こはくさんは身分制度についてのマクラ。
将軍に献上する芋の行列に頭を下げる小噺。
それから、試し斬りの小噺。「誰だ毎晩叩きに来やがるのは」。
これはひょっとして、本編は珍しい「首提灯」ではないのだろうかと。
落語研究会で以前出ていた、柳亭市馬師の首提灯は実に見事なデキだった。たまに聴いている。
市馬師のなにがいいか。悪態をつく町人に、どこか愛嬌が残っていること。
そして、首を斬られてしまう噺でもあるのに、世界のトボケかたがすごい。
市馬師を引き合いに出したのは、この噺がどれだけ難しいか言いたいため。
珍品が聴けて嬉しかったが、こはくさんの首提灯、ちょっと町人が嫌な奴すぎるな。
さむらいに出くわす前、おでん屋の場面があって、そちらでも多大な迷惑かけているのでなおさらだ。
だからといって、「こんなイヤな奴斬られて当然だ」という爽快感もさほどないとなると。
それでも、町人の悪態を楽しむ噺なのは伝わってきた。カンチョーライ(意味不明)とか。
将来はこはくさんの売り物になるのではないかと思う。
トリの小辰さんは、雨の中たくさんのご入場をと挨拶。
この人ももう1年振りで、前回も巣ごもり寄席。
前回、昼から来ている客を揶揄するマクラに不快感を禁じえなかったのだが、この日はそれはない。
今日の顔付けについて。
珍しく、全員落語協会です。落語協会の精鋭たちに断られたときのメンバーです。
小もんさん、こはくさんは、私が前座修業を終えてから入ってきた人たちですね。
二人は一緒に修業してるので、仲がいいんです。私だけ仲間外れです。
今日は小辰、こはく、小もんで3Kだねと言ったんですが、無視されました。
こはくさんは、もう雲助師匠の弟子みたいなもんですね。白酒師匠みたいに、毒を出さないで。
本当はこはくさんも毒を持ってるんですよ。でも出さないというね。
私なんかは、ない毒を無理に吐いてるんです。
私は、同世代がよくないですね。宮治!一蔵!
これで(客が)笑うというのは、いかに楽屋に詳しいかということですね。
本人の真打昇進の話はあえてしないが、修業時代の話。
師匠宅を朝訪問する、これは普通。その後師匠宅を辞して、寄席に向かう。
寄席が終わったら解放され、前座も飲みに行ったりする。
だが一番弟子の小辰さん、師匠が大事に育てようと思ったのだろう、帰ってこいと言う。
だからお誘いを断り、師匠宅へ。自分の部屋には寝に帰るだけの生活。
師匠が夜、フッと言う。「飲みに行きてえんだろ」。図星。
小辰さん、昇進時の名前はどうなるのでしょう。
稽古屋、五目の女師匠のマクラ。
そこから、私の好きな炬燵で師匠の手を握る小噺。自分がコタツだからなのか。
このマクラから「汲みたて」ということはさすがにない。夏の噺だし。まあ、あくび指南だろうなと。
小辰さんのあくび指南、一度聴いた記憶があったが、調べたらなかった。テレビか配信だったと思う。
トリにしては軽い噺だ。
あくび指南というのは、プロの噺家がチャレンジしてみたくなる噺なのかと思う。雰囲気だけでもっていく高度な噺。
小辰さんのあくび指南は、一之輔師のものによく似ている。教わったのかもしれない。
吉原へツーと行ってしまうくだりとか。
だが本人の個性的に、楽しいギャグは極力刈り込んで笑わせる、引き芸。
女師匠のマクラを振っている以上、主人公の八っつぁんは、浮ついた男。
稽古所の前で出会った女性に教えてもらおうと稽古に出向く。
しかし女性は師匠のかみさんであり、看板である。男の師匠を見てがっくりする八っつぁん。
ここからいきなり、俄然八っつぁんがやる気を出すのが不自然に思えてならない。
だから私は、柳亭小燕枝(柳家さん遊)、台所おさんといった師匠が掛けていた、看板が出てこないタイプが好き。
もっとも多くは看板タイプ。
その中では、小辰さんのは最もスムーズだった。
看板を使った商売に露骨に毒を吐いておいて、そして師匠のあくびの稽古を見て、いきなり目が覚める。
そして師匠に、数々のご無礼お許しくださいと頭を下げてから、稽古に励む。
師匠は何を言われても動じない、枯れた人。八っつぁんのボケにツッコまず、すべて吸収することで思わぬ笑いが生じる。
ちなみに、サゲの場面で視点が、ついてきたアニイに替わる。
この際のアニイの口調が、扇辰師そのままで嬉しくなった。
扇辰師があくび指南をやるのかどうかは知らない(たぶんやらないと思う)が、師匠のやらない噺を弟子が掛けたとき、師匠が出てくることがある。
小辰さんに対する誉め言葉になるかどうかは知らないが。
地味ながら楽しい巣ごもり寄席でした。