落語協会謝楽祭

日本一長い謝楽祭レポをお届けします。

9月9日は落語協会の謝楽祭。今年初めて行ってきました。会場は湯島天満宮。
いや、昨年も行こうかなと思ったのだけど、結構寄席にも行っていたし別にいいかなと。
こんな楽しいお祭りだとは、行って初めてわかったことでした。
まさか終日会場にいるなんて、自分でも予想外でびっくりです。
思い起こしてしみじみしております。

初めて訪れたこのお祭りの目的を、協会の立場から一言で言い切る。
「年に一度のヨイショ総決算」。
お客に対するヨイショに常日頃から余念のない噺家さんたちが、集団で堂々とヨイショする祭りなのである。営業ですね。
来年もヨイショされに行きたいな。
私ももうちょっと、噺家さんのサービス精神を見習おうと思います。

家族がなかなか起きてこない。我慢できずに起こしてから出かけると、オープン直前になった。
場内大混雑だが、至る所芸人さんだらけでもう興奮。
謝楽祭寄席が聴きたかった。ちなみに一部の主任が柳家小満ん師で、二部が入船亭扇遊師。
特に扇遊師が聴きたかったのだが、一部二部はすでに完売。
幸い午後の第三部にまだ空席があった。チケットを販売しているのは、柳家はん治師と古今亭志ん弥師。
買えた第三部は今秋昇進の二ツ目の会だ。まあ、好きな駒次さんの出る、こちらでも全然OKです。
料金は千円なので、黒門亭の半分の時間で、値段が一緒ということ。いやらしい計算。
チケットは、黒門亭と仕様が一緒だ。

市馬会長、正蔵副会長、菊之丞実行委員長等の揃った開会宣言を裏側から見る。場内は大混雑。
開会、閉会ともに「これも全部アタシのおかげです」と噺家定番ギャグで受ける菊之丞師。
午前中はしばらく屋台を見て廻ろうと思ったら、先ほどチケットを買ったのと同じ場所(会場)で、梅香殿二ツ目寄席の販売が開始。
新真打になる、古今亭ちよりんさんが案内をしていました。
午前中で終わるので、謝楽祭寄席と被らないこちらを先に聴きます。
メンバーは「内緒です」ということだが、会場である二階から行列を見降ろす春風亭ぴっかり☆さんがチラッと見えた。
ちなみにこの梅香殿に一番近い屋台では、朝から橘家文蔵師が睨みを利かせていました。本物のソッチ系の方よりいかつい。

【梅香殿二ツ目寄席・第一部】
天歌  / 甲子園の土
喬の字 / 久方の
ぴっかり☆/こうもり
辰乃助 / マオカラー

この二ツ目の会は、チケット前売りではないので会場の手前で支払う。こちらは500円で1時間なので、神田連雀亭ワンコイン寄席と一緒でリーズナブルだが、1時間半の早朝寄席には負ける。
金の話ばっかりうるさい? すみません。
柳家喬の字さんと、春風亭ぴっかりさんがモギリ。この二人は出るに違いない。
ちなみに他の二人は、後で読んだのだけど自分のブログやツイッターに、二ツ目寄席の一部に出るって書いてた。
二部に出たらしい入船亭遊京さんもだ。
ダメじゃん。三人は天然なのかな?

お客を30分待たせたら悪いということで、本番前に喬の字さんが出てきて前説。
サービス精神旺盛な人で、たっぷり笑わせてもらいました。
まずどこから来ました? と喬の字さん、上尾や新座から来た人に向かって「ド田舎ですね」。
というご本人は岩槻である。
さらに、落語を普段どのくらい聴いているのかリサーチ。
それから「柳家さん喬知らないっていう人?」と質問し、驚いたことに数人の手が上がる。
「本人に、売れてねえなって言っておきます」だって。紫綬褒章しか取ってない噺家ですと。
それから権太楼師などいろいろ名前出していたが、「桂宮治知らない人?」と訊いて、「知らなくていいです」。
落語協会の二ツ目さんは、よく宮治さんをネタにする印象がある。
「北は北千住から南は南千住まで」というギャグを振り、「これで笑っている人は寄席には行っていないですね。便利なんで、全国どこへ行っても、東西南北の地名をリサーチして使います」
確かに、たとえば大阪だったら「北は北千里から南は南千里まで」なんて言うね。

