのめり込んだりしてしまう、そんな作りではない。
空気階段の最大の魅力は、たぶんここにあるのだと思う。作りこんだコントにも関わらず、どことなく漫才っぽいというか。
漫才っぽくもあるが、ツッコまないのが違う方法論。
どんなコントにおいても、彼らは対立しない。常に同じ方向を向いている。
中途半端なネタ構成なら、最後ヒーロー2人が、消防と警察の同僚に取り囲まれ、現実に引き戻されるところで終えるだろう。
だが空気階段は、その手前、2人だけ、依然ヒーローのままの場面で終えてしまう。ネタの中に対立モードを一切持ち込まないので、キツいネタなのに、客も心穏やかに楽しめるわけだ。
こうした点からも、無用の対立にのめり込むニューヨークの不毛さが、間接的に読み取れる。
ちなみに空気階段、決勝のメガトンパンチマンのコントなら、かろうじて落語に移殖できるかもしれないとも思った。
「セグウェイに乗ったトランプ元大統領」という重要なビジュアルは捨てざるを得ないが、彼らの緩いやり取りが落語に通ずる。
悪態をつきつつ、その状況を楽しむ構成は、「隠居と八っつぁん」と同じである。
やはり、とことん対立を避ける構図がある。
あまりにも対立を避けすぎると、平板になってしまうので、それを避ける意識はあるようだ。ツッコミのかたまり、たまに厳しいことも言う。
でも、口調がやはり全然怒っていないし、言われたほうもびくともしない。かたまりも、帰ろうとは一切せずに、不可解な状況を楽しんでいる。
そもそも、コンセプトカフェなど究極のごっこ遊び。
非常に令和の時代にふさわしいコント。
今年聴いた三遊亭小遊三師の「船徳」で、ひどい船頭の船に乗った客が最後まで楽しんでいたのを連想した。
この1年間の、もぐらのクズ芸人としての露出は、方向性としては違っていたのではないだろうか。
これからは別の路線に代わっていくであろう。
コントも楽しいです。
漫才より、落語の脳に響くことが多いかもしれない。