神田連雀亭ワンコイン寄席36(中・春風亭一花「辰巳の辻占」)

ぽん太さんは噺の中でもって、「浅草橋のかばん屋の娘さんの一花さんですよ」と婆さんに言わせたり、さらに遊んでいた。
東京かわら版のカバー(ご実家で作成している)とか、得意の笛で攻撃するとか、無理やりすぎて、どんな脈絡でどう使ったのか思い出せないギャグも多数。
でも、ちゃんとした宮戸川になっていたからすばらしい。
たったひとつだけ残念なのは、これだけテンポいいんだから、冒頭の「締め出し食べちゃった」をあまり引っ張らないで欲しいなと。
お前の好みだろ、と言われたらまあ、そうなんだけど。
ただ、状況をはっきり描かずに締め出し食べさせておいて、それから具体的に肉付けしていく展開はいい。

そのうち、「お直し」や「幾代餅」を馬久と一花でやる人も現れそうだ。

トップバッターから大盛り上がり。浮かれた連雀亭。
赤面しつつ登場の一花さん。「なんなんでしょうね」。
今の噺は宮戸川ですけど、今日しか使えないのにわざわざ準備してくださったんですよ。すごいですね。
昨日は、馬久アニさん(人前ではそう言うのだ)の弟弟子の、馬太郎さんと二人会でした。
馬太郎さんがマクラで言うんです。
「最近馬久アニさん、白髪が多くなりましたねと、師匠(馬生)に言いました。師匠が答えて、お前にはまだわからないだろうけど、人知れず苦労があるんだよ」。
今日はその、「義理の師匠」に教わった噺をしますとのこと。
義理の師匠なんて言葉、初めて耳にする。噺家同士の夫婦にしか成り立たない言葉だな。

脱線するが、「馬太郎」を一花さんが平板に発音するので軽い違和感を覚える。
「権太楼」「圓太郎」「喬太郎」なら当然平板に読む。甚語楼、三語楼なども。
だけどこのギョーカイでは「ひな太郎」「枝太郎」といった名前すら、みんな平板アクセントで読むのだ。
アクセントをつけて読む太郎は、昔ばなしでおなじみ「桃太郎」だけじゃないのかな。
浪曲の「勝太郎」とか「福太郎」とかは、たぶん平板じゃないよね?

最近、親が死んで遺産が入ってきた男(無尽が当たったのではなく)、女が金を持ってこいと言うのでおじさんが心配している。
辰巳の辻占だ。
男が狂言心中に出向くまでは、実にスピーディ。ブリのアラもない。

「欄干に手でも足でも掛けるようなら、おじさんが一緒にしてやる」と語って一花さん、「これ、宮戸川とばっちりツいてるじゃないか」。
あえてやったわけではなく、本当にうっかりしたみたい。

一花さんは女流には珍しく、男だけの噺を楽しく語れる才人。
とはいえ、女性を避けているわけでもないらしい。たまに女性を描くと、色気があってたまらない。
女流だから女性を描くのが上手いなんて単純なことではないと思う。男の噺家と同様、ちゃんと一から構成し直した女の造形。
辰巳の辻占でいうと、茶屋のおかあさんがとてもいい。
いっぽう、遊女のお玉ちゃんのほうは、とてもテキトーな人。テキパキしている一花さんの中に、この造形はないところだと思うのだが、ちゃんとゼロベースで構築する。
でもやっぱり、一花さんの地がどこかに出てくる。かわいいぞろっぺえ。
こんな女なら、全然許す。人を食ったサゲもたまらない。
ひとのいい一花さんが演じれば、ひどい女の噺でも気持ちよく聴けるのだった。

巻きせんべいから中の辻占をフッと吹いて広げる仕草が実に上手い。
かんざしなど高価なものは皆置いて出掛け、とっとと済ませてこようという乱暴な噺。
人の生き死にを軽い冗談にする、すごい噺ではある。生々しかったらダメだ。
心中しなきゃいけない理由は、非常に適当。とにかく友達ふたり殺しちゃったので、死んでくれ。
お玉のほうも、実に軽い。

この噺に関しては、入れごとはしない方針みたい。
入れてこなくても、問題なし。もともとギャグに頼ってなどいない人だ。

辰巳の辻占なんて、女流がやるのは聴いたことがない。
廓が出てくると、みなやらない。ぴっかりさんから聴いたぐらいだ。
私は女流に花魁をぜひやって欲しいのだが。今後、一花さんの廓噺ラインナップが増えていくことを期待する。
「文違い」なんてすぐにでもやって欲しい。
「品川心中」や「お見立て」を花魁目線でも描いて欲しい。

続きます。

 
 
当代金原亭馬生「辰巳の辻占」「紙入れ」

作成者: でっち定吉

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