鳳志十八番(上・三遊亭鳳志「二十四孝」前半)

円楽党に通ううち、超本格派の三遊亭鳳志師が好きになった。いずれこの人の会に出向こうと思っていた。
東京には600人の噺家がいる。鳳志師に着目している人はまだまだ少なかろうが、必ず抜け出してくるはずです。
兼好、萬橘、王楽に次いで円楽党で売れるのは、きっと鳳志師。

まだ若手なのに、SNSをほとんど使わない人である。ツイッターで会の告知ぐらいすればいいのに。
この日の日本橋亭の独演会か、一週間先の広小路亭「鳳の会」のどちらかに行きたいなと。仕事の都合で早いほうを選び、直前に予約を入れた。
予約で2,000円。

鳳志十八番は、圓生全集をひとりで演じていく会なんだそうだ。
今回は、「二十四孝」「汲みたて」の二席。いずれもネタおろし。
汲みたては珍しいが、数ある古典落語の中でも、私の好きな噺の筆頭である。
ちなみに読み方、「ほうしおはこ」でいいのかな? 語呂が悪いから、じゅうはちばんか。
今回選ばなかった「鳳の会」は、鳳笑、鳳月という弟弟子二人との三人会。三人とも好きなので、こちらにも行きたいものだが。

神田連雀亭から移動する。食事していたら13時30分の開演ギリギリだ。
席をまだ減らしている日本橋亭では、昼間から意外と入っているように見える。20人ぐらい。

お竹如来 貞奈
二十四孝(ネタ出し) 鳳志
仙台の鬼夫婦 貞弥
(仲入り)
汲みたて(ネタ出し) 鳳志

 

幕が開くと釈台が出ている。前座は講談。
女流の一龍斎貞奈さん。講談協会。
東京には講談協会と日本講談協会とがある。日本講談協会のほうは、芸協の寄席に欠かせないからそこそこは知っている。
いっぽう、講談協会の高座に触れる機会はめったにない。落語協会の寄席に出ている宝井琴調先生ぐらいだ。
落語協会と芸術協会は、このたびのクラファンで歩調を合わせたところたが、勝手にびっくりしたファンが多くいた。もともと対立していないから、不思議なことではないのだけど。
いっぽう講談のほうは、ひとつの団体が分裂したので事情がまったく違う。
それでも講談の二協会、泉岳寺でもって忠臣蔵を語る合同の会を始めたそうで。

貞奈さんは、実在の心優しき女性を描いた「お竹如来」。
生きた大日如来だと崇め奉られるお竹。お墓がこの日本橋亭の近所(馬喰町らしい)にあるのだとか。
いい高座でした。もう5年前座をやっているらしいので、そろそろ二ツ目なんだろう。

続いて主役の鳳志師登場。
先日、熱が出て医者に行ったら、37度の微熱だがPCR検査やら抗原検査やらいろいろ受けさせられて大変だったそうで。
この時期、うっかり風邪も引けないと。

小三治について。
円楽党とか、他団体のほうが話題にしやすい人のようである。
小三治師匠は、とにかく「間」が強かったですねとのこと。カミシモ切って語り手を入れ替える際、しばしばかなりの時間を掛けるのだと。
あのマネはできませんと鳳志師。
いや、しなくていいぜと思った。ご本人もそう思ってるみたい。

私、この世界入る前、笑点しか観てなかったもので、噺家のこと知らなかったんですよと鳳志師。
知っていたのは、先代圓楽ですね。あと、紫の人ぐらい。
紫の人、笑点観て性格悪そうだなと思っていましたが、お会いしたら本当にそうでした。
そうなんだ。同じ大分の文治師みたいな、落語大好き少年だったのかと思ってたけど。
でも本格派になり、圓生全集に挑む鳳志師。

二十四孝という噺、先代圓楽にこだわりがあったようで、王楽師に最初に教えた噺がこれなんですよとのこと。
王楽師のことを、「弟弟子」だと言う鳳志師。
ちょいと脱線するが、円楽党の人は、他の師匠についている弟子のことも、後輩だったらみな「弟弟子」と言う傾向がある。他の団体では見ない文化である。
王楽師は後輩だが、鳳志師からは叔父筋にあたる。そういう人、普通は弟弟子とは呼ばない。
同様に円楽党、先輩のことは誰でも兄弟子と言う。アニさんは兄弟子なのだ。
ところで、二十四孝は前座噺ではない。なのに王楽師、前座の最初の頃はこれしか教わっていないので、毎回この長い噺を掛けていましたとのこと。
他の「圓生十八番」で出す噺と同様、鳳志にとっても二十四孝はネタおろし。

江戸っ子というものは、いまだによくわかりません。なにしろ私、大分ですから。
円楽党自体、江戸っ子は少ないんですよ。私の師匠は川越ですしね。小江戸っ子ですね。
無筆の「兄貴も読めねえんだから」の小噺を振ってから本編へ。「手紙無筆」以外でも使うんだな。

二十四孝の主人公、八っつぁんは乱暴者。今日もかみさんと母親を引っぱたいている。
大家のところに離縁状書いてくれとやってくる。「れえん状りゃんこ」ではなかった。
離縁状はもともと「天災」から来ているくだり。
親不孝な奴は店立てするぞと言われて引き下がり、さらに大家に二十四孝を教わる八っつぁん。

続きます。
 
 

作成者: でっち定吉

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