令和の落語界における「笑点」の地位 その3

笑点メンバーはなぜ売れるか

笑点メンバーは売れている。
当たり前だろう、座布団利権を手に入れたんだから。
笑点のギャラはさほどでもないにせよ、地方の落語会のギャラが一桁上がるのだ。好楽や三平まで上がるらしいじゃないか。
・・・そう思われますか?
まあ、まるで間違いでもないとは思う。
だがここで論じたいのは、売れる素質を持った噺家が笑点を足掛かりに、スターへのステージを登っていくそのさまについてである。
もちろん、好楽師匠もここに入ります。

笑点メンバーがすごいのは、大きな一門を抱え、弟子まで売れていくということ。
笑点嫌いの落語ファンはおおむね、このあたりの関連性を真剣に考えないよう心掛けている。考えると、落語界が笑点メンバーによって動かされていることに気づかざるを得ないから。
特にすごいのが、木久扇、好楽、昇太といった師匠がた。小遊三師や円楽師もそこそこ。
それぞれ、こんな弟子がいる。

  • 林家木久扇・・・彦いち、木久蔵、きく麿、けい木
  • 三遊亭好楽・・・兼好、とむ、(弟子ではないが息子の)王楽
  • 春風亭昇太・・・昇々、昇吉、昇也
  • 三遊亭小遊三・・・遊馬
  • 三遊亭円楽・・・楽大

挙げなかった弟子にも大勢楽しみな人がいるが、私の好きな噺家だけで埋めても仕方ない。
そして、いずれも弟子の人数が多い。
さらに、破門は極めて少ない。上に挙げた師匠の中では、木久扇師のところにひとりだけだ(現・立川わんだ)。

笑点メンバーから、売れる噺家(テレビタレントとは限らない)が出てくるこの事実。
落語界ではいっぽう、やたらと弟子を破門するダメ師匠が、しばしば偉そうにしている。
売れてる人は黙って背中を見せてればいい、そういうことだと思っている。
必ずしも、師匠が弟子を使ってくれとプロデューサーに頭を下げてるのが売れる理由じゃないと思う。やってないとは言わないが。

たい平師は、大きな一門で育ったのに(だから?)噺家の弟子がいなかったが、息子が弟子入りしている(さく平)。
笑点メンバーでは、息子の噺家は4例目だ。これもまた、弟子が売れる関連性の証明になっていくと思う。

笑点メンバー以外にも、弟子を多く抱え、破門もそれほどしはしない、立派な師匠はいるだろう?
もちろん、いるとも。私自身も、よくそういった名師匠を話題にしている。
笑点絡みで東京に限定する。鈴々舎馬風、三遊亭円丈、柳家さん喬、春風亭一朝、金原亭馬生、瀧川鯉昇、桂伸治、柳家花緑・・・おや。
あとは? 昔昔亭桃太郎師は入れていいかな。弟子3人程度の人は数えない。
いかに、落語界における笑点メンバーの比重が高いか、改めておわかりいただけるでしょう。

笑点こそ落語(緩さについて)

「笑点は落語ではない」「笑点が落語だと思われたら困る」などと言う。
笑点嫌いのファンだけではなく、プロだってこんなことを言うことはある。
笑点、つまり大喜利が落語じゃないのは、まあ、当たり前のこと。形式上の話。
大喜利は、寄席の彩として最後にやるのが本来の姿であり、意味。ピンからキリまでのキリが語源である。
今でも、たまに寄席でもって大喜利をやる芝居がある。
他にも鹿芝居とか、住吉踊りとか、にゅうおいらんずとかいろいろな大喜利があるが、これが落語ではないというのは当たり前。
だが、そんなことが言いたいのではない。

寄席に行って、どう過ごしていますか。
昼席で、前座から最後までいるとして、その間ずっと笑い転げていますか。
そんなのは無理だ。
非常にこう、緩い、くつろいだ気持ちでいることが求められる。寝てもいい。
落語の楽しみとは、緊張とは無縁のところに位置する。もちろん、トリの師匠の30分間は、緊張してもいいだろうが。
こういう緩さを好ましいと思う人が、笑点をたまに見たときに、なぜ急に爆笑、尖った笑いを求める?
テキトーに、緩くやっているところが落語とイコールなのである。
もちろん、中にはその番組構成の巧みさにまで深く立ち入って、感じ入る人だっているだろう。
木久扇師匠の、その80を超えてもなおアグレッシヴに笑いを求める貪欲な姿に涙する、珍しい人もいるかもしれない。
だがいずれにせよ、表面に映し出されているものはとにかく緩い。
緩さをよしとして、緩さを徹底的に作り上げる番組の空気が、落語とまるで違うものだろうか。

笑点メンバーの師匠の高座を個別に観察すると、おおむね笑点と共通の、とても気持ちのいい緩さが漂ってくる。
人情噺に入るとしても、入口は間違いなく、そう。笑点漫談をマクラにするとか、そんな陳腐なレベルでなくて。
もうちょっとその、「緩さ」を積極的に評価したいと思う。
だから好楽師匠なんて偉大だ。つくづくそう思うのだが。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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