東村山土曜寄席 その2(昔昔亭昇「やかんなめ」)

今回の落語会、「上中下」3回で収めるつもりだったのだが、字数がどんどん増える。
それだけ中身の詰まっていた会でした。

続いて二ツ目は昔昔亭昇(のぼる)さん。このたびのZabu-1グランプリにも出場。
出囃子が「やぎさんゆうびん」だ。瀧川鯉八師が二ツ目時代に使っていた童謡。
童謡の出囃子も、引き継ぐことってあるんだね。
昇さんは、二ツ目昇進高座を末広亭で聴いた。いい印象を持っている。
芸協カデンツァの世代の、さらに下である。「ルート9」という新ユニットの一員だそうで、この存在は今回初めて知った。
明るい高座なのはかつての印象通りだが、口調は記憶と変わっていた。
なんと、桂宮治丸写しだ。一門は全然違うのだけど。
三三に続いて宮治。今日はモノマネ落語会なんじゃないかと。

口調は宮治師とほぼ同じなのだが、とはいえこれが昇さんのニンにぴったりなのもまた事実。
宮治師の高座の好きな人は、同じ席にいない限り、昇さんでも満足できると思います。
私も、口調が似てることがやたら気になったわけじゃない。それに、本家ほど毒吐かないし。

福岡出身なもので、東村山は初めて来ました、遠いですねと挨拶から。
志村けんさんゆかりの町ということだけは知っています。
早めに来て街を歩きましたが、若い人がいません。駅前の志村けん像にも行って、自撮りしてみましたが、やっぱり若い人がいません。
なんだ、ここ(会場)にいたんですねとヨイショ。

福岡出身なのに、鼻濁音がとても強い。
具体的には、助詞の「が」かなり強く鼻に掛かっている。後天的によくマスターしたものだ。
東京出身者だって、こんなに強い鼻濁音はできない。私だって、もともと使ってない発声法。
桃太郎一門に鼻濁音が必要かどうかはさておいて。まあ、昇さんは古典派だからな。

前座がしなかった、諸注意をする。
携帯切ってください、そしてペットボトルは蓋を閉めてください。中身がこぼれるとそっちに注意が行ってしまいます。
先に出たかけ橋さんは前座ですが、私は羽織が着られる二ツ目ですと。
かけ橋さんのほうが本来は先輩だが、こんなのもけじめである。
この羽織なんですが、着られるようになったときはそれは嬉しかったのですが、太った私には暑いです。と脱いで本編へ。
汗びっしょりの熱演。たびたび手拭いで顔を拭く。

女性の持病「癪」の話をする。
やかんなめである。
小三治が復刻し、その後弟子・喜多八から広まった噺。
芸協では文治師(このたびコロナにかかったそうで)がやるはず。
そのやかんなめ、昇さんがいじったのだろうか? 落語協会で聴くものとかなり違う。
出かける前から描写が始まる。出かけるのは、おかみさん、女中のお清、3人目は女中でなく、小僧の定吉である。
お清が定吉に、荷物を準備するよう命じたのだが、出ていたやかんがお清の勘違いだと思った定吉が、荷物に入れなかった。

なので、青大将を見て癪を起こしたおかみさんの合い薬がないのである。
おかみさんが苦しむところに、たまたまやかん頭のお旗本が現れる。
お旗本は、家来の可内と談笑しながら現場にやってくる。
そんなに怒る人ではないし、ムダ話は多いがものわかりはいい人。
ユーモアと人情がしっかり描かれる、いい高座。
そして、やかんなめの新たなスタンダードになりそうだ。

女中のお清は、無礼討ちを覚悟してお武家に頭をなめさせてくれと頼む。
お旗本は、軽い可内にたしなめられ応じてくれたが、お清は頼んだ後で怖くなって嗚咽が止まらない。
そして定吉はお旗本を怖がり続ける。
お旗本が「(お清に)泣くな!、(定吉に)怖がるな!、(家来の可内に)お前は笑うな!」というのが、ギャグのハイライト。
明烏か。
脂ぎったお旗本の頭をなめまわすのを見て(あるいは先んじて想像し)、登場人物がみな「オエッ」としている繰り返しのギャグも秀逸。

お店の名を名乗ろうとするお清に、先んじて名乗るな!わしも名乗らんと語るお旗本。
なめる前にこのくだりを持ってきた工夫は見事だ。

雰囲気の楽しい昇さん、創作力も大きいようである。
新作の一門なのが、古典派にも生きるのだ。全部とは言わないが、大部分は彼の手による演出じゃないかと思うが。

冒頭がたっぷりの分、しまいはスピーディなのも見事な工夫。
サゲもよく聴くのと違っていた。忘れたけど。

続きます。

片棒/やかんなめ/質屋蔵

作成者: でっち定吉

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