たっぷり笑わせた前説も、さすがに終盤息が上がり、寄席が数分早めに始まる。

三遊亭天歌「甲子園の土」

トップバッターは歌之介師の弟子、三遊亭天歌さん。
故郷宮崎と、屋台で売ってるチキン南蛮のマクラ。
とても楽しい人なのだが、この人の新作落語、過去に聴いてもうひとつ波長が合ったことがない。
だが、今回の「甲子園の土」はとても面白かった。話の作り方が、春風亭百栄師っぽい。常識って何だろうと問いかける冷静な視点がある。
甲子園の準決勝で負けた秋田代表の投手、マスコミに囲まれる。
悔しがり、2年生なのでまた来年来ますと非常にそれらしいインタビューの受け答えをするが、なにかが足りなくて、マスコミも観客も、TV中継までみんなそれを待っている。
それは、この高校の生徒が誰一人、土を持って帰ろうとしないところ。
押し問答の末、最終的に演出感たっぷりで土を持って帰る生徒。
世間の常識とのズレを持つ高校生が、意外とまともだというところに風刺も効いている。

柳家喬の字「久方の」

柳家喬の字さんについては、先日神田連雀亭で「ワロタノール」という楽しい新作を聴いた。
先の天歌さんについて、「こんなところでサラ口から新作しやがって、私はちゃんと古典をしますよ」。
まあ、噺家さんがこういうときはだいたいフリである。
天歌さんについてさらに、浴衣でやりやがってと。私はちゃんと着物。ただ、浴衣忘れましたとのこと。
「知ったかぶりは困りますね」と言っておいて、熊さんが隠居を訪ねてくるので、前フリに関わらず、普通に「やかん」でもやるのかと一瞬思う。
これが、「千早ふる」のパロディだった。「久方の」。
紀友則の「ひさかたの光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ」の意味を教えてくれという熊さん。
知ったかぶりの大家は、千早ふると同様、知らないとは言えない。「光」とは何だと思うと熊さんに振り、そこから突破口を見出す。
この光とは、春風亭ぴっかりのことなのだそうだ(濁りを打って読む)。
二ツ目昇進後、大阪で独演会を開催するなど絶頂であったぴっかり、その後容色も衰え、次々後輩が育ったために売れなくなり、色物として復活している。
ここから、鈴本演芸場で10日間芝居を打つことになった桂春團治師匠のヒザに使ってもらうぴっかり。そんな芝居ないけど。
「散るらむ」の「らむ」までしっかり使い切った見事なパロディでした。

この噺の創作レベルは、一見なんてことなさそうだが非常に高いものだ。
なにしろ、百人一首ネタの落語なんて昔からたくさんあるのである。崇徳院もそうだが、千早ふると同様、ご隠居がこじつけ解釈をする落語だって「筑波嶺の・・・」など数種類ある。
つまらないものは消えていき、同種の中では一番面白い千早ふるだけが現代に残っているのだ。
そういう歴史を踏まえたとき、新たに百人一首ものを作るのは実に大変だということがよくわかる。

