雑司が谷ワンコイン落語会の台所おさん(上・猫と金魚)

更新が遅くてすみません。
忙しくなってきたが、日曜日はちょっと出かけてきたので撮って出し。
あらかじめスケジュールには入れておいた「雑司が谷ワンコイン落語会」というもの。会場は雑司が谷地域文化創造館という、公共施設。
池袋演芸場を抱える豊島区は、行政が落語に熱心である。ありがたいことだ。
今回の出演は台所おさん師で、独演会。

この会場、一度来たことがある。
東京かわら版で見つけて、今年6月にやってきたが、会場のどこでも落語をやっている気配がない。
張り出されていた案内をよく読んだら、コロナで順延されていた。ツイッターで調べておけばよかったのに。
そのときは、談吉、らく兵という立川流の二ツ目の会だった。
今回はリベンジ。

予約はしなかった。50人もの定員が埋まるなどないだろうと。
だが予想に反し満員だった。危ないところである。

私はおさん師の大ファン。今、いちばん面白い噺家のひとりである。
その面白さに着目する人が急速に増えているようだ。ひょっとして「チケットの取れない噺家」になるかもしれない。
本当を言えば、行く前はそこまで思っていたわけではない。だが今日の会がハネた後では、結構ありそうだなと思っている。

部屋の隅に高座を設え、円弧状に客席を配置している。
めくりの字は、寄席文字ではなく、普通の習字。

猫と金魚
芋俵
(仲入り)
愛宕山

主催者のごく簡潔な挨拶でスタート。挨拶が短い方は大好きです。
おさん師は、2年振りの登場だそうだ。
そして怪しさ全開のおさん師登場。
出囃子は本来「おうまのおやこ」だが、ありもので「草競馬」。馬つながり。
おさん師は坊主頭だが、「坊主だ」って思わない自分に、後で気づいて驚いた。
先週聴いた権之助師だって、文菊師だって、ひとまず「坊主だね」とは思うものだ。
おさん師の場合、部分よりも全体の印象が先走っているのだ。

ここ駅から直結だったんですね。
1時間前から楽屋に詰めていたんですが、殺風景な部屋で、なにもなく、さみしく待ってました。
出てきたらみなさんが温かく出迎えてくださって、感激ですと、ヨイショなのだか自虐なのだか。

このところ天気がよくていいですね、ただし今日は雨降るそうですねと。
雨降ると、私困るんです。自転車で来てるもんですから。
西荻窪からと聴いて、驚く客。いえいえ、近いもんですよとおさん師。
12段変速の自転車買ったので、都内はどこでもこれです。坂道も苦になりません。
昨年らくごカフェで聴いた際も、自転車で来てるって言ってったっけ。

2年前に来た人? と訊くとそこそこ手が挙がったが、でもいいですよねと名前の由来を語る。
先代小さんが気に入っていた名前なんですと。
地方だと、素人噺家に間違えられるそうだが。

以前名前の由来は聴いたことがあるのだが、語る角度がまるで違う。同じネタでも機械的に語るわけじゃないのだ。
これは花緑一門に共通して見られる、いい特質かもしれない。

まずは私の大好きな、実にくだらない噺をしますと語り、一席目は猫と金魚。
たしかにくだらない。
私はこの楽しい噺が上方に渡り、関西のラジオで流れる日を楽しみにしています。

実にすっとぼけている登場人物たち。
番頭さんは天然だが、主人もちょっとおかしい。
奉公人の中に、金魚で人間ポンプをやる奴がいるのだが、「まさかうちの金魚でやってないだろうね」と訊き、「いいえ脇ので」と回答があると、「ならいい」。
やたら楽しいやり取り。

そういえば、弟弟子の吉緑さんからも猫と金魚をかつて聴いた。
吉緑さんも才人だが、番頭さんを攻めすぎていて、これはちょっと違うなと思ったものだ。
おさん師はこの点さすがで、登場人物の誰も、ことさらに攻めはしない。
第三者的に見たときに楽しいという、そのさまを丁寧に丁寧に、しかし楽しくスケッチしていくのだ。
呼んでくる熊さんのことも、それほど攻めていかない。「朝飯前」の話から、戻って食べるご飯が朝飯なのか昼飯なのか、ひとりで疑問に思っているネジの緩み具合を描写する程度。

この日3席に共通するのだが、おさん師は古典落語の上位にいる人だなと思う。
面白い芸人であるおさん師が、落語の展開を考える。すると、先人が作り上げた噺の進行と一致する、そんなイメージ。
若手からしばしば感じるような、「噺を忠実に語ろう」とする意識がまったく見えてこない。まさに「登場人物の了見になれ」という柳家メソッドがある。

手短で楽しい一席。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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