しんうら寄席の三遊亭遊雀(下・「花見の仇討」)

マクラと脱線漫談を含めた見事な酔っぱらいの高座。40分近くあったか。
顔で怒るおかみさんを酔いどれ亭主が再現するが、その際の怒り方が違うというのが、地味に丁寧。

仲入り休憩を挟みもう一席。
着物は同じものだ。別にいいけど。
今日この後、池袋行くんですよと遊雀師。夜席(主任・談幸)のヒザ前である。
チラシでご覧になったかもしれません。私、来月上席昼席前半のトリ取るんですよ(拍手)。
池袋から久々のトリの依頼なんです。頑張らなきゃいけません。
南太郎の二ツ目昇進よりこっちのほうがめでたいんじゃないですか。
昼席ですからね、お仕事で来られないかもしれませんがご都合のつく方はぜひ。
夜のトリはA太郎さんです。居続けできますので。

私もチラシ見て驚いた。
いや、驚くこともないのだけど、池袋でトリを取る遊雀師を見ないものだから。ずっとこの日を待っていたのだ。
仲入りは小遊三師で、私の好きな遊馬師や鯉朝師も顔付けされているから、行かなきゃと思う。
チラシで500円引きである。ありがたい。
夜席の仲入りは、A太郎師の師匠、桃太郎師。いつ入っていつ出るかが、食事禁止の今、難しいところだ。

3月なんでね、春の噺をやりつくそうと思ってます。花見の噺とかありますからねと遊雀師。
ただ、いきなりは出せないんで、今ここで試していいですか。
(客の反応を見て)生ものの前でやるのが一番いいんだよ。

花見の噺といえば、長屋の花見に花見酒。実際にはほとんど長屋の花見だろう。工夫の余地が大きいのも長屋の花見。
意外と花見の時季の噺、ないんですよね。
花見小僧もあるけど、この花見は回想シーンなので、本当はいつでもできる。そうはいっても気のものではあろうが。
あたま山なんてまず掛からない。
花見の仇討も楽しい噺だが、マイナー感がぬぐえない。
工夫の余地はあると思うけど、なにしろ出せる時期が短いから、労力に比して儲からないことこの上ない。

花見の仇討は当然ながら一年振りらしく、遊雀師もところどころ間違えていた。「本所のおじさん」を「王子のおじさん」と。
なんとなく、わかる間違いだけど。
あと、六ちゃんは六部の役なんだけども、一瞬、巡礼兄弟のほうの役に入れてしまって言い直す。

おじさん家で酔いつぶれた六部がやってこないので、延々と刀を合わせ続ける3人の困惑は、いい画である。

今回改めて噺を聴き、花見の仇討の難しさがわかった。こんな理由。

  • 基本、若い衆のワイガヤ噺のため、4人のキャラクターを描き分ける余地がない
  • 六部役の六さんの、耳の遠いおじさんはかなりキャラが強いが、サイドストーリーなので描きすぎるとテーマがブレる
  • 助太刀をするさむらい2人は四角四面の記号キャラで膨らませる余地に乏しい
  • オリジナルのクスグリを入れる余地が少ない

ワイガヤ噺でキャラを描き分けるのが難しいのは、もう宿命である。特に江戸落語はそうなのだが、大阪だって喜六清八が出てこないと似たようなもんだ。
キャラを付け加えようとすると、建具屋の半公か、与太郎ぐらいしかキャラ強い人はいないのだ。両方入れたのが「酢豆腐」。

私が演者だったら、「芋俵」よろしく与太郎を仲間に加えるな。巡礼兄弟役の弟のほうにする。
与太郎なら、さむらいを怒らせるのに自然な流れができる。そして噺の焦点がここに合うのだ。
まあ、誰もこうしていないというのには理由があってのことだろう。得意げに仮説を披露するのもナンですが。

遊雀師は持ちネタが多くない人。これは欠点というわけでもない。
そんな中、一昨年に聴いた「四段目」は、小僧の定吉の描写が見事だった。
芝居好きでこまっしゃくれて知恵が回るが意外と抜けている、複合的な小僧のキャラが座布団の上にすべて映し出されていたのだ。四段目は、定吉に焦点を当てられたので大成功なのだ。

比べると今回、花見の仇討に関してはちょっと散漫な気がしましたな。
アニイ格の熊さんが、ずっとタバコを吸い続ける羽目になるとか、なかなか見つけてくれないとか、トホホ感はよく出ている。
だが、トホホ感が似合う噺家もいれば、そうでない人もいる。
遊雀師の場合、「トホホ」では足りない。困りすぎてぶっ壊れてしまう人を描くのが、師の真骨頂なんではないかなと。

池袋のトリに向け、散漫さがなくなるかな?
それなら絶対によくなるわけなので、私が池袋に出向く日に仕上がっていれば、同じ噺でも全然いいやと思った。
むしろ期待したりなんかして。

不満だったかというと、替り目があまりにもすばらしかったので、全然そんなことはありません。
楽しく新浦安を後にしました。
そして8月に二ツ目に上がる南太郎さんにも期待します。

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花見の仇討/四段目

作成者: でっち定吉

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