2021M-1グランプリ(中)ギャグの熱量と設定

ハライチ

今年は敗者復活戦からずっと見ていた。採点まではしなかったが。
ハライチの復活戦優勝のネタは面白かった。非常に「らしい」もの。
続いて本選のネタを見て、高い点数(93点)をつけてしまった。
だが、昨日書いたように客観的にそう付けたのであり、彼らを応援したいということではない。
これも昨日も書いたように、「飛躍」という要素があると嬉しくなる。豹変する岩井は、飛躍している。
だが本物の審査員の点数が伸び悩んでいるのを見て、目が覚めた。間違いなく面白かったのだけど、見返すとすでに魔法が溶けていた。
面白く観ていたその時点で、すでに悪いほうに気になっているポイントがある。
漫才において、コンビ間の「対立」があると、ウケが止まってしまうことがあるなと。わざわざ対立するネタで勝負してるのだから言っても仕方ないのだが、審査員の評価はこれによるところが大きいのでは。

真空ジェシカ

金髪マッシュルームカットのツッコミのキャラがとてもいいなと思った。ツカミよし。
たくさん入ったギャグに笑って92点とする。
だがその後録画を見返すたび、数多くのギャグが意外なぐらい空虚に映りだす。
今週木曜日に、ナイツ・ザラジオショーのゲストに出ていた、パンクブーブー佐藤が面白いことを言っていた。
デビュー後から人気を集め、期待されつつ大会に出ると毎回、意外と点数の伸びないコンビがいる。
そうしたコンビには、どうしても客に伝えたいギャグがないのだと。いろいろな漫才を研究して、なんとなく笑いを盛り込むことはできているが、熱量が足りないからここぞというときに勝てない。
真空ジェシカを思い起こして腑に落ちた。私はパンクブーブーの大ファンです。
真空ジェシカ、面白いのに勝てないコンビになりそう。楽しいギャグが、全部ブツ切りで、それぞれあまり関連がないのもなあ。
ギャグをもっと減らし、クレイジーなストーリーをしっかり描く必要があるのだろう。

オズワルド

オズワルドは大好物で、ネタ動画をよく見ている。
だから2本とも知っていたが、それでも面白い。
ボケ畠中のクレージーさが、どんどん積み重なっていくのがいい。
でもツッコミ伊藤は、真の対立軸にはない。オズワルドの漫才の共通項だが、ちゃんとクレイジーな相手との調和を生み出していく。
自分の採点では92点を付けている。振り返ったとき、トップじゃないのがなぜかよくわからないのだが、大会において私がひいき目に見てはいない証明にはなる。
オズワルドはABCお笑いグランプリを獲っている点、とても有利だ。関西からも応援してもらえるのは強い。

ロングコートダディ

今回の私のイチ押し(94点)。肉うどんたまらんわ。
実際、見れば見るたび面白い。ホンも演技も、実によくできている。
来世生まれ変わる練習をしよう、という、客にまったくピンと来ていない設定を、最速のスピードで合わせにくるところがまずスゴい。
どうやって合わせるか。このネタではツッコミ役を果たす兎に、大げさに驚かせることによって。
落語でよく見るのだ、このテク。
たとえば「転宅」で、女が入ってきた泥棒と一緒になろうと持ち掛けるのを、泥棒に大げさに驚かせて飲み込ませるとか。
客に設定を飲み込ませてしまえば、後はどういじっても自由。彼らの手のひらで転がされる。
あり得ない設定の中で、独特のルールをぶつけ客を驚かせるのもすべて自由。
肉うどんなのに、重ねてきたから天丼だ。
ところで、しりとりなのに「ん」で終わってるけど次どうなるのかね。

一番点数の低かった巨人師匠が言っていたとおり、センターマイクから外れる作法はちょっと気にはなった。
ただ、あくまでも形式的な話。これを理由にマイナス評価にはしたくないな。
確かに漫才コントだとしても、漫才である以上マイクの前でできそうではある。でも、外れることで得られる、わかりやすさもあるわけで。

もともとロングコートダディは昨年のキングオブコントで観て好きになったコンビ。
大阪でコントを続けているというのは、キャリア形成のうえでどうなんだろう。
そもそも関西弁だってほとんど使っていない。東京に出てきたほうがずっと売れるコンビと思うけど。

錦鯉

優勝してから振り返ると、彼らに対し92点では足りなかった気はする。
でもオズワルドと同じ点数だから、客観的な採点には成功していると思う。
ロングコートダディについてなら理解できるが、錦鯉についても「コントだ」「漫才じゃない」という意見があったようだ。
馬鹿言え。
特に1本目については完全なる漫才である。漫才だから、白スーツで出てこれるのだ。

錦鯉は昨年知ったが、そんなに好きになったわけではない。子供だけが喜ぶ「幼稚ネタ」だと思っていたので。
その後漫才協会に入ったりし、私が普段居ついているギョーカイにやや近接してきて、かなり気にはなってきた。
今年2本聴いて、前回得た偏見は完全に払拭された。
大人に響く、見事なおじさんネタである。
そしてツッコミ渡辺の驚くべき上手さ。こんなに上手い人だった?
完全に笑いをコントロールしている。ツッコむタイミングと、後頭部を叩く強さ調整しだいで笑いをいくらでも増幅できるという。
人間、1年でこんなに上手くなるのか? ブレイクしていく過程で腕を上げる人もいるのだな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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