春風亭ぴっかり☆「こうもり」

ネタにされたぴっかりさんが登場し、「あたしまだ色物になってないですからね」。
マクラは兄弟子、「エロエロ大魔王」と呼んでいる、五明楼玉の輔師の話。
玉の輔師には、日ごろからセクハラの限りを受けている。玉の輔師に言わせれば、「妹弟子は触ってもいい」らしい。
女流の後輩噺家も増えた。今までも女流はいて、その先輩たちには申しわけないのだが、後輩にはびっくりするほど綺麗な子が入ってくる。
今話題の、金原亭乃ゝ香さんもそうだが、さらに下、世之介師のところにはなんと中学3年生の見習いが入ってきた。
その子が楽屋に手伝いに来ると知り、さっそく彼女に下ネタをぶつけるエロエロ大魔王。必死で守るぴっかり。
恥じらう中学生に、忘れていたものを思い出したぴっかりさん。
あくまでもネタですから、玉の輔師に「エロエロ大魔王」なんて声を掛けたりしないでください。喜ばれるかもしれないけど。
玉の輔師は、他の噺家さんからネタにされることの多い人なのは確か。
ぴっかりさんも、「私はちゃんとした古典を」と振っておいて新作。小朝師譲りの「こうもり」だ。
助けた吸血コウモリが、恩返しにやって来て居酒屋で働く。コウモリのあおいちゃん、可愛いので大人気。
可愛いのだが、血が大好き。
NHK演芸図鑑で出していたものとほぼ一緒だが、ぴっかりさんのかわいらしさが存分に発揮される楽しい噺でした。

入舟辰乃助「マオカラー」

二ツ目寄席一部のトリは、それまでまったく姿を見かけなかった入舟辰乃助さん。扇辰師の二番弟子。今日のメンバーではいちばんキャリアが浅い。
姿を見かけなかったのは、直前に鈴本の早朝寄席に出ていたからだ。
この日は早朝寄席のことは完全に忘れていたが、そちらを聴いてから謝楽祭という人もいたでしょう。
早朝寄席、来月からしばらく休止らしく残念。
辰乃助さん、落語の稽古は、歩きながらしていることが多い。電車の中でもぶつぶつやっている。
この稽古法は、兄弟子の入船亭小辰さん譲り。
目黒の碑文谷公園でいつもぶつぶつ歩きながら稽古をしていたその小辰さん、碑文谷公園の池で死体が上がった際、不審者と疑われて警察がやってきたそうである。
辰乃助さんも、「ちゃんと古典で締めます」と言って「十徳」のパロディ「マオカラー」。へえ、こんなのをやる人なんだと思う。
メジャーな千早ふると違って、「十徳」は、日ごろ寄席に通っている人でもあまり知らないんじゃないかと思う。落語会ではなおさら出ないだろう。
持ち時間の短い末広亭向きなので、そちらでは掛かっているかもしれない。
私は前日たまたま、録画コレクションの中から三遊亭好楽師の十徳を聴いていた。あと、三遊亭遊雀師の浅草の録画も持っている。
パロディ向きかどうかはわからないが、原典を知らなくても楽しい噺。
十徳とは、隠居が着ていた変わった着物のことだが、このパロディでは、ヤクザの兄貴分が、朝のカチコミのときに着ていた学ランみたいな服がテーマ。
ヤクザ落語ってありますよね。喬太郎師の「極道のつる」とか。
着ている服は「マオカラー」というのだそうだ(本当)。服部栄養専門学校の服部幸應先生や、Mr.マリックが着ているのがそれである。
本家の十徳では、十徳のいわれ(適当)を教わる八っつぁんが、一緒に両国橋など橋の名前のいわれ(本当)も教わる。
この改作のほうでは、「マオカラー」のいわれが「麻だアサダでマオカラー」という嘘で、「カコナール」「ノーシン」の名前の由来と、「バファリン」の成分のほうは本当。
古典の内容に忠実である。「アサダ二世?」なんてクスグリも入ってたが。
本家十徳と同様、アニイから聴いた噺をやってみたい若い衆が失敗するパターン。
「バファリンの半分はノーシンでできている」とか混ざってしまう。

1時間の会だが、実に密度の濃い、楽しいものでした。
結局、全員新作。
ここまで噺家さんが遊んでいる会には、なかなかお目に掛かれない。やはり祭りの雰囲気がそうさせるのでしょう。
落語は普段聴いてるから、それより噺家さんの余芸をステージで観たいというのもごもっとも。だが、祭の中の落語会にはちゃんと意味がある。
誰が出るかわからないといっても、外れなどなし。

***

二ツ目寄席がはねて屋台に戻ると、お昼どきで大混雑。実行委員長、菊之丞師匠の「えぼえぼ坊主」でたこ焼きいただこうと思っていたが、断念して外で食事をしてから会場に戻る。

