スタジオフォー巣ごもり寄席3(上・柳家小もん「湯屋番」)

12月は初めて出かけます。行先は巣鴨。
スタジオフォー巣ごもり寄席は、落語協会3人。
なかなかいいメンバー。小辰さんも自虐で述べていたように、地味ではあるが。
そのトリ、入船亭小辰さんは、来秋に真打昇進が決定。

湯屋番 小もん
首提灯 こはく
あくび指南 小辰

 

朝から冷たい雨が降っている。開演時にはそれでも満員に近い入り。
顔付けのおかげだろうか。

柳家小もんさんは、一年ぶりだ。
二ツ目も多いから、すぐにご無沙汰してしまう。
若いのに、ベテランみたいな落語をする人。
なのに、枯れた風情ではなく、若々しさを発散する、不思議な魅力を持った人。ハズレ知らず。

今日は、一番太鼓もこはくさんが叩いてくれるからいいやと思ってゆっくり来たんですが、驚きました。来てみたら出番が最初だったんですよ。二番目と思ってました。
着替えて慌てて出てきたもので、何の噺やるのか全然考えてません。なのでお客さんの顔を見てから考えようと思ってます。
こんなことを言い終わる頃にはすでに羽織を脱いでいる。

若旦那のマクラを振る。
「居候三杯目にはそっと出し」から「居候亭主の留守にしそうろう」まで。
湯屋番である。もし「紙屑屋」を持ってるならば別だが。
小もんさんの湯屋番は3年前に聴いたのだが、繰り返しに耐える人なので、それほど気にならない。
この個性は、師匠・小里んと同じ。先日も師匠の、二度目の碁どろを聴いたが、ノープロブレム。
さてその3年ぶりの湯屋番、パワーアップしている気がしてならない。当時聴いた内容、残らず覚えているわけじゃないが、端正な印象ではあった。
今はもう少し妄想がくっきりしてきている。
そして、当時の記事を読むと、「中身の詰まったバージョン」と書いている。
この日の高座では、そう詰まったようには感じなかった。たとえば若旦那が番台から落ちたりはしない。
それに以前はたぶん、おかみさんの飯の盛り方が入っていただろう。今回はなし。
隣のお師匠さんのエピソードなど入っていたら、それは書き残している気がするが。
削るべきところを削り、注力したいところを残して現在のバージョンになったのだろう。

煙突小僧釜の助のくだりなんかは、きっと逆に、厚めになっていると思う。
妄想がぶ厚くなっているのだ。よく芝居を見ていて、思わずやりたくなるということかも。
ぶ厚くなった若旦那の妄想は、色っぽくていい感じ。小もんさん、そういうニンじゃないように思っていたけれど、ここがいいのだった。
芸風的に、お妾さんにねちっこくいやらしく迫るわけじゃないけれど、照れずに堂々語りきるのがすばらしい。

洗い場の男が軽石で顔をこすり血だらけ。その先がまだある。
存在は知っているが、この部分初めて聴いた。といっても2分で終わるので、ここの分前半を削っているというわけでもない。
妄想から現実に引き戻され、客の下駄の件で実にテキトーな応対をする若旦那。
聴けてよかったが、日ごろここまでやらない理由がよく分かった。妄想のまま終えてしまうほうが客に楽しいのだろう。

小もんさんのせいじゃないのだが、古典落語のマクラには時として間違っているものがあるという例。
「区役所行って内容証明取ってきて」。
3年前も書いたのだが、内容証明は郵便局で出すもんだ。
これと、「懲役ごっこ」の終身懲役(なぜか労働しなくていい)だけは気になる。
・・・気にするなよ。

続いて、桃月庵こはくさん。
この人は実に3年ぶり。2019年にも国立で遭遇しているが爆睡していたので、ノーカウント。
2018年に、今はなき早朝寄席でトリを取っていた。二ツ目昇進直後。
別に避ける理由なんてないが、これだけご無沙汰するのも珍しくはある。

雲助一門の忘年会の話。今年はやるらしいとこはくさん。
多くの一門は、二次会、三次会と進むにつれて、カラオケボックスに行ったりする。
だが雲助一門は、何次会まで進んでも居酒屋。
先日、上野の高級中華で一門の会合があった。東天紅でしょうか。
龍玉師は、ご存じでしょうが(知らねえよ)、「箸を割らない人」として有名。
一切食事には手を付けないので、当時前座だったこはく、白浪で平らげることになる。
白浪は職が細く戦力にならない。ひいひい言いながら詰め込むこはくさん。
そして、龍玉師が一言発する。しめた、もうお開きにしましょうと言ってくれるのだろうと。
しかし、発言内容は「もう一杯いいですか」。
じゃ、俺も飲もうとなる。
べろべろになった白浪が、龍玉師を「アニさん」と呼んで叱られた。

龍玉師は食べないで飲んでばかりなんだな。たぶん、早死にすると思う。
それはそうとこはくさん、龍玉師のことなどみなさん先刻ご存じですよねという体で進めるのはいいやり方だなと思った。

本編に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

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