スタジオフォー四の日寄席4 その2(古今亭駒治「ママテツ」後半)

古今亭駒治師の鉄道落語「ママテツ」の模様をお届けします。
まだ師の公式サイト、演目一覧には記述がない。
迷惑鉄の報道が多くなっているのを受けて、最近作ったのだと思われる。

電車を見にきた坊やとママ鉄のお母さん。
そこに撮り鉄が強引に割り込んできて、引退間際の185系を撮っていく。割り込んできたくせに、坊やの顔が映ってしまったと怒りまくっている困った男。
だが姉御肌の先輩ママ鉄が、撮り鉄を撃退してくれる。駒治師の落語によく出る、「アタイ」口調の女の人。
ママ鉄仲間に加えてもらう、坊やのお母さん。
ママ鉄たちの息子は、みんな鉄道を卒業してしまった。5歳になると、駅の名前をそらんじていた子供も、みんな忘れて別の趣味に移ってしまうのだ。
子供にハシゴを外されたお母さんたちが、ヘビーなママ鉄となり、一緒に旅行をしたりしている。
5歳になっても卒業しないのが、たまにいる。中には、いい年こいて鉄道落語を披露したりする落語家まで。

世間で評判が悪いのは迷惑鉄。撮り鉄。
評判がいいのは、ママ鉄、子鉄。
前者は忌み嫌われ、後者はわりと受け入れられているという前提を活かした新作。
だが、迷惑撮り鉄だって、子供時代があった。そして迷惑鉄にもママ鉄がいたのだ。
そんな世の仕組みに、正面から向き合った快作である。
駒治師の鉄道落語、もちろんホンモノの人たちも聴きにくるのだが、ここ四の日寄席のようなライトな(落語ではなく、鉄道の)ファンがしっかり支持している。

新しく仲間に加わったお母さんとともに、ママ鉄4人は鉄旅へ。そこで出くわしたのが、先日出くわした例の迷惑鉄だ。
そして再びすったもんだが。
最後は必ずハッピーエンドに終わるのが、この人らしい。
白熱の古典落語の続いた四の日寄席を、くだらない新作でカッコよく締めるのだった。
駒治師、真打昇進後に池袋のトリを取ったが、そろそろ次の主任があってもいいのではなかろうか。

四の日寄席の冒頭に戻ります。
落語というものは、当たり前だが同じ噺を繰り返し聴くもの。
落語好きはそのことに慣れている。だが繰り返し聴いて、本当に飽きてしまうこともなくはない。
個性豊かな演者を味わいたいのに、同じ展開の同じ噺が、同じクスグリで繰り返されると、辟易することもある。
この日出た演目だと、「熊の皮」やら「湯屋番」など、そうなりやすい。
だが、やまと師からも文菊師からも、どこにもない型を聴けて、大満足。
生半可な作り方ではいけないのだ。噺を肚にいったん収めて、展開やクスグリを乗せ直すぐらいでないと。
先人は「登場人物はこの先を知らないんだ」とか「人物の了見になれ」などと言う言葉を残している。抽象度の高い言葉であり、とても難しい教え。
だがその完成品を続けて聴けた。

まず桂やまと師の「熊の皮」から。最近やたらと流行っている噺。
やまと師は、独演会のお知らせから。芸術祭参加公演ですと。
馬石アニさんも芸術祭参加公演の独演会をやります。ライバルです。
私、今まで封印してきた圓朝ものをやりたくて、その馬石アニさんに相談したんですとモノマネ入り(似てる)で。
圓朝もの、どれから始めたらいいですかと訊くと、「牡丹灯籠かな」とのこと。
それから、圓朝ものは誰に教わったらいいんですかと尋ねるやまと師。
圓朝ものはね、圓朝全集が出てるんだから、自分で工夫して、覚えていいんだよ。うちの師匠(雲助)もそう言ってたよ。まあ、ぼくは師匠に教わったけど。
教わるんかい。

甚兵衛さんは人がいいと振って、本編へ。
やまと師は口調が明るく、開口一番で空気を作ってくれる。
熊の皮は、やたら強いかみさんが、甚兵衛さんを尻に敷いている噺。
誰が掛けても、ちょっと怖い、強いかみさんが描かれる。
だがやまと師のおかみさん、なんだかいい人だ。
甚兵衛さんが尻に敷かれる状況を楽しんでいるふうな熊の皮(あるいは加賀の千代)は見かけるものの、第三者から見たかみさん自体が素敵に見えたのは初めて。
ぱあぱあ言ってるかみさんだが、妙に優しい人。甚兵衛さんも、多少は反抗するが割と素直に先生のところへお礼に出向く。

先生のところで「ご在宅」からやり直す甚兵衛さん。
これも、セリフが決まっているというより、甚兵衛さんが本当に思い出して繰り返す、自然なやり取りで実にいい。
先生は甚兵衛さんが大好きだが、甚兵衛さんのほうが先生がそんなに好きじゃない。そこまで言われた先生、ちょっと嫌になったらしいが、でも鷹揚。

サゲのセリフも、本当に急に思い出した感じの甚兵衛さん。
いい一席である。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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