浅草・落語協会真打披露 その2(柳家わさび「釜どろ」)

ちなみに、元会長柳家小三治が亡くなったばかりだが、それに対し言及した人は、この日ほぼなし。
めでたい披露目の席だから、そんなものだろう。
歌丸師が亡くなった直後の芸協の披露目でも、これはそうだった。

真打の最初は、柳家わさび師。
「ヘンな髪型なのに拍手していただきありがとうございます」。
よくヘアスタイル変える人。今日はかりあげ君みたいな。わざわざ変な髪型にする変人。
今日はテレビの収録で、カメラが入ってます。NHKのプロフェッショナルでも入ってると思いました?
でも残念でした、千葉テレビです。千葉テレビが残念だなんて言っちゃいけませんけどね。
わさび師は、わりと浅草お茶の間寄席に出番がある人。

前座のぽん平さんを、落語が上手いと褒める。
ぽん平さんが海老名の坊ちゃんと知り、感心する客が数名。
このあたりはたぶんオンエアではカットだろう。
そういえば二ツ目時代のわさびさん、必ず先に出る前座をいじっていた。
金原亭小駒さんを「志ん生の曾孫なんですよ」と教えてくれたのもこの人だった。真打になっても浅い出番でこんなことをしている。

すっぽんの亀五郎、鼠小僧と石川五右衛門を振って、釜どろへ。地の説明が多いのでお血脈かと思った。
これは、今日の長い昼席の中でも出色のデキ。特に、もうちょっとなんとかならないものかなと思った前半の中でのハイライト。
わさび師は、軽い古典落語が本当にいい。
古典落語がいいのは、新作に手を出している効果だと私は思っている。
新作をやるためには結局、古典が肚に入っていて、自由に出し入れできないといけない。
わさび師、別に新作の評価が低いわけではないだろうが、最終的には古典で売れる人だと私は思っている。
この人のように、新作への取り組みの成果が、古典落語のほうに現れる人もいる。
だから若手も、新作はどんどん作ったほうがいいと思います。桃月庵白酒師だって新作やってたわけで。

釜どろは、わさび師に向いた実に軽い噺。
爺さんと婆さんの他愛ないやり取りがほぼ肝。これが実に楽しい。
力が徹底的に抜けているのがいい。これもまた、新作の効能で、噺を客観的に観察できるようになっているのだと思う。
私がTVKでもってこの高座のオンエアを見るのはしばらく先になりそうだが、楽しみにしています。

しばらくご無沙汰していたにゃん子金魚に、最近よく遭遇するようになった。
前回も聴いた古関裕而ネタ。
同じネタでもこの人たちの漫才、ネタの骨格と、アドリブを区別しながら見ると実に楽しい。
ああ、そろそろゴリラに入るぞという。
出演者が多いので、この芝居の色物はみな時間が短い。もうちょっと観たいなと思うところでハケるのもいいものだ。

春風亭三朝師は、実にスタンダードな壺算。教科書みたいな一席。
オーバーアクション気味なのにスタンダード感満載というのが、この師匠の持ち味なのであろう。
一朝一門だから、いろいろやってみた結果、ここに落ち着いたのだと思う。
スタンダードさを徹底するため、汗をかくのだ。
瀬戸物屋の親父のテンパり度合も、実にスタンダード。これ以上振り切ったらいけないという寸止めレベル。
いい高座にたった一か所、疑問があります。
抜けたほうの男が「俺は二荷の甕だって言ったじゃないか」って怒るシーン、確かによく見るけど、必要なのでしょうか。
抜けてるんだから、ボヤーッと存在感だけ出しておいたほうが楽しいのではないか。つっかかる壺算を聴くたび、いつも思うのです。
入れない人もいるのは、つまりそういうことでは。

続いて超ベテランの三遊亭歌笑師匠。82歳。
先日、生前の小三治を「老害」として糾弾した際、その翌日にベテラン師匠の一部を一緒にやっつけ、歌笑師も批判した。
インチキ噺家司馬龍鳳に「三遊亭」を与えてしまったことについてである。
まあ、こちらはただの素人。プロの判断に口を出す権利はないと言われたらしまいだが。
確かに、私の大好きな好楽師が「林家九蔵」をかつて素人に名乗らせていたり、春雨や雷蔵師が協会員でない弟子に亭号を与えていたり、微妙なケースは他にもあるのは確かだ。

歌笑師、浅草お茶の間寄席に以前出ていた。
その再現のような高座でした。まあ、それだけ何度か聴いているわけだけど。
4つの病気と闘っている。あるとき名古屋で下から出血し、弟子の大須くるみに泣かれ、東京に戻ってくれないと破門すると言われたという。
そして、兄である先代歌笑の売り物「歌笑純情詩集」。豚の夫婦。

人工肛門を4年使ったが、もう取り外したらしい。これは初耳。
本編も、かつてのお茶の間寄席と同じ松山鏡だった。
出演する最後の芝居になるかもしれない、そんなつもりで高座に上がっている師匠なのだろうに、私はちょっと寝てしまいました。
仕方ない。長い寄席は、様々な思いを全部吸収してしまうのだから。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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