国立演芸場15(下・柳家さん花「五人廻し」)

神田須田町から1時間弱歩いてきたら、眠くて眠くて仕方ない。
国立に来る前、コーヒー飲んできたのに。
ヒザ前、さん喬師おなじみの「締め込み」を聴きながら、半分寝てしまう。
「そこです」がうつらうつらしている耳に聴こえてきた。
さらに仙三郎・仙成の太神楽も続けてほぼ寝ていた。
こんなに寝ていたら、1,400円はかなり高いぞ。めでたい席に欠かせない太神楽だって、いつも観てるからいいってもんじゃない。
当ブログの読者の方は、でっち定吉は寄席でいつも寝てやがるなと思われるかもしれない。いつも寝てます。
ただし、この日みたいについ寝てしまうときも確かにあるが、最近は「いつ寝ておけばいいか」を考え、戦略的に寝ている。
別に睡眠不足でもナルコレプシーでもない。落語のときだけ昼間寝る。

しかし、目覚めてからトリの一席、新真打さん花師の「五人廻し」は見事だった。
私この噺好きなので、披露目だからって評価が甘いわけではない。

さん花師登場して、口上では喋れないものですから、ここで一言言わせてください。
左龍アニさんが、私の身長187って言ってましたが、188です。
楽屋から、「どうでもいいよ!」とかなんとか、大声でツッコミが入る。
あと、母ひとり子ひとりというのは、嘘じゃないんです。私が大学のときに父が亡くなったので。
ただ、母が優しいのかというとちょっと。母は免疫が弱くて、ワクチン打ってないので披露目にまだ1日も来ていないんです。
その母が「ワクチン打って披露目に出てもいいよ」と言ってくれました。上目線ですが。
「無理しなくていいよ」と答えました。そうしたら返答が「よかった」。こんな母です。

廻しの説明をしてから、本編へ。
ちょっと工夫をするさん花師。
通常の五人廻しは、この順序で廻し部屋が描かれる(扇辰バージョンによる)。

  1. 吉原通を気取る職人
  2. 漢語を駆使するインテリ
  3. 自称江戸っ子の田舎者
  4. 「酢豆腐」でおなじみの若旦那
  5. 「お見立て」でおなじみ杢兵衛大尽

Wikipediaでは2と3が逆に書いてある。圓生は4人しか出さなかったり、もともといろいろあって、考えて自由にやればいいところだ。
だがさん花師のように、1⇒4⇒3⇒2と進むものはまったく初めて。
漢語を駆使するインテリは、妻の体が弱く、夜の相手ができないのでやむなく登楼しているというのが本来。
だがさん花さんはこれに、「妻もいて、2人の娘もいるが、女が欲しい」なんて言わせている。
「見方によれば悲劇」という噺にはしない。
順序を変えた理由もわかってきた。落語の客が触れる登場人物のクレイジーさが、徐々に増していくよう構成し直したわけだ。
そしてたぶん、だんだん、さん花師の得意な人物になっていくのだ。

田舎者は、畳を全部上げて、あまっこを探している。
ちょっと行ってくるわねと言っていなくなったあのあまっこ、どこ行ったか探しとるだよ。シャレがきつい。

4番目に持ってきた、インテリ男の造形はとてもいい。
さん花師のものの見方が垣間見える。つまり、難しい言葉をすらすら喋る男は、それ自体がとても面白い存在だということ。

私の大好きな扇辰師の五人廻しで描かれるような、ペーソスはまるでない一席。
だが、それは欠点でもなんでもなくて、古典落語に対する焦点の当て方がまったく違うのだ。
さん花師は、バカな男たちの楽しい造形を徹底して描いてみせる。
バカな男は、バカなままでいいのだ。下半身に人格が宿っているような連中。
これだけめでたいバカが集まると、披露目のトリで出す噺としてはぴったりじゃないかという気がしてきた。

喜瀬川花魁は、バカな男どもの上前をはねる人。この人の行動原理はよくわからないのだが、それでいいのだろう。
こんな女に惚れるなんて、まったくもっておバカさんだ。

披露目の口上で紹介されていたとおり、「ちょっとだけ」変えてくるさん花師の魅力あふれる一席であった。
ちょっとだけとはいいつつ、全体の印象としてはかなりいじっている気がしてくる。
楽しみな真打が登場しましたね。

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作成者: でっち定吉

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