しんうら寄席の三遊亭遊雀(上・桂南太郎「茄子娘」)

本日土曜日は、行きたい会が2か所あった。
新浦安と、座間。千葉県と神奈川県。
しんうら寄席は、三遊亭遊雀独演会。
ざま昼席落語会は、入船亭扇好・隅田川馬石二人会。
新浦安は、近そうで意外と遠い。舞浜の先。
座間は、遠そうで本当に遠い。ただし千円で、さらに東急のおかげで交通費も意外と安い。
悩んだが、前日に電話したら獲れた新浦安に決定。
昨年聴かなかった遊雀師にまだ義理がある気がする。今年初めて聴いたのが師の高座なのだが。

しんうら寄席、前回来たのはもう4年前のこと。そんなに前なんだ。
とはいえ13年ぐらい前まで、結構数来ていてなじみのホールではある。
だが、ホールが改装されていたのは知らなかった。
ゴージャスな椅子が取っ払われ、パイプ椅子(上等なもの)。その分収容人員が大幅に増えている。
それだけでなくて、ホールの前後が逆転している。入り口があった場所に舞台があり、高座が設えられている。
演者は上手から上がる格好だ。

茄子娘 南太郎
替り目 遊雀
(仲入り)
花見の仇討 遊雀

前座は行って初めて知る。桂南太郎さん。
名前から、小南門下であることはわかるが、この人は初めて。
この前座が大ヒット。
師匠方から声が掛かるだけ当然なのだが、落語会に連れていかれる前座のほうが、ずっと寄席にいる前座より腕があるのは確か。
昇進間近の前座の中では、落語協会の柳家り助さんにこのところ大いに注目している。
芸術協会の南太郎さんも負けてないと思った。ただしちょっと味わい方にコツはいる。
いい前座の共通点は、自分の持ち味をよく理解していること。
南太郎さんは、口が回りもしないが、自分の与太郎的個性はよくわかっている。
その分、若干あざとい。人を油断させておいて、いきなり切り付けてくる。ただし竹光で。

ニコニコと高座に上がる南太郎さん。
今年の8月に二ツ目昇進ですと語り、拍手をもらう。私が出くわさなかっただけで、キャリアは長い。
師匠が襲名してからの入門ということになるかな。
師匠から言われたのは、前座は人間じゃないんだよということです。だから自分のことを虫ケラだと思ってます。
今から虫の落語をお送りします。
一分線香即席噺。鳩がなんか落としたよ。天井から水が漏るよ。
もちろんウケるわけはない。だが、語ってテレている様子がとても楽しい。そして客席もジワジワウケてくる。
スベリウケを心得ているのだ。大したもんだ。
真打になったって、つまらない小噺を振った後で自虐ツッコミを入れてスベリウケに持っていく人は無数にいる。南太郎さん、釈明しないから偉い。

お寺の話に入る。
前座噺ではなくて、なんと茄子娘。寄席ではやれない。
入船亭の専売特許である。先代(がついに付きましたね)扇橋の十八番。
他には、円楽党の三遊亭朝橘師からわずかに聴いたことがあるだけ。
南太郎さんはどうやら、入船亭の師匠から直接教わったもののようである。骨格がまったく同じ。
だがそこに自作(だろう)のギャグを多少入れる。
寺男が母親の見舞いのため寺を留守にしてしまうので、寄合で披露するはずだった小噺を和尚に頼んでいる。
木魚は豚肉でできている。ポークポーク。これまたスベリウケである。
そんなの恥ずかしくてできるかと和尚。和尚、あとで自作の小噺を思いついたが、私のほうが忘れてしまった。

茄子の精が出てきて、雷が鳴って濡れ場。
南太郎さん、「私、未成年なんで師匠からこの部分やるなって言われてます」と微妙なウソ。
「・・・信じてますか?」。なにを?
前座のくせに客を手玉に取りやがって。

夢の中とはいえ女犯である。修業に出直す和尚。
1年経って戻ってみると寺は無住で荒れている。
しかし茄子の精との間にできた娘が待っている。
和尚が娘に年を訊くと、6歳だという。
なんで1年間で6歳になるんだよ。1年で6年分成長したということなんだと思うけど。

なるほど、あれは夢ではなく子ができておったか。茄子が人参したかと和尚。
いや、こんなダジャレで落ちはしない。ちゃんと本来のサゲがあったけど。

実に楽しい高座だった。
だが、今日の今日聴いたものを早速起こしているのに、その高座の魅力が私の筆からではまるで湧いてこない。これにもびっくり。
筆に表せない面白さ。いや、南太郎さんに私が適わなかったということです。
南太郎さん、口が回らないと書いたが本当。本当につっかえていた。
まったく動じないからそれもすごいけど。
すごいな。二ツ目の披露目の席に行きたいな。

遊雀師に続きます
明日はもうちょっと早く更新しますよ。

(2022/4/10追記)

浅草お茶の間寄席で出た三笑亭可風師の「茄子娘」が、南太郎さんのものとほぼ同じでした。
出どころがわかりましたが、だからといって南太郎さんの創作力への評価が落ちることはないです。

茄子娘/ねずみ

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 南太郎さんのこの噺、仙台花座初席で私も聴きました。
    小南門下は妹弟子の南海も含めキャラが立ってて面白いですね。
    ちなみにこのときのトリも遊雀師匠でした。
    やはり首都圏は色々と落語会があって羨ましいです。コロナ禍での地方は(泣

    1. 花座っていったら寄席ですよね。
      寄席で前座が茄子娘? しかも、自分語り付きで?
      いいのかしら。
      聴き手からしたら、寄席の掟よりも楽しければもちろんいいですよね。
      文治師でもいたら叱られそうな気はしますけど。
      とにかく南太郎さん、楽しみです。
      ナンシーさんはひょっとしたらと思ってます。

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