柳家花緑弟子の会8(下・柳家花飛「金明竹」)

そういえば、一昨日に日本の話芸の春風亭昇太師を取り上げた。
楽しいおさん師の御慶を聴き、この噺を昇太師で聴いてみたいななんて思いました。楽しい演者の分身の、終始落ち着かない八っつぁん、見てみたい。
芸協会長が、落語協会の2階でもって落語協会会長に噺を教わるなんて面白いと思いませんか。

仲入り休憩を挟み、トリは花飛(かっとび)さん。
この会の存在もあり、花緑一門はよく聴いている。その中でも、この人はとりわけよく聴いている。
数えたら10席目だ。
たった一度だけハズレがあったが、常にアベレージが高く、おおむね満足させてくれる貴重な人。
地味は地味なのだが、その語り口が実にいい。そして伸びしろのある二ツ目さんらしく、年々これが完成に向かっている。
語り口自体もまた地味なのだが、客を落ち着かせてからスタートする芸であり、決してケガはしない。
客と波長が合えば、無限の高みに連れていってくれる可能性がある。
柳家らしいといえば柳家らしいが、小はぜ、小もんといったいっぽうで若々しさを感じる人たちともまた違う。
誤解を恐れず言ってしまえば、花飛さんには花がない。でも、そんな欲すらきっと先刻捨てている。

この日も袴姿。袴を着けていることがやたら多い人だが、その割にお武家の噺などやるわけではなく。

早々と「おい松公」と金明竹へ。
私はこの前座噺の言い立てを、最近ようやく覚えたところ。柳家らしく、小せん師あたりとおおむね同一の言い立てだった。
ただ、もともと好きな噺ではあるものの、トリで聴きたいとは別に思わない。これが出て喜んだわけでもない。
とはいえそう思ったのも一瞬で、結果トリにふさわしい見事なデキでした。
ギャグのムダ打ちなど狙わない花飛さんに実にフィットする噺であり、その楽しさは小せん師にすら匹敵するんじゃないかと思った。
やっぱり派手なところはひとつもない。でも、マイナス部分もまったくない。
フルサイズで掛けるとわりと長いこの噺に、どんどん貯金ができてくる。
言い立てに入らない前半だけでも、いつまでも聴いていたい感じ。

そして松公を、おじさんもおばさんもまったく叱らない。たしなめはするが、仕事をちゃんと覚えさせなきゃという使命感のほうが強い。
おじさんも、かいた恥を釈明して帰ってきても、さして怒っているわけでもなく。
花飛さん自身、松公(与太郎)が大好きなんだと思う。
楽しい松公が自由に羽ばたける状況をしっかり構築しておき、主役から狂言回しへと徐々に変わる役割の中で、強烈な印象を残してくれる。
パワハラが蔓延する現代社会において、まったく叱られない松公というのは実にもって人の気持ちに沿う。
私の大嫌いな小三治金明竹(松公をののしりまくる)など、それをよしとする価値観と一緒に滅びてしまえばいい。じき滅びるとは思うが。

花飛さん、2か所間違えていた。
「きやしないよ」を「こやしないよ」。
おばさんが、「奥で調べものしてるから」(これは「縫いもの」と言い直す)。
でも気にならない。
本当に気にならないなら書かないでスルーしてやれと言われそうだが、気にならないのは本当。そんな部分で価値を損なったりはしない高座なのだ。

花飛さんは、語り手と噺との距離を大きく空ける人。落語界のソーシャルディスタンス。
マイナスを一切感じないのはこれが大きな理由だと思う。
誰でも、噺に変に近寄っていきたい誘惑には駆られるところと思う。そして、まましくじるのである。
花飛さんはそんな誘惑とは無縁だ。

先に出てしくじり気味だった緑助さんも、スタイル自体は見習えないかもしれないが、その誘惑に駆られない姿勢は学んで欲しいなと。
コロナ禍だから仕方ないが、花飛さんの高座の最中、ごそごそしながら帰っていったけど。花飛さんのほうも、恐らく冒頭にはおらず、途中からやって来たはず。

噺を遠くから捉えるスタイルだから、独自のクスグリは少ない。
だが1か所工夫がある。おばさんの珍解釈を聴き、再現するおじさんが「俺も一度聴いてよく覚えたな」。
時そばではたまにこんなの聴くけども、金明竹では初めてだ。
噺を傷つけず、ジワジワ来るクスグリ。

ちなみに言い立ては、「この屏風」の後に間を置かず、「兵庫の坊さんの」と続ける。
金明竹の言い立ては、教わった通りにやらなくてもいいのだということがよくわかる。
そしてスピードアップを図らない、私の好きなタイプ。スピードを上げていくと、「それ、絶対わからせようとしてないよね」という言い立てになってしまう。

コロナ禍の客も少ない会だったが、2席いいのが聴けたので大満足です。

(2022/1/28追記)

すっかり忘れていたのだが、2018年にも花飛さんの金明竹を聴いていた。
当ブログからほじくり出しました。
当時は、「よく噛んでいた」「急ぎ気味だった」という感想を残していた。
4年経って、改めて実に立派な金明竹だったなと思います。
あと、10席目ではなく、どうやら12席目だったみたい。

(上)に戻る

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。