小ゑん師匠のいる屋台「黒門亭」で、CDを購入する。3枚買うと手拭いがいただけるのだ。

この手拭い、銀河鉄道をデザインした見事なもので、前から欲しかったのです。
小ゑん師匠、丁寧に3枚のCDにサインをしてくださる。
そして、しっかり私の顔を見て「いつもありがとうございます」。
昨年はずいぶん聴いた小ゑん師匠だが、今年についてはややペースが遅い。それでも覚えていただけてるとは嬉しい限り。

小ゑん師に対し、「私も今年の新作落語台本募集に二作応募しましてねえ、師匠もうお読みいただけましたか? いかがでした?」なんてことは、口が裂けても言えない。
ツイッターによると、応募作品すべて読み終えたそうだ。
家内が写真を撮らせていただきました。

ジャズ好きの私と家内には、ジャケットも嬉しい。

今度は、社務所で謝楽祭寄席である。
開演前に並んでいると、いろいろな噺家さんが通り、見ているだけで面白い。
「エロエロ大魔王」の兄弟子である橘家圓太郎師匠が社務所から出てきて、ご贔屓に挨拶していた。なんだかトライアスロンの話をしていた。
トライアスリートの圓太郎師匠、東京マラソンを完走し、その後寄席に行って落語を一席やったという強者。
圓太郎師匠、ご贔屓に挨拶して終わりではなく、立ち話を聴いている我々にもみなさんようこそと挨拶をして、一言笑わせてから立ち去る。実に楽しい師匠。
喬太郎師も通る。この人は、高座にいないときは本当にオーラを出さない人で、道ですれ違ってもきっとわからないと思う。
芸人には珍しいと思うけど、ご本人、かなり意識してそうしているのではなかろうか。
他にも、正朝師に手を引かれた一朝師が通る。正朝師声を掛けられ、「兄弟子の介護してんの」。
あと、BSのバカリズムの番組にゲストで出ていた東京かわら版の代表の人も通る。

二部の時間が押したようでしばらく待たされた。
モギリははん治師。チケット売って、落語もやって(いつもの「妻の旅行」)、もぎって忙しい。

【謝楽祭寄席・第三部】(新真打5人の会)
たこ平 ⇒ たこ蔵 / 狸札
ちよりん ⇒ 駒子 / 新浮世床
花ん謝 ⇒ 勧之助 / 権助提灯
駒次 ⇒ 駒治   / おばちゃん風景
さん若 ⇒ 小平太 / 片棒

真打昇進後の名前も書いてみました。
高座に太鼓が二基置かれる。なんと、二番太鼓を市馬会長、正蔵副会長が客の目の前で務めるという趣向。
こういうところに落語協会の、「壮大なヨイショ」を感じるわけです。

林家たこ平「狸札」

謝楽祭寄席のメクリはない。どういう順番で出るかは私も知らないと、これは前説の夢月亭清麿師。
トップバッターはたこ平さん。昇進後は師匠・正蔵に合わせ改名して「たこ蔵」。
名乗りもせず、ぶっきらぼうに噺に入る。いきなりたぬきが戸を叩いて「ショウゾウデス」。
ふざけているのはここだけで、あとは札が1万円札であること以外は普通の狸札。短め。
しかし、たぬきが札に化ける場面で懐に手を入れ、ガサゴソしていたかと思うと「手拭い忘れちゃった」。場内大爆笑。
師匠がいたんで緊張して、悪い予感がしたんだって。
狸札は、数ある古典落語の中でも手拭い使用頻度の極めて高い噺。忘れたらもうどうにもならない。
ここでなんと、お客から手拭いが投げ入れられ、それを使って噺を続けるたこ平さん。
ただし、差し入れの手拭いが古いだけに、手の切れるような札ではなく、使い込んだ札になってしまった。
こういうところが一番ウケるというのはどうなんだろうとは思うけど、思わぬハプニングが面白かった。

この後の4人は、みんなマクラをしっかり振り、そこそこ長い噺をやっていた。
終演時間も15分オーバー。
たこ平さんが下りた後、なんと柳家喬太郎師が座布団を返しにくる。
客のほうは見ず、楽屋を向いて大声で「ご苦労様です」。

