拝鈍亭の橘家圓太郎(中・志ん朝のアバンチュール)

しかし黄金餅という噺、まったくもってすごいと再認識。
談志に言わせれば「人間の業の肯定」なのだろうが、別に肯定なんかしてないと思う。ただただ、「そういう噺」である。
主人公金兵衛は、物語冒頭でもって死にゆく坊主・西念に対し非常に親切にしてやっている。この際の金兵衛は、見返りもなにも求めていない。
でも、「人に親切にすると見返りがある」という噺には、やっぱり思えない。親切にしたのは、ストーリー上の、せめてもの免罪符なのだろうか。
それとも、人には二面性があるということか。
圓太郎師はこの、楽しくグロな噺を自己満足で終わらせず、全員脱落させないでゴールに連れていってくれる。
まあ、5%ぐらいは脱落していても不思議はないが、それぐらいならよしとしよう。

「外はこんがり中は生」という難しい注文を出して焼きあがったばかりの死骸を、熱がりながらまさぐっていく狂気の金兵衛のシーンが頭から離れない。
しかも、焼き立てなのでムチャクチャ熱い。
ちなみに、外はウェルダン、中はミディアムレアなんだそうだ。
焼けた死骸は放置して去っていこうというのから、この上ない罰当たり。

一席目も二席目も楽しいマクラと脱線がたっぷりで、しかも伏線を回収したりするので、どのネタがどっちのだったか多少混乱しております。別にいいけど。
一席目では「怖い人」として馬風師を出すが、二席目の本編での脱線で例に出すのは「海老名香葉子」。
「あれは本当に怖いですね」だって。

娘さんの通うジムが会場・本浄寺の近所にあるらしく、つい先日送り迎えをした圓太郎師。
その際、本浄寺の前を何の気なしに通り、この会が5時からだと初めて知ったんだって。もっと早いと思っていたのだと。
おかげで鈴本の昼席休んでしまったのだが、行けたなと圓太郎師。
どんなときでもまずは寄席に行きたがる噺家のサガを手短に語っているところが面白い。
おかみさんに、今日は寄席行かなくていいのと訊かれ、「俺ぐらいになると行きたくないときは行かないんだ」と答える師匠。
この日の昼はベランダで、鉢の植え替え作業をしていたんだそうだ。そのせいか、地黒の圓太郎師、ちょっと日焼けしてるんだって。

二席目は、特に意味もなく八村塁のモノマネが入る。
楽屋でやってたら、二三人マネするようになりましたって。たい平師がここに含まれるのかどうかは知らない。

そして二席目のハイライトは、まずマクラ。
コロナが続き、打ち上げもなく、楽屋入りも直前で、終わったらすぐ出るという状態がずっと続いている。
この高座が終わったら、家に帰らないといけない。
しかしこんな時代が終われば、私にだってアバンチュールのひとつやふたつはありますと圓太郎師。
色っぽい女性が、圓太郎さん、このあとよろしいかしらとくねくねしながら待っているんだそうで。

そんな先輩の話。すぐそこ、護国寺で葬儀をした古今亭志ん朝。
志ん朝が結婚前、父・志ん生の家にまだいたころ。朝太であった時代。
あるとき志ん朝が末広亭の楽屋を出ると、そこに美女が待っている。あなたの大ファンなんですと。
一杯いかがですかという流れとなり、飲んで盛り上がり、そのままベッドイン。

実のところこのノンフィクション小噺のオチは先刻読めていた。どこかで目にした話だったかもしれない。
だが、圓太郎師の話術がなにしろ巧みである。
「ついていたわけです」と一言で状況を語り切る、その持ってきようにノックアウト。

志ん朝はさすが人ができていて、相手に平謝り。私はそちらのほうは全然ダメなんです、あなたを傷つけてしまったら申しわけありませんと詫びた上で退散する。
家に帰り野球を観ている父・志ん生に、遅くなったよと志ん生。
その場でなんとなく着替えたくない気持ちだったが、いつものようにしないと変だ。
仕方なくその場で服を脱いで風呂場に向かうと、「強次」と父が声を掛ける。
「パンツが裏返しだよ」

これは志ん朝師から生前、直接お伺いした話です。
誰にも言うなよとのことでしたが、言ってしまいましたとのこと。

このマクラだけで一席の価値があると思うのである。

本編、「締め込み」に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

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