林家三平はなにがダメだったのか(中)

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昨日は林家ペー先生ではないが余談で終えた。
さて、でっち定吉が三平をみじん切りにしてくれると期待し、読んでくださっている方に問いたい。
「あなたはなぜ三平が嫌いですか?」

「そりゃ決まってるだろう。ヘタだし、笑いのセンスがないし」とお答えになるでしょうか。さらに「親の七光りだし」。
だが真のテーマは「なぜ悪い部分がいちいちあなたの気に障るのか」なのである。だいたい、正蔵師匠に対してもはや七光りは批判になり得ないのだし。
嫌いな理由を解き明かすのが、この続きものの目的。

ちょっと話がそれる。なぜ目の前で生じた事象に腹が立つのかという話だ。

「ジョブチューン」ジャッジで料理人が試食拒否 ネットざわつく「失礼」「納得」(デイリー)

1月1日のテレビ番組。私もたまたま見ていた。
個人的な怒りはないものの、テレビの演出として納得できる範疇を超えたと感じ、怒った世間の気持ちはよくわかる。
コンビニおにぎりを見た目が悪いと試食拒否したままジャッジしようとするシェフ。
その後自分のお店の評価が荒らされたり、同姓の他人が巻き添えをくったり、すごいことになっているという。

「失礼」というワードは、実は違う。
テレビを見て、怒りをベースにした反応が沸き上がってきたとき、最も自己の怒りの理由を納得しやすいところに、「失礼」という常識的なワードが落ちていただけだろう。
このシェフが視聴者の怒りを買ったのはなぜだろう。
視聴者が求めていないまるで別の体系を一方的に持ち出してきて、それを視聴者の持つ共通認識の上に載せようとしたからだ。
貴様独自の体系を勝手に、万人の上に載せるな、しかもさも当然のように。そういうことだろう。
この人に対する誹謗中傷はもちろんよくない。だが批判に値する行為は十分にしてしまったと思う。編集に責任を求める前に。
自分の持つ、常識と異なる体系を他人に押し付ける人とは、つまりパワハラ気質。パワハラ気質のオーナーシェフが運営するのがいい店だとは、少なくとも私は思わない。

伊集院光のパワハラ降板騒動を擁護する、ラジオのファンから常に漂う違和感もこれ。
「伊集院さんは話術のプロ。常に第一線で頑張っているんだ」というリスナーの意見は、ラジオとリスナーとの関係性の中でしか成り立たない。
外の世界に常に通用する見解ではない。

いっぽう、同じジョブチューンから美談もあった。

「ジョブチューン」審査員の言葉にネット感動 不合格でも愛ある批評「判決を言いに来ているのではない」(スポニチ)

パティシエ・鎧塚シェフの言葉がなぜ感動を呼んだか。前述の無礼な態度が出ている中では、わかりやすい。
鎧塚シェフは、自分たちの審査の体系と、一般人の共通認識の違いを懇切丁寧に述べた。そして、我々はダメ出しをして悦に入っているわけではないのですと。
前述のパワハラシェフとは、人間性が大きく違う。少なくとも私にはそう見えた。

ジョブチューン事例を出したのは、人は必ず表面的な反応のウラに、言語化しづらい理屈を抱いていると言いたいから。
今日も余談ぽくなってきたが、話を戻す。
三平への怒りの正体がなにかというと、「暴力に対する嫌悪感」ではないか。私はそうとらえている。
三平は、我々に対し常に暴力的だ。暴力を振るわれた視聴者は加害者を忌避する。
あのヘタレ男が暴力だって? 明日までお付き合いいただければ、腑に落ちると思います。

当ブログでも何度か書いているのが、三平のムダな圧の強さ。笑点大喜利でも高座でも。
大前提として落語と笑点大喜利は、とんがった落語ファンが認識しているような、別ジャンルの競技ではない。根本が一緒。
非常に緩い話術だという共通点がある。メンバーとして生き残るのは厳しいものの、表面に現れるものはとても緩い。
三平は、笑点の緩さをついに5年半理解できなかった様子だ。もともと落語がわかってないからだ。
なにを勘違いしているのか、三平は客の真正面から迫ってくる。
ただ「正面を切る」なんて言葉も業界にはある。客に真正面から迫れるのは、ある種の能力なのである、実は。
客の正面に迫れない噺家も無数にいるのだから。
当代三遊亭圓歌師など見れば、圧の強い高座を務めあげるのがどれだけ大変か、わかると思う。

だが、この手法しか持っていないのも困ったものだ。
ふわふわした緩い楽しみに浸りたい落語の客も視聴者も、三平からは望んでいない圧を食らうことになる。
演者を突き抜け、背景にまで目をやるのは客の自由。落語の高座でもって、演者が消えてしまうという状態はこれだ。
いっぽう、三平はどんなときもそこにいる。客には、突き抜ける自由はない。
客に自由があるとすれば、生理的に拒否することしかない。
木久扇・好楽といった師匠を見ればわかるでしょう。この師匠たちの客への目線は、とても優しい。
ボケているこの師匠たちに向かい合うのも、スルーしてしまうのも、客の自由。
新メンバー宮治だって、なかなか圧は強いのだが、チームプレイができるから、スッと全体の中に隠れることもできる。

(下)に続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。