NHK新人落語大賞情報統制問題

月末の締め切りに向け、本業に励んでいたので久々に1日お休みしました。
もう1日休もうと思ったのだけど、アホな記事を見つけツッコむため、日曜の早朝から書いております。

桂二葉の快挙 公にするまで3週間、NHK情報解禁しない不自然さ

桂二葉さんを「アホ」と形容するときは褒め言葉だが、この記事に対するアホは「愚か」「品性下劣」という意味である。

Yahoo!に転載され、人権侵害の温床と左翼陣営から糾弾されて久しいコメント欄も大いに盛り上がった。
記事の矛先はNHKの批判にあるのだが、同意するコメントは非常に少ない。
NHK批判ならいかにも同調者が多数出そうなのに。あまりにも批判の中身が馬鹿げているからである。
立憲民主が政権批判をしたときの、ヤフコメの反応によく似ている。ああ、またためにする、代案のない批判が出たねと。

ネット時代に、関係者に緘口令を敷いて情報を出さないそのやり方はおかしいと言いたい記事が、世間の同意を得られないのは、視聴者の心情に対しまったく思いが向いていないからである。
関係者が優勝者におめでとうを言えないから、情報統制をやめろ? ファンを置き去りにするにもほどがある。
そもそも放送が遅れたことで落語界が盛り下がった事実すらないし。

この大会、例年先に情報が流れてきてしまい、結果を知ってから放送を観ていた。まあ、仕方ないなと思いつつ、残念に思う気持ちがあった。
世間で結果が大きく報道されていない年もあったが、それはそれで、ああ、優勝者は東京の噺家じゃないんだなという強いヒントになってしまう。

今年もそうなるんだろうと思っていたら、大会のあった当日、ツイッターで緘口令の存在を知った。それを知り喜んだ、私の心理は特殊なものか?
そして期待通り、実に楽しく本放送を観たのであった。スポーツを観るような楽しさ。
統制がなければ、この楽しさは決して味わえなかっただろう。

実際には、現場で収録を観るのと同じような楽しみではない。生放送でも、撮って出しでもなく、そこには編集がある。
ただ、編集も見事だったと思っている。
優勝者の桂二葉さんが一席終えた直後、司会のたい平師匠が、客観的に見れば審査員に影響を与えかねないぐらい激賞していた。
放送後それをとやかく言っている人がいないのは、視聴者の多くが彼女の高座をすばらしいと感じ、たい平師に同調したからである。
ただ実際に現場で観ていれば、たい平師が出場者を不平等に扱っていたなんて客観的事実はどこにもなかったろう。
編集の切り取り方の問題である。そして切り取り方次第で、視聴者の気持ちにも沿う。

トップバッターの三遊亭好志朗さんは最下位だった。
私は後で再度見返し、改めて実にいい高座だったなとしみじみ思っている。再度当ブログで取り上げようかと思うぐらいの。
この人の一席の後には、文珍師の厳しめの論評が入っていた。
その批判、ちょっと違うんじゃないのと思ったのはすでに書いたのだが、編集の観点からすると、「この人は優勝者ではありません」という視聴者へのメッセージとなる。実際、私にもそう働いた。
実際には現場で、もっと褒めた論評もあったと思うのだ。
だが未来の視点から、適切な分量でもって情報を小出しにしているので、コントロールされた視聴者は納得しながら先に進む。結果好志朗さんが最下位だったことに、クレームも寄せられないのである。
いやらしい編集? テレビですからね。

いやらしい編集をせず生放送しろという要望もよくわかるし、私もそんな大会を、世間と一緒に楽しみたい。
だが審査員の論評が本放送時にばっさり切られ、視聴者を実に適切に誘導している事実は考慮しておいたほうがいい。適切に誘導された側の感想だ。
生放送の場合は、長めの論評は入れられなくなる。続けて高座を流す生放送、一度やってみてもいいと思うが、落語を数聴いていない視聴者にとっては、なんだこの採点、という感想が生まれるかもしれない。
それが悪いというのではないけども、エンターテインメントしてどちらが優れているかはまた別の話。

とにかくこうやって、落語ファンを楽しませてくれているNHK新人落語大賞。
記事を書いた日刊スポーツ林尚之氏は、情報統制に感謝しているファン心理への想像力が欠落している。

もともと、プロの噺家が今回の情報統制について、NHKに掛け合ったらしい。
文中には「出場者」として触れられているが、出場者ではない。以前の優勝者、桂雀太師である。
二葉さんの「天狗刺し」は雀太師が稽古をつけたものだという。
その身内びいきが強すぎて、情報統制などまかりならんというぶっ飛んだ思想に行きついてしまったのだろうか。
林尚之氏は、それにアオられ、正義を見失ってしまったのだ。プロだからって、行動が正しいとは限らない。

雀太師には、身内を褒めたいという発想しかないのか。
どこにも、大会を楽しみにしている(二葉さんの贔屓ということではなく、もっと広い観点から)落語好きに寄り添った気持ちはない。
実にもってガッカリだ。
だいたい、雀太師が掛け合いに行っているなら、どう考えても優勝者は特定される。それで優勝者を知り、ガッカリしたファンもいると思う。
私はこんな愚ツイートに気づかなくて本当に幸いだ。
落語好きをガッカリさせたその言動については、猛省してもらいたい。

怒りが収まらないので続編です。

 
 

作成者: でっち定吉

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