神田連雀亭ワンコイン寄席38(上・笑福亭希光「持参金」)

Zabu-1グランプリがまだ完結していないのにすみません。ひとつ割り込みます。
昨日行ったばかりの現場の記事のほうが先にできちゃった。

締め切りがあるのにちょっと出かけた。
4日なので、巣鴨の四の日寄席に行きたいのだが、そこまでの余裕はない。
そんなときに嬉しいのが、神田連雀亭ワンコイン寄席。

春風亭一花さんが出るので早めに。
人妻を追っかけるのもたいがいにしたほうがいいかもしれない。ただ、旦那のファンでもあるので許してもらいましょう。
2021年は4回、ここ連雀亭で一花さんを聴いている。
さすがに年末は一花さんをパスし、前日の竹千代さんの席にしましたがね。

開場時はスカスカだったが、開演時には12人。つ離れしている。
アクリルで仕切り、高座の後ろを開けたここは、世界一コロナに強い寄席である。不安はない。
受付はトリの一花さん。

他の顔付けは、笑福亭希光、春風亭橋蔵。いずれも私の好きな人。
一花さんが出るときは、だいたい他の顔付けも私好みの気がする。
完全にランダムでの顔付けだそうだけど。

前説は橋蔵さん。相変わらずなにも面白いことを言わない。
それがかえって面白い。

笑福亭希光さんから。
頭をゆっくりと下げる。
口を開くなり、「古今亭文菊師匠を意識して出てみたんですが、難しいですね」。爆笑。
あの操り人形のような所作をマネてみたいのだそうだ。

このご時世ですが、今日はこんなに入ってありがとうございます。一花さんのおかげですよ。
また、男性ばっかりですね。
一花さんはつる子さんとは違い、男ばっかりが集まる印象は私は持っていなかったが。今日は確かに12人中11人が男性だ。

連雀亭は毎日人数付けてますけど、昨日なんか1人だったそうですよ。1人だと、交通費も出ませんからね。
今日はおかげで、いきなりステーキの450gぐらい食べられそうです。
また500円だと、分けるのが大変です。誰が100円になるんだろうって。だいたい先輩が譲るんです。
希光さんも客1人(しかも11時38分にやってきた)ということがあったと、これは先日マクラで聴いた。

分けると言えば、私、真打ふたりの会に前座で呼ばれたことがあるんです。
まい泉の差し入れがあり、ホストの師匠がゲストの師匠と私に、分けてくれって言ってくださったんですね。
そうしたらゲストの師匠、3パックあるカツサンドの2パックを取って、後の1パックを私に下さいました。普通、前座に2パックか、あるいは全部でしょ。
私は真打になっても決してこんなことはしないぞと決意しています。

コロナ禍で仕事の少ない希光さん、思い立って、普段しないことをしてみようと思ったんだそうだ。
それが、「リッツカールトンに行くこと」。
一張羅のスーツと革靴で、六本木のリッツのラウンジに行ってみる。
メニューを見ると、一番安いのがペリエ1,000円。
さすがにこれは、いかにもなので頼めない。悩んで2,300円のコーヒーを頼む。
落ち着かないことこの上ない。結局、タブレットを眺めながら、ずっと落語の稽古をしていた。
せっかくなのでそのときさらった噺をしますと。

マクラはすべて、金の噺のフリ。
持参金へ。東京落語でもおなじみの演目だが、もとは上方落語。とはいえ、ほぼ東西一緒。
小遊三師が「金は廻る」というタイトルでやっている。
男が寝ていると番頭さんがやってきて、悪いけども先日貸した20円、今すぐ返して欲しいのだと。
返す当てなどないところへ今度は金物屋の佐助はんがやってきて、嫁を貰う気はないかと。
いいところのない女で、おまけに臨月。だが20円の持参金に目がくらみ、二つ返事でもらってしまう。

希光さんの語りは実に達者であり、非常に楽しい。
「背えがスラっと」「高いんでっか」「低いねや」
「色が抜けるように」「白いんでっか」「黒いねや」
というやり取りは、落語でも屈指の名フレーズと思う。

女性差別が糾弾される世の中では、真っ先に消滅しそうな噺でもある。
だが繰り返し聴くと、この落語の世界観がどんどん好きになる。
この噺には、「女なんてなんだって一緒だ。結婚してしまえばなんとかなるよ」という、ごく軽い、無責任なメッセージが漂っている。
人生、そんなに真剣なものじゃないのだ。
むしろ、この噺から生きやすさを汲みとれるぐらい。

とはいえ、この一見ひどい噺に対して、現代人の希光さんとしては思うところがあるらしい。
もらった嫁のお鍋の、お腹の子の父親が番頭さんだとわかっても、男はまあええわと達観している。
「ピザだって作ってから持ってきますやろ」と、わかるようなわからないようなウーバーイーツギャグを入れていた。
そして、「顔はおもろいけど、気はやさしいし気に入りましたわ」と、先人の入れないフレーズをしっかり入れて、噺を立体的にする。

実に見事な一席であった。鳴りやまない拍手。
芸協カデンツァはどんどんよくなってくるなと。成金とは比べられる存在ではなかったが、最終的には同じぐらい出世するのではないかな。それがユニットの力。

続きます。明日はZabu-1グランプリだと思います。
 
 

作成者: でっち定吉

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