拝鈍亭の橘家圓太郎(上・「黄金餅」)

国立に行ったあと、さらに締め切りやっつけて、また出かけます。
最近なじみの雑司ヶ谷・拝鈍亭。
長講がたっぷり聴ける。
今回は橘家圓太郎師匠。
前座も出さず、ひとりで二席。
先月聴いたばかりの三遊亭遊雀師もそうだが、圓太郎師も寄席のレギュラーメンバーなのに、落語会だとさらに楽しい人だ。

公式サイトによると犬の散歩中に携帯失くしたそうで。この話が出るかなと思ったら出ない。
実にマクラ豊富。
犬の散歩中に階段を飛ばして膝を痛めたという話が二席目に出ていた。そしてドッグランで犬にボールを投げてやったら肩の腱が切れたんだとか。

黄金餅
(仲入り)
締め込み

客は4~50人くらい。
このご時世になかなか盛況である。
冒頭ご挨拶のご住職によると、圓太郎師は四度目の登場だそうで。

時間になるが、出囃子が流れず圓太郎師、深々とお辞儀で登場。圓太郎囃子はどうした。
と思ったら、「出囃子(のCD)忘れてしまいましてね」。
出囃子はないがツカミはばっちり。

こんなに来ていただいて、ちょっとうろたえています。
なにしろ最近、寄席の入りが少ないですから。
こんなご時世、無理にとは言いませんが、寄席にもぜひ足をお運びください。

コロナは怖いですが、もっと怖いのはプーチンですね。
プーチンを「プチン」と変なアクセントで語る圓太郎師。
師のマクラによく登場する小学生の娘さんがそう言ってるのでうつっちゃったんだって。
ただ、寄席にはもっと怖い人がいるんです。今、私の前に出ている鈴々舎馬風師匠です。客、爆笑。
「コロナに罹って筋肉落ちたから、ヒザが痛くてさ」と馬風師のモノマネ。なにも怖いことを言っていないのに、確かに怖い。
今思うと、あの馬風師匠をやっつけたコロナというものはすごいですねだって。

しばらく楽しい話題を続けた後、「下谷の山崎町に西念という坊さんがおりまして」といきなり落語に入る圓太郎師。
黄金餅が出るとはびっくり。
黄金餅という噺、有名ではあるが、まず聴かない。寄席のトリでも出ないし。
私も高座で出くわすのは、実は初めてだ。

しかしこんなの、お寺でやっていいのか?
描かれる木蓮寺の坊主は生臭でめちゃくちゃだし。
「弔いを値切るなんて聞いたことがない。なんなら本浄寺(この会場のお寺)に電話して訊いてみろ」だって。

落語の中でも筆頭のグロ噺。
あんころ餅に小判を詰めて飲み込んだ西念の死体から、これを取り出すという、すごい噺。
死体損壊により金持ちになるという、教訓もなにもない、わけのわからない噺。

人に知られずいかにして小判を取り出すかという、ハウツー落語でもある。
そして「大山詣り」みたいな、事実とウソを二重写しにして、ウソのほうを事実にしてしまう構造もある。

4日前に聴いたばかりの、「らくだ」のレベルよりさらにグロさが上。らくだの、死骸の骨を折って菜漬けの樽に押し込むくだり(これもほぼ出ない)だってかなわない。
昔はこんな噺も喜ばれたろうが、現代では出すシーンがそうそうない。
もちろん、面白い部分が無数にあるのだ。だがグロ部分のマイナスが、大きすぎるのである。
圓太郎師、この難しい噺を掛けるため、用意周到に準備する。

まず、地噺の要素を取り入れる。
地噺というか、脱線を多くするのだ。マクラみたいな脱線で笑いを取りつつ、死体をもてあそぶ噺にあまり真剣に客が迫らないようにする。
たとえば道中付けのあと、かつて三ノ橋に師匠・小朝の家があったと脱線する。
あのあたりに、「麻布絶口釜無村木蓮寺」なんて、実在しないんですよ。
そして一席終える際に、「目黒で商売繁盛したという、ウソに決まってる噺です」。
団子坂奇談とか仔猫みたいな噺なら絶対にウソなのだが、黄金餅だと信じてしまう人だっているだろう。信じたって害はないけど。

そしてクライマックスの、焼き場における死体損壊。
最もグロい場面をどう処理するか。
主人公の金兵衛は、なんとか金を独占したいので、ほとんど発狂している。
発狂しているからこそ、グロなシーンが乗り切れるのである。
死体損壊も、リアルにはやらない。勢いに任せて叩きまくっている。
このキャラクターに、300両持って帰る際の「火焔太鼓」の甚兵衛さんを連想した。圓太郎師の描くキャラは、一段ギアチェンジした人が多い。

こんな数々の工夫でもって、この上なく楽しい噺に改造してくれる。
金が出てきて、客も嬉しくなってしまう。

道中付けをすらすら終え、ここは当然中手が飛ぶところ。
だが圓太郎師、「まだまだ先がありますから」。おや、師も市馬、小せんといった柳家の師匠と同様、あまり中手はお好きでないらしい。

木蓮寺の生臭和尚のエピソードも強烈。金兵衛の上前をはねる酔っぱらい。
アホダラ経の最後は、「あじゃらかもくれんオミクロン。プーーチン」。

50分を超える大長講。
これ一席で終わったって文句のないぐらい楽しかったのだが、仲入りを挟んでもう一席に続きます

 

作成者: でっち定吉

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