神田連雀亭ワンコイン寄席35(上・桂笹丸「尻餅」)

火曜日は、三遊亭鳳志師の独演会を聴きにいった。お江戸日本橋亭。
日本橋亭に行くのなら、近所に連雀亭があるではないか。ハシゴしてみよう。ということでワンコインへ。
連雀亭からのハシゴ先として、日本橋亭は初めてだ。徒歩圏内。
この日の顔付けは当日知ったのだが、なかなかいい感じ。

秋葉原から向かったのだが、奥の青信号に合わせて、交差点の手前を横切ったら、ちょうどおまわりさんが3人万世橋のほうから歩いてきた。横断歩道を渡ってくださいと直接注意されてしまった。
今啓発活動中ですと、ティッシュなどが入ったノベルティを手渡された。
どうもすみません。まあ、万世警察の正面を渡る私が馬鹿なんだが。

開演間際に着くと、満員に近くて驚いた。満員といっても、まだ市松模様に座って19人だけど。誰の集客?
誰というのではなく、落語に飢えていた人たちなのか?
そろそろ、トイレのエアータオルも復活してますね。ヤマダ電機では、感染の危険が少ないことが判明したので解禁しますと、丁寧な注釈がついていた。

尻餅 笹丸
目黒のさんま 文吾
厩火事 吉緑

 

橘家文吾さんが前説。笑わせてたが、なんだっけ。
トップバッターは桂笹丸さん。袴姿。
コロナで減ってしまった会の中には楽しい会もあったという話。そして師匠、竹丸について。
竹丸師は、「平成生まれの弟子がちゃんとしていない」というネタをよくするが、ウソですという告発。
師匠宅で、ベランダの「洗濯機まわりを掃除しろ」と命じられた笹丸さんが、裏側を掃除しなかったことはあった。それは本当。
これが師匠に掛かると、こうなる。再現する笹丸さん。
「弟子に掃除しろっていったら、なにもしてないんですよ。叱ったら、『あまりにも汚かったのでしませんでした』と言い返します。あまりに頭にきて引っぱたいたら、『親に殴られたこともないのに』」。
盛っているのはいいとして、困ったことに師匠は自分で作ったこのエピソード、喋っているうちに真実がなんだかわからなくなったらしい。
二人っきりでいたときにも、「前科」として扱われた。どうなっているのだ。
しかも高田文夫先生のラジオに出たときもこのウソエピソードを話し、先生に「とんでもない弟子だな」と同意されたそうで。
最近では、このマクラを通してしか笹丸さんを知らない前座たちに、そういう人なんだと思われている。

入門して間もない頃、師匠にタイパブに連れていってもらった話。
師匠は日常用語ぐらいならタイ語が使える。女の子たちを笑わせているが、なにを喋っているかわからない笹丸さんが愛想笑いをしていると、「弟子なんだからもっと笑え」と叱られた。
その後師匠は、女の子におさわりをして、「シショー、やめて」とか言われている。「いいじゃないか」と悪代官みたいな師匠。
師匠、あろうことか笹丸さんに「お前も触れ」。笹丸さんが拒否していたら、このとき一回だけはたかれたそうで。
なんて一門なんだと笹丸さん。

師匠を糾弾するわけではなく、トホホ感満載で語る笹丸さん、とても楽しい。
兄弟子の竹千代さんも描かれる。

急に寒くなってきましたねと、尻餅。
ずいぶん先取りしているような気もするが、大みそかまでは2か月ちょっとだ。そろそろ、こんなのも出る。
年末限定の話だから、年明けはできない。急激に寒くなった今こそやっておかないと。
尻餅は年末にたまに聴く噺だが、芸協の人からは初めて。
そして、落語協会や円楽党とはまったくスタイルが違い、面白いものだった。

この噺は、「夫婦二人の情景」と、「餅屋がやってきて餅をついている情景」とを、高座の上に二重に観るものだと思っていた。
笹丸さんのやり方はまるで違う。あくまでも、亭主である八っつぁんのお遊び(とちょっとの狂気)を映し出すのである。
餅屋が独立した映像になることはなく、あくまでも八っつぁんの目からすべてが描かれる。
私の知っている尻餅は「湯屋番」型であり、今回聴いたのは「野ざらし」型だと思えばいいだろう。狂気が生み出す世界に着目するか、狂気そのものに着目するかの違いである。
狂気そのものも面白いなと。

そしてストーリー上、ひと晩間に挟まっている。
八っつぁんは夜のうちにかみさんに朝起こしてくれと頼んでいるのだ。そして朝から、狂気に充ちたお遊び炸裂。
家の前の場面から、餅屋の3人を描き分け、「いい男の八五郎さんのお宅はこちらかい」などとやっているので、かみさんが呆れている。

かみさんのお尻を上手に叩く八っつぁん。これは笹丸さんの音の出し方が上手いのだ。
中手を入れてもいいところ。
サゲは、おこわでなく「お赤飯にしてください」だった。
トップバッターから見事な一席。

続きます。
 
 

作成者: でっち定吉

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