黒門亭11 (初音家左吉「ロックンロール園長」)

【8月12日黒門亭二部「光る二ツ目の会」(ネタ出し)】

市若 / 千早ふる
歌実 / 六尺棒
馬久 / 臆病源兵衛
(仲入り)
花飛 / 金明竹
左吉 / ロックンロール園長
高座舞

昨日黒門亭に行ってきた。
なにも毎日更新のブログのネタに困って慌てて聴きにいったわけではなく、この前に一箇所行って、たっぷりネタはある。
そちらは実にいい寄席だったのだが、若干アップを遅らせたい理由があり、先に黒門亭を取り上げることにします。
黒門亭は意外とご無沙汰で、5月5日以来。
お盆の東京だが、御徒町は日ごろの日曜日と特に変わった感はない

この日の第一部は、橘家文蔵師の「青菜」ネタ出し。こちら大混雑だったのではないかと想像するが、今日の私は二部目当てで、しかも開演直前に行ったので詳細は知らぬ。
二部は半分も入っていないが、踊りのために普段より座布団を大きく後ろに下げているので、それほど空いている感じはない。
小学生の坊ちゃん嬢ちゃんが最前列にいる。坊ちゃんのほうは、かなり落語好きみたいで2時間楽しんでいた。
うちの子もこんなふうにして立派な落語好きになりました。この日は連れてこなかったが。

光る二ツ目の会に来たのは初めて。
二ツ目さんの落語は神田連雀亭や早朝寄席で聴けるから、黒門亭で聴く必要はそれほど感じない。
この日は、一度池袋の新作まつりで聴いた、初音家左吉さんの「ロックンロール園長」を目当てにやってきた。
連雀亭のほうでは、同時間帯に古今亭駒次さんの二ツ目卒業の会がある。当初そっちに行こうと思っていたのだが、結局千円の黒門亭に。
駒次さん(改め駒治)は、真打のお披露目に行くつもりだからいいでしょう。
高座舞もちょっと見たくて。
寄席には多くの特別企画がある。鹿芝居とか大喜利、にゅうおいらんずなど。でも、あんまり見たことがない。

柳亭市若「千早ふる」

メクリには「前座」とある。前座さんの名前が出ていたり、「開口一番」だったり、統一されたルールはないのかしら。
誰が出てくるかと思ったら、ここ黒門亭で一度聴いたことのある柳亭市若さん。なかなか楽しい、柳家らしいいい前座さんだ。
「知ったかぶり」を振るので、前回も聴いた転失気かと思ったら、ご隠居が出てきて千早ふる。
前座噺と呼ばれることはない噺で、前座さんにはやや珍しいかもしれない。落語協会の前座さんからは初めてかも。
もっとも「やかん」「手紙無筆」と同様、登場人物二人の噺であり、前座さんがやってまずいとは思わない。
真打から聴くことの多い噺だから、ギャグがたっぷり加わっていることが多い。先日ブログで取り上げた、文蔵師の爆笑ものもそう。
だが前座がやると、これが基本形なのだろうかというシンプルな型が聴けて面白い。
とはいえ、乞食の千早と竜田川が会うシーンに、義太夫が入っていた。
そして、「お前師匠に下手だねえと言われたんだからやるなよ」「いいじゃないかやりたいんだから」という内輪ギャグ。確かに下手だけど。
転失気のときもそうだったが、オリジナルギャグを一箇所は入れる主義らしい。
ただどさくさに紛れて、なんで絶世の花魁が乞食になるんだという八っつぁんのツッコミが抜けていた。そのまま、「おまえおからやるかい」のくだりに入ってしまう。
思い出したけど、もう一箇所受けたギャグがあった。「隠居の話は5年経つとなんとかなるんですね」に対し「噺家だって5年経てば前座が二ツ目になる」と返し、これは黒門亭の客にバカウケしていた。
ちょっと失敗はあったが、市若さんのようないい前座さんだと、その日は非常に得をした気がします。

三遊亭歌実「六尺棒」

以下の演目はネタ出し。黒門亭の通常興行では、トリだけネタ出しが多い。
なにが掛かるか分からないのが寄席の魅力ではあるが、私はネタ出し結構好きだ。
続いて三遊亭歌実さん。袴をつけているが、踊りのためみたいで、噺の内容とは関係ない。
甲子園に出た母校、鹿児島実業にお花を送ったが、初戦敗退。「1万7千円したのに」。
師匠(歌之介)譲りで、マクラの漫談は実に達者な人である。この日は喋らなかったが、なにせ鹿児島県警にいたという鉄板ネタがあるし。
この日の踊りについて触れる。毎週月曜日に、ここ落語協会2階で練習してるらしい。
鈴本では、金原亭馬生師の芝居の際に踊りがある。馬生師のモノマネ付き。
その馬生師の天然エピソード。
もうすぐ二ツ目になる前座の駒六さんに、師匠が「二ツ目の名前考えたか」と訊いている。
いえ、まだと答える駒六さん。師匠が、「なら俺が考えよう」とじっと紙を見て、「馬楽はどうだ」「います」「あ、兄弟子か」。

もうひとつ、踊りの「メンバー」という言葉について馬生師、「メンバー」は今、印象よくないから呼び名を変えようと。
師匠自ら提案があり「一味」「組員」ではどうだ。却下され、結局メンバーのままでいくことにした。

