堀之内寄席のトリは春風亭柳若さん。遊かりさんより年上の、50歳。
5月からは字を替えて、柳雀で真打だ。
若々しさのかけらもない人だが、落語は上手い。瀧川一門の中でも本格派であって、妙にベテランっぽい。
2018年、最初に来た堀之内寄席にも顔付けされていた。
ずっと気になっている人なのだが、私は2019年以来である。連雀亭にも出ているのに意外なぐらい開いたものだ。
今日長講を聴きにきたので許してもらおう。
5月にいよいよ真打昇進が決まりましたと挨拶し、盛大な拍手をもらう。
やっと真打なんですが、私は左足を骨折しまして。
熱海で土砂崩れがあった日です。
熱海駅が混乱していて、駅に行けないので裏道を通ったら、舗装されていない道で滑ってしまいまして。
右足を滑らせたとき、左足で突っ張ってしまいまして。そのまま転んでいたらなんてことはなかったんでしょうけど。
動けなくなって、救急病院に運ばれました。
全然知りませんでした。
もうちょっと骨折が遅かったら真打の披露目が台なしになっていたわけで、これも幸運でしたと。
同室の患者に、オヤジギャグ好きの人がいまして。
毎朝看護師さんに名前を呼ばれるたび「いません」って言うんです。
この人に、「骨がくっつく前に看護師とくっついたりしてな」とか余計な軽口を叩かれるのがストレスで。
治って寄席に帰ってきたら、これとまったく同じこと言う噺家がひとりいまして。宮治アニさんなんですけど。
師匠・鯉昇には、入院して一門会に出られないので電話で報告して謝りました。そうしたら「ご愁傷さま」と言われました。
なんでも、「救急病院というのは、患者がすぐに入れる病院で、つまり流行っていない病院だ。そんなところに入院したので、ご愁傷さま」だそうで。
披露目なので協会から大量の前売券を配られています。500円割引の3,000円です。
今日も持ってきてますのでご興味のある方はお声がけを。
これは寄席では売ってないんです。私からしか買えません。
この3館共通前売券なんですが、入場後に協会から請求されて、私が支払う仕組みになってます。
ですから、実は前売券持っている人が入場しないと、丸ごと私が儲かる不思議な仕組みになっています。まあ、ご祝儀代わりに。
本編は大ネタ「御神酒徳利」。師匠由来だろう。
ちょっと驚いてしまった。
しばしば聴く御神酒徳利は、「占い八百屋」と別題のつくもの。
出入りの八百屋が、女中に勝手に出禁にされる嫌がらせを受け、その腹いせに徳利を隠してしまうという噺。
しかし柳若さんの場合、徳利を水瓶に隠すのは、お店の二番番頭。舞台は馬喰町の刈豆屋という旅籠。
番頭は悪気などまったくない。抜け裏なのにご拝領の徳利が無造作に置かれていて、よかれと思って不用心だから隠し、そしてそのことを忘れてしまうのだ。
Wikipediaの「御神酒徳利」にはこのバージョンのあらすじが書かれている。
圓生由来のこのバージョンを柳若さんが手掛けているのはいいのだが、鯉昇師もこれだったっけと。
後で調べたらそうでした。音源持ってた気がするが。
師匠とは、同じ展開の同じ噺を語っていても、雰囲気は違う。ただ、噺そのもので遊んでいる感はよく似ている。
自分の撒いた種でお店は大騒ぎ。旦那も寝てしまう。
番頭は家に帰ってから、自分で水瓶の水を汲んで全部思い出す。
物忘れについての描かれ方が妙にリアル。粗忽ではなく、誰にでも本当のうっかりはあるのだ。
占い八百屋だと、結局八百屋は最後失踪してしまう。
だがこの番頭、お店で信用を得たのを皮切りに、鴻池の支配人に連れられ神奈川宿で失せものを見つけ、そして大坂でも娘のぶらぶら病を治してしまう。
実にいい加減な、テキトーな噺。落語らしくていいよなあ。
教訓もなにもない。大坂でお稲荷さんに助けてもらうのだって、別に信心のおかげとかでない。
番頭のちょっとした知恵のおかげで、神奈川宿の台風で壊れた稲荷が復興した、それを神さまが勝手に感謝してくれただけなのだ。
お店で失せものを見つけ信用を得た番頭だが、別に仕事のほうで信用が上がったわけではない。
しばらく留守にして全然構わないのである。二番番頭とはいえ、別にいなくていい人なのだ。
ただただ、自分の失策を占いで取り返したというだけ。
それに、この番頭が占いを当てられるのは人生で三度だけだと、設定で振ってしまっている。
この旅で三度使ってしまったので、戻ってきた番頭はもう、ただの人。
こういう不思議な噺をじっくり聴かせる柳若さん、実に面白い存在である。
今回の披露目は二人真打だから、20日間(広小路や日本橋を除く)たっぷりやるわけだ。どこかで必ず御神酒徳利も出るのではないでしょうか。
私は披露目に行く場合、例によってまず国立でしょうかね。東京かわら版で1,800円。仲入り後なら1,400円。
数の多い一門から勢揃いになって面白そう。
今日の堀之内寄席も大満足。
会の構成でいうと、毎週水曜日の巣鴨スタジオフォー「巣ごもり寄席」によく似ている。
あちらは芸協だけではないが、やはり3人出て長講も聴ける。
だが堀之内寄席、お寺ならではの重厚なムードが漂い、なんとも味がある。
お寺で会があるのは平和の象徴だ。
成金から、カデンツァ、ルート9の時代に移っても、楽しませてもらえるだろう。
また寄せていただきます。
楽しく拝見してます。
「前売券持っている人が入場しないと、丸ごと私が儲かる。」という話は春風亭昇也さんも仙台花座の独演会でされてました。
会終了後に出口で前売り券を販売していた昇也さんに、お客様が「2枚くれ!祝儀だ!いかねぇよ」と前売り券を買って、昇也さんが「ありがとうございます!でもいかねぇよでありがとうも変ですねw」と変な盛り上がりが。こう言う何気ない会話が小さい会の楽しみだなと。
いいですね。
オレがあんたを支えてやってるぜという。
現実世界で仕事のないツイッター噺家も、誰かスポンサーいるのかしらなんて。
そういえば、昔笑点特大号の観覧チケットくださった昔昔亭喜太郎さんに、私もいい加減お礼しなきゃ。