受験人情噺

佑輔まつりはまだまだ続きそう。
アクセスが異常に多いのをいいことに、昨日は休みました。
しかしなあ、と思う。
これだけアクセス多いと、まつりの当事者である佑輔さんのご両親も私のブログを見ているかもしれない。

「ねえねえお父さん、『でっち定吉』って人のブログ読んだのよ。今度の師匠だけど、育成実績がないくせにムダに厳しいって書いてあるわよ。友里恵、大丈夫かしら」
「うーん、まああと9年ぐらい辛抱したら真打になれるんだから、破門にならなきゃ大丈夫だろう。それに、よかったじゃないか落語協会にいられて。序列も下げられないみたいだし」
「そうねえ、芸術協会とかに行って、前座からもう1回やり直すのよりはいいわよね」

とか語り合ってるんじゃないかしら。
全然大丈夫な気はしませんけども。
当ブログに散々書いているとおり、ムダに厳しい師匠はことごとく弟子をダメにしていく。そして自分が原因のくせに、ものにならない弟子を真打になる前に淘汰するのだ。
それにより、また弟子が入ってくる道を閉ざしていくサイクル。ますます意味がわからん。
ただし自分の育成力を誇示したい師匠だから、忠実に言うことを聴いてすぐ実行すれば、なんとかなるか。
もっとも、「小言幸兵衛」や「かんしゃく」と一緒で、小言を言わないとイライラする人でもあるだろうから、言われるのは覚悟。

そんな親心をテーマに、今日のネタに続きます。
実にもって無理やりやつなげ方だけど。

息子の高校受験が終わった。結果は来週。
入試前日、息子が、当日付いてきて欲しいようなことを言う。意外も意外。
私の子供時代と同様、昔からひとりでどこでも出かけるヤツである。受験なんて当然ひとりで行くものと思っていた。
すでに1校受けていたがその際も当然ひとりで行かせたし、最初から付いていく気もなかった。
でもまあ、私はパソコン持ってどこでも仕事をするスタイルだから、息子の受ける高校の近所で仕事したっていいのだ。
ノマドワーカー。誰もそんな言葉使わなくなったね。私だって元から使ってないが。

ともかく、ごく気軽なテンションでもって付いていくことにした。まあ、緊張がほぐれてよかったと思う。
最寄駅に着いたら当人、もうここでいいなんて言うのだが、会場のそばに行きたいカフェがあるんだと言って、なだめてくっついていく。
そうしたら受験生、みんな保護者同伴だったのでびっくりしてしまった。なんだ、うちのほうが変わってるんだな。
そうか。すでに受けた1校の際、他の子供はみんな親と一緒だったのだろう。ちょっとは心細かったのかもしれない。

前を、男の子の受験生と、背のちっこいお母さんが並んで歩いていた。
受験生のほうはタッタカタッタカ歩いていくが、歩幅の短いお母さん、付いていくのがやっと。でも、待ってとかそういうことは言わない。
まあ、中学男子なんて、母親とは歩きたくないのが普通。
途中、神社があった。お母さん、速足で懸命に歩きながら瞬時に鳥居を向いて、小さく手を合わせ、そして受験生の息子になおも付いていった。
私も、それ見てああと思い、鳥居にお辞儀だけした。

ちょっと親心にグッと来たのでした。
お母さんは、小さな神社があることは、頭に入れていなかったと思う。たまたま見つけ、そして瞬時に息子のために祈ったのだった。
とっとと先を進む息子に対し、「あんたも拝んだら」なんてことは言わない。たぶん、母の目から見ても息子は平然そうでピリピリしているのだ。うちの子と同様。

会場に着いて、子供をすぐに送り出す。
ずいぶん多くの保護者(もっぱら母親)が、門の前にたたずんでいる。今さらなにをしてるのさと思う。
そこに、通学途中の小学校1年生の女の子がやってきた。
いつも前を通る高校の前に人だかり。なにかなと思ったのか、実に素直な発言。

「なにがあるんですか!?」

守衛さんが、「受験だよ」と答えてあげる。
「じゅけんってなに!?」
「・・・テストだよ」
「てすときらい!」

まあ、それだけなんだけど、ちょっとほっこりしたという話。

受験生と別れる際、母親はウェットだが、父親は軽い。受験生の肩をポンと叩いて送り出す。

息子と別れて、私先ほどの神社に行き、改めてちゃんと拝んできました。
お賽銭はたったの21円だが。
21というのは、七が3つ。喜ぶという字の異体。
柳家㐂三郎、三遊亭楽㐂、春風亭㐂いちに使われる、めでたい字。
といっても、21円入れる風習があるのかどうかは知らない。勝手に財布を見て思いついただけなんで。
神社は小銭の扱いに困ってるって? すみませんね。

以上の話、帰ってから家内にも息子にも話した。家内は「落語みたいだね」と私と同じ感想。
それで、ここに書いているわけです。
息子も、「藪入り」「子別れ」などの人情噺を日ごろから聴いているから、親の愛情のありようまで批判したりはしない。
子供に落語を聴かせておくと、親心は伝わりやすいですよ、たぶん。

まあ、受かってるといいんですがね。
趣味のいろいろある息子だが、高校に行ったら寄席にも通いたいらしい。
一之輔師だって、春日部高校から東武に乗って浅草に出ていたのだ。いいんじゃないの。
噺家になりたいのかどうかは知らない。
なるときは、ムダに厳しい師匠の下には行きませんように。

子別れ/堀の内

作成者: でっち定吉

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