六尺棒は大好きな噺なのだが、残念なことになぜかあまり聴けない。前座がやってくれても私は構わない。
遊び人の若旦那、孝太郎が久々に家に帰ってくるが、この若旦那、吉原ではなく博打にうつつを抜かしているらしい。
オヤと思ったのだが、あるいは客席の子供に気を遣ったのかな。あんまり博打の好きな若旦那はお目に掛からない。
「ダシカン」(出し抜けの勘当)が入ってなくてちょっとだけ残念。まあ、それは噺の肝じゃないけど。
若旦那の遊びのムードがよく出て楽しい、歌実さん。親父のほうも、走ってゼエゼエ言って怒っているわりには、なんとなく余裕が感じられる。

金原亭馬久「臆病源兵衛」

続いて金原亭馬久さん。この人は馬生師の弟子である。
神田連雀亭に初めて行ったとき聴いて以来だ。面白い顔と、不思議な気配を漂わせる噺家。
金原亭の噺になるのだろう、「臆病源兵衛」。先代馬生が掘り起こしたそうで、中でも五街道雲助一門の定番。
この噺は女絡みのエピソードが豊富に入っているが、子供がいるからといって避けては通れない。
まあ、別にいいんだろう。子供だって、内容全てを理解して聴くわけじゃないのだ。
ストーリーが面白い噺なのに、珍品である。別に金原亭の門外不出じゃないと思うけど。
最近新作落語を書いたから思うのだが、この噺のストーリー、頭で考えても作れない。
あらかじめ臆病源兵衛がスケベであることと、通称「地獄」に出入りしていることを噺の骨格に置いている。
主人公のはずの臆病源兵衛が、途中からいなくなって、八っつぁんだけ取り残されるのも不思議な筋運び。
馬久さんの、源兵衛の驚き振りは楽しい。
圧倒的な迫力まではまださすがに感じないけど、今から手掛けていって売り物にして欲しい。

柳家花飛「金明竹」

仲入り休憩時、前座の市若さんが募金箱を持って回る。
仲入り後は柳家花飛さん。
最近しばしばお目にかかる。精鋭揃いの花緑一門の中でも、不思議な魅力を持った人。
お子さんが来ている話から、いつもする自分の娘のネタ。
どこかのモールのアイスクリーム屋。先日は某古本チェーンだったし、固有名詞は出さない主義のようだ。
まだカタカナの読めなかった娘が、お父さんにアイスの種類を訊く。「ピーチ」「ライチ」「チョコ」が並んでいる。
ピーチとライチを教わった娘、チョコについては父に訊かず、「わかった、ウンチだ」。

マクラは短かめで、ネタ出し「金明竹」に入る。前座噺だが、ちゃんとやると結構長い噺。松公の、二階の掃除だけ短めの、ほぼフルバージョン。
花飛さんは、とにかく声の低い人。金明竹は、張りのある声で言い立てを述べるイメージの噺だが。
だが、この滑稽噺の王道が、意外にもよく合っている。
花飛さんの噺にいつも感じるのは、低い声によって、噺のトーンを一段ダウンさせ、そこで新たな秩序を生み出すというテクニック。
控えめの秩序からちょっとした弾むと、爆笑が生まれる。
ちょっと言い立て速過ぎたような気もするけど。これじゃ、松公に意地悪してわざとわかりにくく話しているみたいだ。
そして残念なことに、しばしば噛んでいた。
低い声でゆっくりした言い立てをすればそれでいいのだと思うけど。あるいは持ち時間が気になった?

初音家左吉「ロックンロール園長」

トリはお目当て、初音家左吉さん。
「黒紋付でやるような噺じゃないんですが」。この人も踊りがあるからだ。
この前に「場末」の神田連雀亭に行ってきたと。そちらでたっぷり練習してきたそうで。なんだ、なら駒次さん卒業記念の連雀亭のほうに行っても、ロックンロール園長が聴けたのだな。ま、いいけど。
連雀亭では非常にウケたのだが、意外とこちらでウケないことがあると。
左吉さんは、よく知らないのだが新作はこの噺以外にはやるのだろうか。古典落語の噺そのものから楽しさを引き出すのが上手い人である。
ロックで幼稚園を変えようという、一般公募の園長の噺。
革ジャンで面接に現れた園長志望者は、キースと呼んでくれと。本名はキヨシ。
先に採用した園長は、子供に「安倍首相がんばれー!」と教える人で困った。
ロックンロール園長は、保護者から反発を食らうが、それでもロックで園児にメッセージを与え続けて認められる。
聴くのが二度目のこの噺、十分面白かったのだが、もっともっと面白くなりそうな気が強くした。
途中で出てくる保護者「ざあます奥様」だけ気になった。最近の新作落語の世界観としては、不自然な気がする。
なんだか、当代文枝師の落語みたいだなと思った。
たとえば白鳥師や喬太郎師など、キャラクターの個性では笑わせるけど、特定の紋切り型の語尾やセリフ回しなどによる笑いは狙っていない気がする。
ざあますという、聴き手に何らかの固定概念を与えるセリフ回しを止めて、エキセントリックなキャラに改造するだけでさらにバカウケになると思った。
古典落語の得意な左吉さん、古典の技法をさりげなく持ち込むといいんじゃないかと。
それはそうと、ハッピーエンドでもってちょっといい噺ではある。

高座舞

最後に高座舞。
この日のメンバー4人に柳家かゑるさんを交え、計5人。
やはりというか、金原亭のふたり、左吉さんと馬久さんが上手い。特に馬生師の弟子の馬久さんは動きが流れるようで非常に綺麗だ。
師匠に厳しく言われてるんだろうな。
かゑるさんはどたどた踊り、途中で間違えて照れていた。
男の噺家が踊るのをごく間近で観たが、なかなか面白かったです。
終演後、黒紋付の噺家5人に、表で見送ってもらうという贅沢。
楽しい黒門亭でした。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。