年々注目の高まる、NHK新人落語大賞。
新人の登竜門としては、確固たる地位を占めている。
今年はついに、結果について報道禁止ということになったので、まったく事前の知識のない状態で、楽しく観せていただいた。
桂二葉さんが圧巻の「満点」による優勝。これをとやかく言う人はいるまい。
私も、昨年この女流落語家を高く評価したので、とても嬉しく思います。
登場順も、当日抽選だったのだな。
ラストというのは絶対有利な出番というわけでもないが、二葉さんについて言うなら関係なかったろう。
堀井憲一郎、広瀬和生の両氏が審査員というのも知らなかった。
二人とも、まるで偏見なしとは言わないが、偏見をむき出しにして審査するような人ではないはずと思う。
東西に関するバイアスはまったく持っていないだろう。
まあ、いい人選ではないかと。
審査員の点数も極めて穏当なものだった。
例年ならば、「いかにもコンクールで緊張してます」という人が2人ぐらいいる。
全然いなかったですね。力を出し切れなかった人もおらず。
優勝、準優勝のその下クラスのレベルが、恐ろしく上がっているのを感じる。
こんなにレベル高いなら、準決勝を設けて東西に分け、放送できるんじゃないかななんて思う。
私の評価も出しておきます。放送を見ながら、もっぱら絶対評価で付けた。
ただし他の人と比較しつつ、若干の修正はしている。M-1の審査より楽。
演者(登場順) | でっち定吉 | 総合結果 |
三遊亭好志朗 | 8点 | 42点 |
桂小鯛 | 8点 | 45点 |
笑福亭生寿 | 9点 | 48点 |
春風亭昇也 | 9点 | 46点 |
林家つる子 | 8点 | 43点 |
桂二葉 | 10点 | 50点 |
私の点数も、極めて普通のものである。今回は非常にわかりやすい大会だった。
ただ5人の審査員の全員が、二葉さんともうひとりをともに満点にしていた。
M-1の松本人志の採点を絶賛する堀井憲一郎氏ぐらいは、結果と違ってもいいから序列をつけて欲しかった気はするのだが。
東京勢3人はもうひとつの結果だったが、しかし師匠の名を見ると面白い。
すなわち、好楽、昇太、正蔵である。
笑点メンバーや、オールドファンにこぶ蔵と罵られる正蔵師こそ、落語界においてもっとも育成達者な人だということが改めてよくわかるではないか。
いつもそんなことを書いてますが、再度書いておく。
優勝した二葉さんについて先に書きます。
桂二葉「天狗刺し」
【10点】
天狗刺し、いいチョイスですね。アホらし過ぎて、私も好きな演目。
二葉さんの大師匠、米朝が復刻して練り上げた噺だが、大阪でも決してメジャーなネタではないはず。面白いのにな。
昔、こんな記事も書いた。タイトルが「天狗さし」なんだけど。
アホを自認する女流が、見事なアホ落語を演じてみせた。
演題を見た時点で、もう二葉さん優勝まで行くんじゃないかという予感があったのは、本当。
いやー、昨年もよかったが、二葉さん本当に上手いな。
声は高すぎるぐらい高いが、本番に入るとトーンを下げる。
そして、声の高さを最初に語り、客に「こういう声だ」と断りを入れてしまう。客がアジャストしたところで、実は聴きやすい声を届ける。
演者のセルフプロデュースができているからいい。客になじんでもらえば、繰り出す手駒が全部ヒットするのだ。
つる子さんもこれができてるけど、二葉さんは完成度がより高い。
欠点がほぼない落語。
関西弁の「スッキャキ」もいい。
「天狗がタコを生む」という間違いことわざを、マクラで仕込んで回収するのはすごい。
マクラは楽しいのだが、ちょっとスベリ気味かなと。でも、明確な意味があったのだ。
「天狗をさばくちゅうても天狗裁きちゃいまっせ」という地味なギャグが結構ツボにはまった。スレたファンも喜ぶ。
鞍馬に登り、天狗を捕まえようとする男が、「ここまで来ると天狗のにおいがプンプンする」とつぶやくのが爆笑。
まさにアホの発想である。
ちなみに、堀井氏はこの男を「喜イ公」と言っていたが、喜六じゃないと思うんだよな。
喜六にはこんなバイタリティはないと思う。まあ、いいけど。
この大会の優勝者でもある先輩の桂雀太師が、つまらなくて意味不明のサゲを見事に替えていたのを、以前ラジオで聴いた。
二葉さんもサゲを替えていた。確か雀太師と違うサゲだ。
二葉さんの語り口もちょっと変わっている。
古典落語をふんわりくるんでいる感じがいいのだろう。
男のひとりごとから地のセリフに替わる際、非常にスムーズなのだ。視点が極端に動いていないからだ。
慣れないと、変な落語と思う人もいるだろう。でも落語の聴き手は、ちゃんと自分の回線に噺をつなぐ努力を、日常的にしているものだ。
若手だけど、実はベテラン師匠のエッセンスが含まれた語り口だ。
他の5人に続きます。