堀之内寄席5(中・三遊亭遊かり「片棒」)

ヤクルトレディの面接にやってくる、格闘技の達人であり女子プロレス世界チャンピオンのよしえ。本名、のぶこよしえ。
ハーレーにまたがりヤクルトを配達するよしえの青春グラフィティである。そうかな。
父の名は「のぶこのぶお」だそうだ。これは前回出てなかったように思う。名前でいじめられるといけないので、よしえを強く育てたらしい。

初めての配達でお爺ちゃんをビビらせ、反省するよしえ。しかし懸命に仕事に取り組み、劇中で1年、そして3年が経過する。
愛車ハーレーにより、コンビニ強盗を取り押さえるよしえ。
ブルートゥーススピーカーからは、「フラッシュダンスのテーマ」。

バカ落語である。
わりと通っぽい人もいるこの会で出すんだ。でも一門の先輩、鯉八師が出ていたりして、新作がウケる土壌はあるようだ。
二度目の噺で改めて感心する部分が多々。
この作品は、古典落語と断絶されている。
完全に新作落語の言語で書かれた物語なのである。登場人物の所作、行動原理、感性などすべて独自。
昨日ちょうど、新作落語について書いたところ。私の好きな新作落語の多くには古典の香りが漂う。
いっぽう、古典の香りがまったくしないよくできた新作もあるのである。名を挙げた瀧川鯉八、林家きく麿といった師匠。
そういう作品、落語として成り立たせるハードルは非常に高くなる。共通認識である古典落語の枠組みを使わず、一から構築するすごさ。
この困難なタスクを、見事達成している昇輔さん。
その高座は極めて自然。
三遊亭円丈師がご存命だったら、才能を激賞したに違いない。

古典落語との断絶という作り方、少々意外にも思う。
かつて昇輔さんから、見事な古典落語「万病円」を聴いているからだ。
寄席で出していたわけで、今後も古典をずっとやるのだろう、きっと。
古典落語が上手いのにも関わらず、新作を古典と異なる言語で語れた人は、円丈・喬太郎ぐらいではないかな。
白鳥師ですら、意外なぐらい古典落語の香りがする。

退場した昇輔さん、メクリを廊下から出し去っていった。

後の二人は二ツ目だが、年齢は高め。
まず「私の青空」の出囃子に乗って三遊亭遊かりさん。先月も東村山で聴いたばかり。

新作落語ってすごいですね。私も自分で作ったりしますが、人の新作を聴くのは面白いですと遊かりさん。

遊かりさんの新作落語は聴いたことがないが、古典落語がやや新作よりである。
先月聴いたちりとてちんは改作。

年齢、小池百合子などかって聴いたことのあるマクラを組み合わせる。
初めて聴いた話は、噺家になる前の仕事について。
池袋東武(当初、Tデパートと言っていたのだが、ポロっと名を出してしまう)に小さな日本酒バーがあり、そこで試飲販売をしていたという。
宮治アニさんも化粧品の販売員だったのが有名でしたが、私はそこまでのすごいウデじゃありませんけども。

マクラの内容がどうではなくて、客を引き込む話術がすばらしい。師匠・遊雀の影響も強く感じる。
遊かりさんは、二ツ目のステージをどんどんステップアップしている。
笑点特大号の女流大喜利で鍛えたのだろう。なかなかしつこいが、しつこすぎる手前でやめるその語り口。
初めてこの人を聴いた2018年からすでに上手かったのだが、まだ語りが形式ばっていたような記憶がある。
4年経ち、極めてナチュラルに進化している。
まだ真打になるまで4年ぐらいあるが、この間に遊かりさんの名が、賞レースで出てくることを確信した。
ご本人も、テレビで鍛えた話術を本業で披露したいでしょう、きっと。

もっともこの日の「片棒」が格別よかったかというと、決してそうでもない。
今ひとつだった高座に、いたく感心させられた、そんな珍しい経験である。
言ってしまえばマクラだってそれほど面白かったわけでもないのだが。でも、高座に楽しく、華やかな雰囲気を漂わせられるだけですごいのだ。

片棒は、なんといっても次男の妄想でとことん盛り上がる噺。それ以外の方法論を見出したことはない。
親父の葬儀の場で山車の人形を出し、神輿を出し、花火を出して大盛り上がりして、親父がツッコんで弾ける噺。
そこまで弾けてもなかったし、親父のからくり人形もごく軽い。
こだわりがあるのだろうけど。

その代わり、長男のくだりは少々いじる。
用意するお重は三段重ねで和洋中。銀座久兵衛にマキシムドパリ、陳健一と固有名詞が並ぶ。
包む風呂敷はハナエモリ。

女流大喜利の同僚である春風亭一花さんと同様、男の落語を軽々語れる、貴重な人。
現在人気の桂二葉さんとの共通項もある。

現在続きものを中断してしまっているが、サゲの前の「いただき」(仮称)を考えるうえで、片棒は小言幸兵衛などと並び最適な噺である。それも再確認した。
いずれまた書くつもりだ。

遊かりさんの演出がどうかではなくて、必ず入る片棒のクスグリだけひとつ気になる。
「(棺桶がわりに菜漬けの樽を使って)親こうこう」「臭いものに蓋」って、必要なのかね。ウケてるの見たことないんだけど。
抜く人がいたら、さらに言うなら三男のくだり全体を、できるだけ詰めてやる人がいたらそれだけで私は賞賛しますがね。
「いただき」をすでに終えているので、スピーディにサゲに持っていく必要がある。クスグリが障るのである。

続きます。

 
 

片棒/妾馬

作成者: でっち定吉

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