柳家花緑弟子の会8(上・台所おさん「御慶」)

毎月やっている会だが、昨年7月以来の「柳家花緑弟子の会」に出向く。
スポンサーのおかげで、500円というありがたい席。らくごカフェ。
東京かわら版にも、らくごカフェ公式にも、今回のメンバーが誰なのか出ていない。
ツイッターを見たら、柳家花飛さんが告知してくれているのを発見。
おさん、花飛、緑助とのこと。
行ってみましょう。台所おさん師は、私のイチ押しです。

御慶 おさん
狸の札 緑助
(仲入り)
金明竹 花飛

 

らくごカフェ自体も久々だが、客席の椅子をスカスカに、9席しか配置していない。
客は7人。
ああ、またこんな状況がやってきたなあ。
しかしこの状況、どう考えても危険なスポットとはいえないと思う。
まあ、オミクロン株に感染するとしたら噺家さんからだな。ここは仕切りもないし。

真打だが、おさん師が開口一番である。弟弟子にトリを取らせる配慮だと思う。
このご時世にこれだけ集まっていただきありがとうございますと挨拶。
年が明けたのがずいぶん前のことのような気がしますが、今日は暮れから正月にかけてのめでたい噺をしますと、マクラなしで。

暮れのめでたい噺というと、富久か御慶。開口一番で富久はなかろう。
やはり御慶。母の形見である、かみさんの半纏をひっぺがして質屋に駆け込み、富を買うろくでなしの八っつぁん。

御慶はシーズンを極めて限る噺。もう1回やってみたかったんでしょう。
珍しい噺ではある。私も現場で聴くのは初めてだ。
しかし古典落語の中でも、随一のおめでたい噺だ。しかも、ストーリーになんのひねりもないという。

富に凝って一文無しの八っつぁんが、夢のお告げと易者のアドバイスで無事千両を当て、元旦に裃着けて挨拶まわり。
そして年始の挨拶として「ぎょけい」と叫ぶだけという、ただそれだけの噺。本当にそれだけ。
しかもサゲが地口。「ぎょけえったんだ」「恵方参りに行ったんだ」。

死神とか芝浜みたいなドラマティックな噺をありがたがる向きからすると、まるでつまらない噺ということになる。
かみさんの半纏まで質に入れる男が幸せになるという、教訓ゼロの噺。
離縁しておくれと言ってるかみさんに切り餅を突き出すと、とたんに機嫌が直る。
まあ、私はこのしょうもない噺が大好きです。
この噺を持ちネタに加えるおさん師のセンス。市馬師に教わったのだろうか。

そしておさん師にはこの噺、ぴったり。
八っつぁんはまさに演者の分身。落ち着きゼロの人。
常に衝動に身を任せる男。
この衝動に身を任せる客も、実に楽しい。筋道が決まっているのに妙にハラハラするし。

御慶は、人間の精神を解放してくれる噺なんだと思うのだ。
八っつぁんも、2割引かれて800両だが、大金持ちになるくせに、その喜びは極めてつつましやかだ。
裃に刀を差して、いい気になって「御慶」を言いたいだけの単純な男。どんどん楽しくなってくる。

ちょっと眠かったのだが寝てはいられない。

サゲについては、この噺を知らずにわかる人はいないのではないかな。
まあ、そんなのもいいじゃないですか。
一応、八っつぁんが大家から「御慶」を聞き、「どこへ」と聞き違えているのがヒントにはなっている。

冒頭からすばらしいデキでした。
今年も台所おさん師を積極的に聴いていくつもり。落語会にも行きたい。

2番手は緑助さん。
マクラの最中に出ていく客がひとり。帰るなら、始まる前に帰ればいいのに。
緑助さんもちょっとショックを受けた様子。

現代美術館に来たギャルのマクラ。オチなし。
先に出たおさんアニさんの御慶は、柳家の噺。私も、別の柳家らしい噺をしたいと言って、たぬきに入る。

うーん。前回も思ったのだが、わかりやすく壁にぶち当たってるなと。
ギャグをかます際、いちいちフリから入る。そんなのしてもウケないし。
「ふんどし」も「巨大な札」もないし、ギャグを刈り込む意識はあるのだ。残ったギャグもさらっとやればいいのに。

落語って難しいのだなと思う。
二ツ目になったばかりの頃は才気を感じたのに。やってるほうもなにが正解かどんどんわからなくなっていくみたい。
おさん師の御慶は27分あったが、中身が詰まっていて実に楽しいものだった。
一方、20分のたぬきのほうがずっと間延びして感じるではないか。

わかりやすく拍手の量が違っていた。
がんばれ。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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