しんうら寄席の三遊亭遊雀(中・「替り目」)

主役の遊雀師登場。
口を開くなり「くだらないねえ、『親がなすとも子は育つ』」。
でも、本当に落語らしい噺だよね。落語のエッセンスが詰まってるよ。こういうくだらない噺に価値があるんだよ。
南太郎、面白いでしょ。あれ、寄席にいるからいいんでね、外にいたら不審者だからね。
楽屋で大事に育ててるんだよ。今日は皆さんにお披露目しようと、首に縄付けて引きずってきたんだけどね。

南太郎さんの面白さがピンと来なかった客も3割ぐらいはいたと思うのだが、遊雀師に解説してもらったことで、最初から楽しい思い出にすり替わった人もいるに違いない。

ここ、久しぶりなんだよ。来てみたらホールが改装されててね。この立派な後ろ幕がいいよね。
本番前に写真撮っちゃったよ。素人みたいなことしちゃった。
そっちから見たら、長屋が立体的に見えるよね。

ここはね、とにかく細かいところ気が利くの。ほんのちょっとのことなんだけどね。
市川や船橋のホールにも見習ってほしいね。
と言う遊雀師は船橋出身。

オリンピックも、東京もだけど始まる前はいろいろ言われるけど、始まったら観ちゃうね。
昨日バイアスロン観たんだけど、あれすごいよね。
こうスキーで全速力でもって走ってくるわけでしょ。息がまだ上がってるんだよ。それでスキー履いたまま射撃するんだよ。
どっちかにしろって思うよね。翌日射撃だけやるとかさ。
あれ、間抜けな選手だと息が上がってて、隣の選手狙っちゃうんじゃないの。

いきなり床に寝そべり、バイアスロンの射撃を実演する遊雀師。
そういえば書くの忘れたのだが、前座の南太郎さんも茄子の精を描く際、しばしば横っつわりになっていた。
射撃の実演をしながら遊雀師、「あ、こう見えても私ね、本格派で通ってるんでね。こないだ来てる三遊亭白鳥と違うからね」。

そしてカーリングについて熱く語る遊雀師。あれは最初から最後まで駆け引きだから、試合丸ごと観たいね。
戦略によって、このゲームは捨てるとか、あるじゃない。だけど相手が大きなミスをしたので、たちまち勝負に出たりしてね、たまらないね。
選手はみんな一生懸命やってるから、あまり競技によって差を付けちゃいけないけどさ、あのソリはわからないよね。
といって今度はリュージュの寝そべった姿勢の実演をする。

話を続けながら、「着物直していいですか」といったん立ち上がる。
やりたい放題。
師が高座で語るのを聴いたことはないが、もともと遊雀師もアスリートである。なかなか選手目線である。

マクラだけで爆笑なのだが、ここから「最近あまり飲まなくなったけどね」とお酒の話。
外の付き合いがなくなり、噺家は現在みな品行方正なんだって。
また元の、ばかばかしい酒の席が戻るといいねと。

私の一番好きな酒の小噺していいですか。
明け方に空にあるのが月かお天道さまか通りすがりの酔っぱらいに訊く小噺。
遊雀師の好きな酒の小噺とは、これか、酔っぱらい親子かのいずれかである。

本編は替り目らしい。
寄席の軽い出番で師の「熊の皮」が出るとまたかと思ってしまうが、3回目の「替り目」についてはまったく気にならない。
むしろ嬉しい。
替り目こそ遊雀落語の集大成。トリでも、仲入りでも出せる勝負ネタ。
そして替り目の主人は、噺家三遊亭遊雀でもある。酔っぱらいながら、楽屋ネタを語るのだ。
つまり地噺の要素まで入っている。談志もびっくりのイリュージョン落語なのだ。
酒飲みドキュメンタリーでもあり、だから毎回違う。

今日はオリンピックマクラをたっぷり出したので、本編の尺はやや短めにしたらしい。
この刈り込みもまた自由自在である。
なんと、替り目の通常のサゲ「まだそこにいたのかい!」をやらない!
遊雀師は必ずうどん屋を出し、「替り目」が出てくる本来のサゲまで行くのだが、それにしても。
そもそもおでんをセレクトする場面がない。これも抜いたのだろう。
計略でもってかみさんに酒をすすめさせる場面も、アッサリと一杯もらって先に進める。
ちなみに、さらに長くしようとすると、うどん屋で海苔を炙るはずだ。

そして噺家である亭主、酔っぱらったまま独り言として、楽屋ネタを語る。
三遊亭白鳥兄貴は、俺が楽屋入りした時の立前座だった。この白鳥が、机の上で筆握ってるんだよ。
覗いたら、「三遊亭圓朝」って書いてるの。なに書いてるんですかって訊いたら、「サインの練習」。
でもあの人、ここに来て評判よくってねえ。実現するかもしれないね。
飲むと落語の話しかしない人でね。まあだいたい間違ってるんだけど。
あの人か喬太郎さんか、どっちかかもね。

圓朝襲名の噂なんて同業者から初めて聴いた。
圓朝の前に円丈じゃないのか、普通。
まあ、酔っぱらいの戯言だと思っておきますよ。実現したら楽しいですが。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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