亀戸梅屋敷寄席24 その1(三遊亭好楽「抜け雀」上)

前日に巣鴨の巣ごもり寄席に行って楽しんできた。
物足りない内容ではなかったのだけど、落語スイッチが入ってしまった。
二日続けて出かけることにする。行き先は亀戸梅屋敷。
9日木曜日の主任は、三遊亭好楽師。
この大好きな師匠、今年は3月と5月に聴いている。その後も何度も検討しつつ、毎回よそへ行ってしまった。
半年ぶりに、愉快な師匠を聴きにいこうと思う。
そして、大当たりでした。そのトリの高座から。

好楽師は黒紋付。披露目の口上以外では初めて見た。
なにやら期するところがあるのでしょうか。前の出番の弟子、鯛好さんが、「師匠は、『今日は本気で行くよ』と言ってました」とのことだった。

例によって、好楽師は登場して深々とお辞儀を欠かさない。
先日のしのばず寄席(広小路亭)の話。若い人と一緒に上がったが、その日のネタ、何を出すのか訊かれる。
「上がってから考えるよ」と答えて、驚かれたと。でも、ベテランはそんなもんだよと返す好楽師。
芸協の若手だろうか。ちなみに好楽師、しのばず寄席は主任でしか出ない。両国も亀戸もそうだが。
その広小路亭で、急に思い立って談志の思い出話をした。
そうしたら、当日のお客さんに喜ばれた。その日の夜、横浜にぎわい座で談春師匠の「談志を偲ぶ会」があって、今からそちらに行くんですよと。師匠、会があること知ってらしたんですね。
いや、全然知らない。偶然。
あの世から談志師匠が、話をしてくれと言ってきたんじゃないですか。

同じく偶然に関する、友達の鶴瓶師の話。
鶴瓶師が沖永良部島で一席演じた。ネタは「青木先生」。
すると、客席で号泣している女性がいる。行ってなぜだか訊いてみると、これが本物の青木先生の娘さん。
鶴瓶師の恩師の娘さんが、沖永良部に嫁いでいたのだという。

鶴瓶は引き寄せるんですよと好楽師。
よく考えてみると、談志の話も鶴瓶師も、別にびっくりするほどの偶然でもない。
実在した青木先生の娘さんが人気者の鶴瓶師を聴きにくるのもそんなに不思議なことでもないし、鶴瓶師が「青木先生」を掛けるのも。
でも「世の中には、そして鶴瓶師にはそういうミラクルがある」という、一期一会について好楽師は語りたいのだ。ケチをつける気はない。

落語の名人たちはみな死んじゃったと好楽師。
文楽、志ん生、志ん朝、圓楽、圓鏡、柳朝、柳橋、今輔、米丸、あ、この人はまだ生きてます。
でも、歌丸師は亡くなっちゃった。
私は、こういう名人たちのいる楽屋で修業をしたんですと誇らしげな好楽師。

そんな師匠(名前は出さないし、私にもわからない)から教わった噺を今日はします。
師匠が一席やってくれて、その後好楽師からいろいろ質問をした。
「師匠、あそこが抜けてましたけど」「あ、抜けてた? 知ってるんだろ、じゃ入れといて」「それからあそこですが」
みたいなやり取りを繰り返していたら、しまいに「お前、この噺知ってるんじゃないか。なら教わるな」としくじった。

タチの良くない駕籠かきの話を振るので、抜け雀。
3年前に、しのばず寄席で聴いた演目だ。それ以前から好きな好楽師だが、私が生の高座を聴いたのはその日が初めてだった。
3年前とはいえ、演目が被った。
もともとネタ数が多い好楽師だが、一回り聴き終えて、前回の「紙屑屋」で初めてカブった。これはもう、仕方ない。
現在、「三遊亭好楽 抜け雀」で検索してトップにヒットするのは、その3年前の私の記事。
だけど今日のこの記事出すと、間違いなく食いあう(カニバリズム)。
しばらく、どっちも検索で掛からなくなると思うのだが、まあ、いいさ。

さて、一度聴いた演目であるのは、ほぼ気にならなかった。
中身が、同じ噺とは思えないぐらい違う。これも紙屑屋と同様。
違うというのは、展開が微妙に違うとか、サゲが違うとか、そういうことではない。
好楽師は大ネタにおいて、毎回一から組み立てなおして話しているのである。
クスグリ、またはクスグリともいえない細かい部分も含めて、好楽師には先人の噺がすべて詰まっている。だから、その場でなにを出してなにをカットしようか、自由自在なのだ。
特に最近の好楽師からはこの、出たとこ勝負の組み立てを強く感じるようになった。
これはまさしく「うろ覚え」である。いい意味で。笑点での評価は、実は合っている。
実は志ん生みたいな領域に達しつつあるのではないか。

抜け雀の骨格に、登場人物をどう肉付けするか(しないか)、すべて師がその場で決めていく。
そこに矛盾はない。
先人のクスグリをすべて拾うわけではないが、つい拾いたくなってしまうのだろう、時間がどんどん押す。
だが、絵師の父が出てきたあたりから、ちょっとダレていると判断したのだろう、テンポを上げていく。
もちろん、上げていくのも師の匙加減ひとつ。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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