古今亭ちよりん「新浮世床」

大盛り上がりの中ちよりんさん登場。この人も、締めの住吉踊りまで朝から随分と姿を見かけた。
ちよりんさん、素人時代、喬太郎師が講師の新作落語教室に通っていたそうで、「こんな日が来るとは」と感慨深げ。
この人は、神田連雀亭で一度聴いただけ。その際、かなり楽しいマクラと、本編に入ってからの失速の対比が大きすぎて、それほど好印象はない。
だが、今日はよかったです。子供がいるのにちょいエロ噺だけど、好きになりました。
一般的には女性がエロ噺をやって得することはない気もするけど、この人ならたぶん大丈夫だろう。
浮世床の、半公の夢のくだりを、健康ランドで寝ている婆さんに移し替えた新作。婆さんの描写がとても楽しい。
パロディなのだが、パロディであることがバレてしまうと、夢オチもバレてしまう点が難しい。でも落語ファンに聴かせる以上、ある程度バレていたほうが楽しい。
まあ、古典落語だと思えばいいのだ。ああ、やっぱり浮世床だったという予定調和の楽しさ。

柳家花ん謝「権助提灯」

柳家花ん謝さんは、私のときは普通に前座の寿伴さんが高座を返したので不満だと。
この後、「鉄道バカ」と「釣りバカ」が出ますとのこと。
私は最近、すっかりこの人のファンになっている。演目は、私的には大変意外な「権助提灯」。
へえ、一見まったくニンになさそうな飯炊きの権助が、花ん謝さん非常に上手いのだ。感心しきり。
この噺だと、花ん謝さんのようなシュッとした(関西のおばちゃん的表現)噺家さんの場合、おかみさんとお妾さんにハイライトを当てそうな気がする。たとえば、古今亭文菊師のものなどそんな感じだろう。
だが花ん謝さん、徹底して権助を攻める。一見シュッとしていてもさすが柳家。
徹底的に弾けた権助が爆笑を呼ぶ大傑作でした。
昇進後は、柳家勧之助という初代だが立派な名前。

噺のほうは見事なデキで大満足したけど、この後屋台で花ん謝さん、同期の桂三木助師とずっと話し込んで、客を招き入れもしていなかった。
いけませんな、壮大なヨイショ大会なのにさ。

古今亭駒次「おばちゃん風景」

そして、花ん謝さんに鉄道バカと呼ばれた駒次さん。
春に東京都水道歴史館で無料の落語を聴いた際、質問コーナーを作った駒次さんは、昇進後の改名についても、どこの師匠に移籍するのかも決まっていないと語っていた。
実は私が質問したんですが。
その後、改名については字だけ替えて「駒治」になると伝わってきたが、志ん橋門下に移ったことについては、今月号の東京かわら版で初めて知った。
志ん朝一門は、総領の先代志ん五が早世したこともあり、二番弟子の志ん橋師が随分と預かり弟子を引き受けていて、その数は生え抜き弟子よりも多くなっている。人徳があるのだろう。
志ん橋門下に移って間がない駒次さん、まだ師匠における、アウトセーフの基準が確立していない。
襲名パーティの挨拶文を考えるにあたり、この門下では堅苦しい文章は書かない。自分で考えればいいのだと。
そこで、もっとも不採用になりやすいものから提出し、アウトセーフの基準を確かめようとする駒次さん。
「まいどご乗車ありがとうございます」で始まる文言を考えたところ、志ん橋師が面白がって一発OK。
さらに悪ノリで、末尾に「駆け込み乗車はおやめください」と書けと指示されたが、おかみさんに反対された。
パーティは京王プラザでおこなった。テーブルの名前を決める際に、京王だからというので、駅名とする。
主賓の座るテーブルの名称は新宿。このアイディアを考えた志ん橋師は非常に満足げで、「新宿は京王の本社だから主賓じゃなくちゃな」。
弟子は決して師匠に言い返したりはしないのだが、このときだけは反論する駒次さん。「師匠、京王の本社は聖蹟桜ヶ丘です!」
あと、パーティー後に弟弟子志ん吉さんの希望でフーターズに行った話がいちばん面白かったが、すぐこの先、昇進披露のマクラで出そうなネタを逐一書くのは避けます。わが家も行くつもりで、たぶんまた聴くだろう。
今だけの旬のマクラが、実にハイレベル。駒次さんのこういうところが好きでたまらないのである。

