「うーん、今日もまたアップしてやがる。なになに、またスキャンダルか。誰それが破門になっただの、師匠を訴えただの、腹立つな。これで広告収入まで得てやがるなんて、許せん」
「おとっつぁん、ぶつぶつ言ってどうしたんだい」
「おう息子、おかえり。小学校に上がる前からえほん寄席で落語好きになり、親父をおとっつぁんと呼ぶ息子よ。このブロガー野郎、ただのトーシローのくせにな、落語界のスキャンダルで集客して広告収入を得てるなんて、許せないなと思ってな」
「なんてブログだい」
「これだ。『でっち定吉らくご日常&非日常』というやつだ。まったくけしからん」
「なんだ。いつもの定吉親子が冒頭から登場したのかと思ったら、ぼくら二人とも偽者だったんだね。あれだな、偽ウルトラマンみたいなもんだな。視聴者には偽者なのが丸わかりなのに、劇中の登場人物は誰ひとり気づかないやつね」
「おまえこそなにぶつぶつ言ってるんだ。とにかく、噺家のスキャンダラスなネタで収入を得てるようなやつは、天が許してもこのオレが許さねえ。ドン」
「机叩いて怒ってるね。おとっつぁん、許せないとか言ってるけど、本当はうらやましいんじゃないのかい」
「ギク。わかる?」
「わかるよ、息子だもん。承認欲求がやたら強く根拠なく人を見下しがちだけどその実社会的な成功は収めていないから成功してる人がいちいちねたましいんだよね」
「冷静な分析をされると、事実だけに腹が立つな」
「おとっつぁんの子だからわかるのさ。オレもクラスの人気者をなんとか蹴落とそうと日々活動してるから」
「やな息子だね。まあ、親子だってことだな」
「おとっつぁんもブログ書いたらいいじゃないか。そして格調高い記事を書いて、でっち定吉ブログを蹴落すのさ。それでずっと多くの広告収入を得ればいいよ」
「そうだな。実はしばらく前からそう考えていたんだ。いよいよ始めるとするか」
「どうすんだい」
「成功は冷静な分析から始まる。でっち定吉の過去のブログを入念に調べたらヒントがあったぞ」
「おとっつぁん、ライバル視してるけどでっち定吉大好きなんだね。で、どうしたの」
「でっち定吉はな、もともと2016年から無料ブログで書いてたんだ。今はないヤフーブログな。この時のタイトルが「丁稚定吉らくご日常」。その後、スマホで丁稚が変換できないことに気付いて、『でっち定吉らくご日常』に変えるんだな。ヤフーブログが2019年になくなるとき、他の無料ブログに移らず、レンタルサーバーを借りてWordPressで記事を書くことにしたんだ」
「そうなんだ。ピンチをチャンスに変えたんだね。敵ながらあっぱれだ」
「レンタルサーバー代が、3年で4万円らしい」
「そんなにかかるんだね」
「最初はドメインも無料のだったらしい。sadakichi.xsrv.jpだ。このときにタイトルを替えて『でっち定吉らくご日常&非日常』にしたんだ。無料ブログ時代からアフィリエイト広告は張ってたんだが、これは大して売り上げが上がらない。なにしろ、クリックするだけじゃダメで、商品を購入してくれないと売り上げにならないんだよ。それで、Google AdSenseの広告を張りたくなったらしいんだな。これだとクリックだけで収益になるんだ」
「そうなんだ。参考になるね」
「ただ、無料ドメインのままだとGoogle AdSenseの審査に通らない。ブログは順調だったんだが、ついに2021年5月、自己のドメインを取って再度ブログを移転する。このときタイトルを『【令和版】でっち定吉らくご日常&非日常』に替えて、同時に取ったのが、detchisadakichi.comというわけだ。笑うよな、デッチサダキチドットコムだってさ、くそだっせーの」
「そういうおとっつぁんはどういうタイトルにするのさ」
「考えてあるぞ。『手代伊八の落語界かんさつ日誌』なんてどうだ。ドメインはtedaiihachi.com」
「・・・丁稚よりは手代のほうが偉いってことだね。おとっつぁんのマウンティング気質が見てとれるね」
「いきなり番頭を名乗らないところが奥ゆかしいと思わないか」
「傲慢な癖に自分では謙虚だと思っていたいのがおとっつぁんらしいね」
「それでだ。でっち定吉の野郎、くそだっせードメインを有料で取って、Google AdSenseを申し込んだそうだ。古いほうが残っているうちは審査に通らなかったそうだけど、前のを消したらすぐ通ったらしい。まあ、こちとらノウハウだけいただきさ」
「そうか。でっち定吉は第3形態で今の姿になったけど、おとっつぁんは最初から完成形で始めるんだね」
「そのとおり。そしてな、毎日更新するぞ。定吉も4年ぐらい連続更新してたらしいし、こんなもの誰だってできるはずだ。今の1日のアクセスが400ぐらいあるらしいけどな、そんなものオレが1年・・・いや2年で抜いてやるぜ」
「2年でも抜けたらすごいね。けど、なに書くの」
「そうだな。集客しないと話にならないからな。みんな大好きな女流落語家のおっかけから始めてレポしよう」
「それはやめてください。おとっつぁんがストーカーになったらぼくも困ります」
「そうか残念だな。かわいい女流だったら落語がヘタでも全然いいんだけどな。じゃあまあ、寄席と落語界のレビューだろ、古典落語の紹介だろ、噺家の紹介だろ。そうだ、おとっつぁんはお笑い好きだから、寄席だけじゃなくて期待の若手芸人も取り上げちゃうぞ」
「本家のでっち定吉はなに書いてるの」
「そうだな。噺家の批判だろ、落語界の師弟スキャンダルだろ、小難しい落語の構造分析とかな。それから寄席・落語界のレビュー、古典落語や噺家を個別に取り上げたり、M-1の批評したり」
「後半、おとっつぁんの目標と全部被ってるよ」
「しまった。そうか、差別化するためには、やっぱり新作落語を作ろう」
「それもやってるんじゃないの、どうせ」
「・・・やってるな。なあに、落語協会台本募集で落ちてるようなヤツなど、俺の敵じゃないぜ」
「手代伊八さん、今日はありがとうございます」
「おや、息子でない声がするぞ。誰だ」
「でっち定吉です」
「なんと、本物じゃないか。なにしに現れた」
「今日のネタに困ってたんですが、おふたりのおかげで1本小噺ができました。また困ったときにはご登場よろしくお願いします」
「まさかのメタ構造か。漫画家が作品中に登場する、手塚治虫以来のパターンだな。うちの親子をダシにしやがって。まあいいや、定吉さん、ひとつ教えてくれ。結局あんたブログでいくら儲けてるのさ」
「青山に、多磨ってとこですか」
「なんだそりゃ」
「ぼちぼち」