2021NHK新人落語大賞(下)

NHK新人落語大賞は大きな権威を持つのだが、西のほうではこの賞の特需は、さしてないらしい。
それでは、レベルの高い優勝者である二葉さんにあまりにも気の毒。東のほうで大きく遇してあげて欲しいなと思います。
しかし女流でアホ路線は、実に貴重である。

本日は他の出場者について。

三遊亭好志朗「権助魚」

【8点】

好志朗さん、最近ご無沙汰なのだが、前座の「西村」時代に聴いて上手さに衝撃を受けたものだ。
年が行っているのに、一番の若手なので最初に抽選を引いていた。
ベタな演目を持ってきた。だが円楽党や好楽一門の、通常のスタイルとは相当違う。
ただ、魚屋のくだりをカットするやり方は、三遊亭鳳笑師から聴いたことがある。
マクラはスベり気味だが、いきなり豪快な権助登場。
結構よかったと思うのだが、トップバッターで客席があったまっていないのは気の毒。でも、自力でだんだん盛り上げてきた。
ギャグをフリを入れずにさらっと入れる美学は好きだ。例として、「おら立ち聞きなんぞしてねえ、座って聞いてただ」。
こういうやり方には、かなり明確な目的意識を感じる。

魚屋のシーンをばっさりカットするが、「まだ2時15分だよ」でちゃんとウケる。

8点と迷う9点を付けたが、後でいい人が次々出てきたので、1点下げて調整。
ギャグをさらっと流すやり方を文珍師から批判されていたが、プロの意見とはいえこの批判は当たらないと思うね。
ギャグが流れてしまう芸風に、自然になることは絶対ないんだから。

桂小鯛「親子酒」

【8点】

小鯛さんは新作を出すのだと思っていたのでちょっと残念。一席終わって、古典にも自信があるのだなということはよくわかったが。
またしてもベタな演目、親子酒かよと思ったのだが、「風うどん(うどん屋)」から入る珍しいもの。というか、サゲだけ親子酒。
別に上方のスタンダードでもなんでもない。

不思議な高座。
非常に面白いのに、私の感性がついていかない。この高座が響かない自分に、激しく戸惑う。
酔っ払いのひとりボケの繰り返し、相当に面白いことがわかっているのに、実に不思議だ。
しばらく聴いてようやくわかった。酔っ払いが、わりとちゃんとしているからだ。
行動がではなく、酔っても性格がちゃんとしている。
人としてはこんな造形のほうがいいのだが、落語の場合もうちょっとだけキツい、タチの悪い酔っ払いのほうが向いているみたい。
初めて、酒の落語におけるこんなルールの存在に気づいた。人のいいほうがよさそうに思うではないか?

ちょっとだけ減点ですが、でもどうせなら突き詰めて、タチのいい酔っ払いを確立してください。

笑福亭生寿「近日息子」

【9点】

生寿さんはラジオで結構聴く気がする。ラジオから流れてくると、実にいい心地である。
大会でも端正。
なのだが、大会だともうひとハネ欲しいね、などと思いつつ聴いていくと、徐々にテンションとテンポが上がっていく。
知ったかぶりにツッコむ男のテンションが。いやいや、聴いてる側も高揚してくる。

しかしこの噺、難しいよな。サイドストーリーに比重があり過ぎて。
落語初心者は、アホぼんのくだりから、知ったかぶりのやり取りに進むあたりで現在地点を見失う気がする。
初心者の心配しても仕方ないが、端正な生寿さんでもそこはやむを得ない。
しかし、そのくだりを伏線にしてしっかり回収し、この平板な噺をふくらませる。

前半我慢して、後半畳みかける勢いある一席。
9点だが、この時点でトップバッターの好志朗さんよりも上の評価。
優勝して不思議ないと思うぐらいの。実際、準優勝だった。

春風亭昇也「壺算」

【9点】

昇也さんの壺算は、先日、兄弟子の披露目の席で出していた。私も褒めた。
大会に向けて準備してたのですかね。
ただ一回でも聴いていると、とたんに客観的評価が難しくなる。
いいほうにだけでなく、悪いほうにもバイアスが働く。贔屓しちゃいけないという気持ちが、必要以上に点数を下げかねないのだ。

とはいえ口がよく回るし、聴いて心地いいリズム。
ギャグも入れ過ぎなくてほどがいい。素晴らしいセンス。
「昇也さん優勝!」とこの時点で確信している人の見解も、ちゃんと私の頭に流れ込んでくるのですが。
ただ、こちらの価値観を裏返してくれるような、すごいポイントが欲しいなと思うのです。
談志ならそれをイリュージョンと言う。たぶん。

悩まずストレートに9点。昇也さん、華があるのはいいな。
多くの視聴者が、生寿さんより昇也さんを評価するだろうなと思いつつ、同じ9点でも、生寿さんが上。
しかし審査員の合計点数は、私と同様やや生寿さん寄りだった。

林家つる子「お菊の皿」

【8点】

つる子さんのお菊の皿は、Zabu-1グランプリで聴いた(準優勝)。
そちらは中国人アイドルの「王キク」が出てくる面白落語だったが、正統派(?)のスタイルもあるらしい。ちゃんと大会に合わせてくるのだ。
本格派の流れがずっと続いたので、変顔落語のつる子さん、ちょっと流れに乗れずずっこけた感じ。
Zabu-1グランプリみたいな浮ついたモードなら、こんなのもハマる。だが、NHKでは自分でモードを変えないといけなくて、ハードルが高かったようだ。
まあ、やってる側がすごく楽しそうなのはいいけれど。
さがみはらでは人情噺の「しじみ売り」で優勝したつる子さん。NHKならこれだ、と器用に合わせてきたのだろうが、仕方ない。

(上)に戻る

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。