古今亭駒次さん、爆笑マクラを終え本編に。ローカル線のボックスシートに座ったところ、残り3席をやかましいおばさん団体に占領されてしまう噺。
おばさんたちの駅弁につい腹を鳴らしてしまう主人公、おばさんたちにもてなしを受けたのはいいが、やがて喧嘩になりボックスから追い出される。
初めて聴くが、「おばちゃん風景」というらしい。
駒次さん、「ガールトーク」もそうなのだが、ただの鉄道バカではもちろんなく、実はおばさん描写が極めて巧みな人です。
「おばちゃん風景」も、鉄道ネタというよりおばさん落語。
旅のおばさんたち、三人それぞれ全然違う話をしているのに会話が成立しているところがすごい。
そんなにおばさん噺をたくさん持っているわけじゃないと思うが、おばさん落語界(そんな界があったかな)の第一人者、三遊亭白鳥師もきっと驚くおばさん描写だと思う。
本編中に仕込みを作っておいての綺麗なサゲまで見事な一席でした。

新真打駒治師匠、提案ですが「鉄道落語会」とともにもう一本の柱として、白鳥師と一緒に「おばさん落語会」をやったらいかがでしょうか?
第1回のゲストは、上方から桂あやめ師匠と、色物に阿佐ヶ谷姉妹で。

柳家さん若「片棒」

清麿師匠が高座返しに出てきて、トリがさん若さん。
昇進後は小平太。この名前気に入っていたのだが、さん若さん、思わぬ問題を発見する。
コヘイタの中には、タコヘイが含まれているのだと。
さん若さん、軽くやりますと言っておきながら、時間をたっぷり必要とする片棒へ。
さん若さんを聴くのは久しぶりなのだが、この人が一門ではいちばん師匠・さん喬に似ている。声質は違うが、間がそっくり。
というか、似てない弟子があまりにも多過ぎるのであろうか?
これだけ師匠に似ているなら、さん喬師は呼べないので代わりに小平太を呼んでおこうという需要もあるのではなかろうか。
真打に昇進するなら師匠から離れることも必要なのだろうが、このままでもしばらくよさそうに思う。
さん喬師の片棒を聴いた覚えはないけど、さん若さんの裏にシンクロして、たぶんこう語るだろうという師匠の声が聴こえてきて、なかなか楽しい。

ひとつ残念なことに会場の前部、桟敷席に座っていたおばちゃんが、さん若さんのご贔屓なのか知らないがここでなんだか壊れてしまい、やたら変な笑い声を上げていた。
家内と息子は非常に気に障ったそうだ。
基本的には落語聴いて、大いに笑っていいのだけど、笑い声の質には気を付けましょう。他の客もいます。

この日は午前午後合わせ、前途有望な二ツ目計9人の噺を聴いて、大満足です。
謝楽祭に他団体の人も来てるんじゃないかなと思ったのだが、場内で発見したのは春風亭昇也さんだけ。サインを集めるファンに囲まれてました。ご本人はツイッターで報告。
瀧川鯉朝師もいらしていたらしい。

私は、噺家さんと気の利いたトークもしてみたいと常日頃思ってはいるのだが、なかなかできない。
だが今日は、ホッピーを売っている前座の橘家門朗さんにちょっと落語のことを訊いてみた。
このブログにも先日書いた、道灌の前に振る大変珍しい「四天王」のことである。あれは文蔵師匠がやるのかと訊いてみたら、「そうです。たぶんうちの師匠以外にはやらないと思います」とのことでした。
その会話のどこが気が利いてるのかって・・・?

