東村山土曜寄席 その1(春風亭かけ橋における元師匠の存在)

仕事が片付いた土曜日、どこかへ行きたい。
オミクロン株が怖くないわけではない。いのちの危険はまったく感じないものの、感染したときの面倒さはなかなか恐怖ではある。
だからといって、家にいたらセーフということもないでしょう。

東京かわら版をめくると、「あさか寄席」というものがある。
ああ、そういえばこの会のチケット買おうか考えていたなあと。柳家喬太郎・三遊亭歌奴二人会。
朝電話してみたら、当日券はなかった。

末広亭の1月下席、瀧川鯉八師のトリはすばらしい番組なのだが、夜席には行きづらい。

しかし、他にひとつ面白そうな会がある。
東村山土曜寄席。交通費は余計に掛かるが、千円と安い。
以前から会の存在は知っている。芸術協会メンバーが東村山じゅうの公民館を周る、若手の会。
今回は、東村山駅前の中央公民館であり、交通の便はいい。
羽光、遊かり、昇という芸協の精鋭が揃い、ゲストが鶴光師。
さらに見逃せないのは、前座が春風亭かけ橋さん。元落語協会の柳家小かじ。
かけ橋さんは芸協で修業をやり直してからは一度も聴いていない。

電話したら、十分席はあるとのこと。非常に親切な対応だった。

高田馬場で少々仕事をしてから、西武新宿線で東村山へ。
私はこの地にかなりの縁があるのだが、落語を聴きにいくのは初めて。
西武新宿線沿線では、手前の小平でよく、千円の会をやっている。こちらも何度か検討したが、来たことはない。

立派なホールに、人数は数えていないがそこそこの数のお客さん。
席は市松模様。
先に言っておくと、非常に結構な会でした。東村山くんだりまで出向いた甲斐があったというもの。

転失気かけ橋
やかんなめ
紀州鶴光
(仲入り)
ちりとてちん遊かり
正二郎
私小説落語~スローバラード編羽光

 

ちゃんとお囃子さんも一緒に来ているから贅沢だ。
楽しみなかけ橋さんの開口一番から。
この人を検索して当ブログにお越しくださる人は、相変わらず多い。
ちなみに、「柳家小かじ」「柳家三三 破門」「柳家小三治 破門」などでもヒットします。

小かじさんを最後に聴いたのが、2017年12月の早朝寄席(鈴本)の開口一番。4年前のこと。
ちなみに、その次に出てきたのが、このたび破門になった(らしい)林家扇兵衛さんであった。

元小かじのかけ橋さんは、「知ったかぶり」を振って転失気へ。
個人的に、前座が掛けるとがっかりする噺のひとつ。あとは元犬。
噺のデキがどうのではなく、心底飽き飽きしている。
前座噺でも、子ほめ、牛ほめ、道灌あたりは全然構わないのだけど。

だが、さすが落語協会で二ツ目になっていただけあって、大変達者な一席であった。
まったくギャグを強調せず、とても聴きやすい。
そして、展開に応じて登場人物がしっかり驚く。
珍念は真相を知り、心底驚愕している。医者の先生は、盃の箱を開ける際、リアルに警戒している。
「登場人物は噺の先を知らない」という格言みたいな教えがある。だが、演者は先を知ってしまっているので、なかなかこうはいかないのだ。

雑貨屋と花屋は、「珍念くん」と呼びかける。
「風呂敷」「鍋敷き」のクスグリを、2軒のお店でパラレルに描くのも、実に楽しい。

それはそうと。
口調が、元の師匠そっくりでまたびっくり。目をつぶって聴くなら、完全に三三。
独特の、鼻に掛ける発声法である。あと、子供を描くときには、ややたどたどしく喋る。
落語協会にいたときの小かじさんに、そんなイメージなかったけど?
入門して真っ先に覚える前座噺になると、その際の師匠の口調がどうしても出るということ?

世の中、関係の続いている師弟であっても、これほどそっくりということはない。
今度扇橋になる入船亭小辰さんだって、つい師匠の口調がにじみ出てしまうものの、それでも意図的に離れようと努力しているように感じる。
まったくの想像だがかけ橋さん、今の師匠(柳橋)に、「無理に直すことはない」と言われているのではないだろうか。
関係を断った前の師匠に似てしまっても、気にするな。そんな教えだろうか。

それにしても似過ぎている。いろいろ複雑な感情を思い起こすのであった。
これほど師匠リスペクトの強かった人を、どうして破門にしたのだろうか。
大師匠小三治の意向だったと世間では思っているし、私もたぶんそうだろうと思っている。だが知らない以上、何も言えない。

とにかく、久々に聴いたかけ橋さんはやっぱり上手かった。
今の一門で教わった噺も聴いて、比べてみたいな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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