一目上がり

NHKで朝やってる「演芸図鑑」。録画を見てみたら柳亭小痴楽が出ている。二ツ目さんが出るのは珍しいが、芸協期待のホープではあります。
この番組、世間で軽く見られることが多いと思うのだ。噺家さんからも、ネタ扱いされている気がする。
「客も落語ファンでなく素人なので、過剰に笑ってくれかえってやりにくい」とか。「純朴な視聴者から、『朝早いから大変ですね』と言われる」とか。
それはそうと、この番組の10分前後でやる落語に、私は大きな価値を見出している。大ネタでなく、寄席で掛けるネタを10分でやれるかどうかで、噺家さんの実力が如実に出ると思っている。
人選に首をかしげることの多い「日本の話芸」よりよほどいい。

さて小痴楽が出していたのが「一目あがり」。表記は「一目上がり」ではないのだな。
小痴楽は、高校を留年してやむなく噺家になったが、父痴楽が病に倒れてしまい、現在の桂文治師に預けられたが破門されるという、若旦那というより与太郎まっしぐらの噺家。こういう人が巧いのだから人生は面白いです。
聴いていて言葉のリズムが心地いい。クスグリもサラっと繰り出すので疲れない。
この系統の喋りは、稽古量がものをいうのだろう。真打になったら痴楽を襲名するのであろうか。

「一目上がり」。よくできた噺だと思うのだが、寄席であまり聴かない。TVでもあまりお目にかからず、私のコレクションにあるのも、市馬師、扇遊師のものくらい。
寄席では、導入部がまったく同じ「道灌」「雑俳」とツイてしまう。「子ほめ」が出ていてもできない。
前座がやるには、次々登場するキャラクターの描き分けが難しそうだ。といって、落語会でやるには小ネタだ。
仕入れの努力の割に利益の少ない噺なのだろう。儲からないというやつ。

隠居のところで、掛軸のほめ方を教わる八っつぁん。いいサン(賛)だとほめなさいと。
さっそく実践しようと今度は大家のところへ。「近江の鷺は見がたし、遠樹の鴉見やすし」と書かれた掛軸を「いいサンだね」と褒めるが、これは「シ(詩)」だと言われる。
医者の藪井竹庵先生のところへも行って「いいシですね」と褒めてみるが、「これは一休禅師のゴ(悟)です」と言われる。
サイコロの目のようにひと目ずつ上がっていく法則性(?)に気づいた八っつぁん。兄貴の家にいって、先手を打って「いいロクだね」と褒めることにする。
しかし「シチ福神の絵だ」と否定される。
隣にある俳句を見て、これはハチだろうと褒めてみるが、「芭蕉のク(句)だ」。

七福神の絵に添えられた歌、「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」という回文など、隠れた教養に溢れた噺だと思う。
あまり出番のないもったいない噺だけど、NHKの「えほん寄席」で取り上げられている。これは入船亭扇遊師。
子供はもともと、落語のすべてを理解するようには聴かない。実社会でそうであるのと同様、大人のわからない会話の中に、一部わかる部分があれば楽しめる。そういう意味でいいチョイスだ。

「道灌」を爆笑ネタに昇華させた橘家文左衛門師はやらないのかな。乱暴な八っつぁんが、兄イのところに乗り込むシーンが見たいものである。

(2019/3/4追記)
文左衛門改め文蔵師の一番弟子、文吾さんが前座のかな文時代、文蔵襲名の披露目で掛けているのを聴きました。
三遊亭好の助真打昇進披露目でも、萬橘師が掛けてました。めでたい席には重宝される噺です。
なんでもないときには相変わらず聴きません。黒門亭で春風一刀さんが掛けていたぐらい。

作成者: でっち定吉

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