あと、菊之丞夫人の藤井彩子アナがたこ焼きを焼いているので、買う際に「菊之丞師匠はご不在ですか」と訊いてみた。見りゃわかるけどさ。
そうしたら、大事なお客だと勘違いしていただいたのでしょう。その後、門朗さんからホッピー買って、文蔵師匠の煮込みが汁だけ残ったというので、タダでいただいて(旨かった!)すすっていた。そこへ藤井アナわざわざ「菊之丞帰ってきました」とお声掛けて下さった。
すみません、大事な客ではなく、一ファンに過ぎませんので。
NHKのアナだからなのか、噺家のおかみさんだからなのか、その両方なのか、お気遣いには頭が下がりますね。
ちなみにたこ焼き買った際には、「先日師匠から、奥さんのマクラを聴きました」と言ってみた。
これまた、気が利いている会話かどうかはわからないけど。

菊之丞師のたこ焼きの向かいは金原亭世之介師のやきとり屋台で、ぴっかりさんのマクラにも登場した中学生の子がいた。香のんさんというそうだ。
そしてもうひとり、乃ゝ香さんとは違うすごい美人がいる。名札は「手伝い」。
いったい誰だろうと思っていたのだが、弟子の杏寿さんという人だそうだ。この人も見習いで、元女優らしい。
さすが世之介師、美人の弟子ばかり集めてハーレムを作ろうとしているらしい。多くのおじさん落語ファンが追っかけをしそうだ。
ちなみに、この近所でキャンディーズの衣装をしている林家つる子さん、間近で見ると意外なくらい美人で驚いた。上手くいけば落語界より、芸能界のほうで先に売れそうな個性に思う。
朝の文蔵師は、午後は百栄師に替わっていた。やはり人気。

住吉踊り

最後に住吉踊りを楽しむ。志ん朝の遺産だから、古今亭の人がメイン。
寄席では観たことがない。
女流も多く、華やか。男性では、菊春師など達者ですね。
それにしても、立花家橘之助師匠は実に綺麗で、華があり、踊りが美しい。
中には、この人誰だっけ? という顔もある。その人が踊りの最中に扇子投げ分けの芸を見せる。あ、鏡味仙三郎社中の若手だ。
後で調べたら仙成さんである。

閉会の挨拶はステージで。喬太郎師が意味なく顔を覗かせていた。
正蔵副会長(挨拶噛んだ)の三本締め。

たい平師や喬太郎師など、寄席には顔付けされておらず一日会場にいて立派なものだ。たい平師匠は、終日座布団の被り物。
顔付けされていないのは、たぶん休席届を出しているのだ。たぶん、この後休暇では?
日曜だから地方の仕事にだって入れるのに、理事としての責任であえて断っているのだと思われる。
売れてる人たちこそ、ヨイショ総決算の価値をよく知っているのだ。
正蔵師など大変で、開会のあと、すぐ浅草で出番。それから会場に戻り、太鼓を叩いてから今度は鈴本。
菊之丞師も、夜は鈴本から浅草のトリ。
市馬会長も、夜は浅草から鈴本のトリだ。
一之輔師は午後から鈴本の後、町屋で落語会があった。朝のラジオによると午前中は会場にいたらしい。わが家は二ツ目の会にいたのですれ違い。
小ゑん師のツイッターによると、鈴本の夜席には昼のお客がかなりいたとのこと。来年も参加するなら、そういうのもいいなと思う。

実に楽しかった。家内も息子も喜んでました。
文蔵師のステージなど観たかった気もするけど、楽しい落語が聴けたので私は満足です。
息子は様々な噺家さんを見て、「ぼくは今まで、ずいぶんいろんな噺家さんを聴いてきたな」って自分の浅い歴史を振り返り感慨深げだった。
家内など、これに味を占めて30日の芸協らくごまつりにも行きたいって言ってる。私ですら、どちらかひとつにしようと思っていたのに。
でも、そう言うんですから芸協のほうも行きましょうかね。芸協らくごまつりの落語会は、45分1,000円でちょっと高いけど。
噺家さんとの会話も、さらにスマートにしたいものです。

作成者: でっち定吉

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